採用の最優先ターゲットは「意欲と柔軟性のある未経験者」
「経営指針書」でマインドとカルチャーを養成する石黒健太流教育に迫る!Vol.1

採用の最優先ターゲットは「意欲と柔軟性のある未経験者」 「経営指針書」でマインドとカルチャーを養成する石黒健太流教育に迫る!

石黒健太税理士事務所 所長 石黒 健太

労働人口の減少に伴い、理想とする人材の採用はますます困難な時代となっている。昨今では、やっとの思いで採用に成功したと思っても、就労開始から数日で退職というケースも。税務会計の業界でも、優秀な人材確保が困難なことは決して他人事ではない。そうした中、とかく経験者が優遇されることが多い税務会計業界において、未経験者の採用を積極的に行っているのが京都市南区にオフィスを構える石黒健太税理士事務所だ。所長の石黒健太氏が考える「未経験者採用のメリット」とは。さらに、人材定着とその成長活躍を後押しする、独自の研修体制についてお話をお伺いした。

積極的に未経験者を採用!
「未経験者の活躍を可能にする」仕組化の内容とは

黒とグリーンを基調にした色使い、マンガ絵の利用など、貴所の「求人情報」サイトは、良い意味で会計事務所らしくない、と感じました。
若者に刺さる、疾走感あるサイトデザインですが、あれは事務所サイドから「こうしてほしい」とオファーを出されたのでしょうか。

石黒健太税理士事務所 所長 石黒 健太

以前は、所内の担当者がつくってくれた、ごく一般的な採用ページでした。ですが私たちが求めている人材層にしっかりと届く採用ページをつくろう、と考えて外部のホームページ制作会社へ制作を依頼したのです。打ち合わせを重ねる中で、当事務所が求める人材像なども色々とお伝えしました。
そうして提案いただいたのが2つのデザインプラン。一つが真面目で一般的な税理士事務所っぽいデザイン。もう一つが、「求める人材に声を届けるべく、ここまでデザインを尖らせてみませんか?」と提案いただいたデザイン。現在ご覧いただける採用ページは、後者をベースとしたデザインです。


今回、採用ページでよりダイレクトにメッセージを届けたいと考えた、「貴事務所が求める人材像」とはどのような方々なのでしょうか。

何か別の業種で勤務した経験があるけれど、思うところあってキャリアチェンジしたいという方。キャリアチェンジ先として税務会計の業界を選び、意欲的に新しいことへチャレンジができるという方。そうした方々をターゲットにしています。第二新卒の方が一番イメージに近いかもしれません。
未経験の方ですから、当然失敗もします。ですが、新しいことへの挑戦心やスピード感を意識できる方は、やはり成長スピードがまったく違いますね。そうした意欲と柔軟性に富んだ人材が当事務所での業務を通じて成長を重ね、将来の中核を担うような存在になってもらえたら、と考えています。その際に、資格の有無は問いません。体系的に勉強した方が実務には有効だと考えているので、その観点から資格取得は奨励、支援していますが必須とは考えていません。
一方で、専門サービスを提供する上で、品質管理は大事なポイントです。そうした面は、外部の経験豊かな在宅ワーカーさんや、提携税理士の方に品質担保のサポートを依頼してクリアしています。

よく採用の現場では「経験者は奪い合いの感があり、獲得しがたいから未経験者を採る」という話を伺います。
ですが、貴事務所からは「仕方なく」という考え方とは異なり「積極的に未経験者を採りたい」という意思を感じます。未経験者採用のメリットとは、どんな点にあるとお考えですか。

未経験者の方の魅力と言えば、まずルール順守の意識が高いことが挙げられます。業務の割り振りに応じて、「ここまでやったら、次の方へ渡す」とか、あるいは納期や期限の約束をしっかり守る、といったことに対して、なまじ経験があるばかりに「この程度はいいだろう」「これくらいは遅れても大丈夫」とセルフジャッジする、ということがありません。当事務所ではそれぞれ役割分担を決めて、皆で協力して業務を進める働き方をしています。そのため、スタッフ個々にきちんとルールを守ってもらうことが本当に大事なのです。

逆に「未経験者の採用」であればこその苦労は、どのような点になるのでしょうか。

暗黙知、と言いますか。未経験の方とは個々の経験などに基づく言語化しがたい「こういう時はこうだよね」という知識の共有ができないので、品質管理には気を配っています。その一環として「このプロセスを踏めば安心」「この点は必ず注意する」といった仕組みを所内で整備し、経験がなくても、正規の流れに沿って手続きを踏んでいけば対応できるような体制を整えました。また品質管理が重く求められる案件では、外部の税理士にチェックをお願いしています。

お客様への月1の報告会も、報告する流れや話す内容を標準化し、基本はすべて担当者がお客様対応を行えるようにしています。とはいえ、報告会でもお客様とのグループチャット上でも基本的に私やスタッフの上司が加わっていて、いざという時には詳細な説明や対応もできるように準備はしています。そこまでお客様にサービスコンセプトをお伝えすることで、ご理解ご満足をいただいています。

こうした「未経験者も活躍できる業務の仕組化」は、どのようなきっかけで導入されたのでしょうか。

実は開業当時から、この「未経験者が活躍できる体制」を方針として事務所づくりを進めてきました。以前勤務していたビック4の税理士法人では、業務が細かく合理化されており、私はもっと自由にやりたいと考えて、小規模な事務所へ転職しました。すると今度は業務が非常に属人化しているのを目の当たりにしました。それでは事務所として大きくなるのは難しい。そこで、私は開業するにあたり、まずは属人化を避けたいと考えたのです。
開業前には、製販分離や業務の進め方について各所いろいろな見学会やセミナーにも参加し、そこで伺ったお話やいただいたツールも、大変参考にさせていただきました。ですが、工数管理による業務の受け方や品質管理については、ビッグ4時代に活用していたチェックリストやワーキングペーパーの考え方が土台になっています。そのままでは大手企業向けの仕様でしたので、お客様や自らの組織規模に合うようカスタマイズして、使用することにしました。
当事務所は、そもそも品質管理が強く求められるような案件やご依頼は、あまり受けないようにしています。未経験者でも仕組化の中で手続きに則れば対応できる。そういう案件をベースにして、「どうしても」というお声があれば工数管理に基づいて+αの価格を設定する。こうした単価設定を導入し、その場面で前職の工数管理システムを活用しています。おかげさまで「顧問料」というブラックボックスの中で「何でも対応する」という縛りからも解放されました。工数に応じた正当な価格をいただきながら、その結果は年1回の業務見直しにおける価格交渉などにも反映できるようになったのです。

充実の研修体制で未経験者を一人前に
更にその先にあるマネジメント層の育成も万全!

未経験者採用を行うとなれば、スタッフの育成も重要なポイントになるかと思います。
人材の育成や研修体制について、どのようにお考えでしょうか。

未経験採用に注力するにあたり、入社して3年目までの研修カリキュラムは組んでいます。当事務所が開業して8年目になりますが、早い段階から研修や教育は重視してきました。本当に最初の頃は、税理士が自分一人しかいない状況で、「いないとき」にどう学んでもらおうかと悩んで…。自分が語って説明する「解説動画」を撮影したりもしました。ですが、もっと体系立てた学びの場が必要だと考えるようになり、その頃に出会ったのがビズアップ総研の研修プログラムです。ですので、わりと早い段階で導入させてもらいましたね。
いろいろと研修体制を整えることで、やはりスタッフ間の雰囲気や意識が変わったと感じています。仕事を続けるために、日々学ぶことを当たり前と捉える。そんな前向きに勉強する姿勢が醸成されたことで、成長スピードも増しました。

具体的には、どのような研修を行われているのでしょうか。

例えば当事務所には、全100ページに及ぶ経営指針書があります。これは事務所の経営理念や価値、行動基準、中期経営計画、具体的な業務内容やその進め方のルールまで文書化されたものです。当事務所では、この経営指針書を週1回、全員で読み合わせしています。事務所の一員として共に働くにあたり、折に触れて立ち返る資料として活用しているのです。
この経営指針書は、今日この日も進化を続けています。例えば未経験採用の積極化や業務の仕組化などで都度ルールやマニュアルがつくられますよね。それがバラバラに置かれていると形骸化してしまったり、いつの間にか運用されなくなったりということも出てきます。ルールなどがきちんと現場や日々に浸透するように、毎年、経営指針書に記載する内容を見直し、改定を行っています。
そうした内容を週1回、皆で見直し、意見や考えを発表し合う。すると、「私はこの価値観が好きです」「今日、こういうことがあったのだけど、記載内容を思い出した」といったように、良い意見が出てくるのです。

皆で話し合い、皆で考える。こうして事務所として大切なことを共有し、浸透させることができていると感じます。
実はこの指針書、漫画家のアシスタントをしている方に依頼して作っていただいた漫画も載っています。制作した冊子は、当事務所の考え方や価値観を理解いただけるようにと、新入所員はもちろん、お客様や外部の税理士の方にもお配りしています。


新入所員やマネジメント層など、段階に応じた研修なども組まれているのでしょうか。

未経験の新入所員には「入社1年目の教科書」のワークブックとドラッカーの書籍を使って、研修を行っています。ワークブックや書籍を読み、考え方に触れて、各々がどう感じたかを共有する。こうした機会を設けることで、価値観や考え方、行動方針を皆で共有しながら理解を深められるよう努めています。2週間に一度、午前中の3時間を使って、1時間はドラッカー、1時間はワークブック、1時間はマナー研修、といった形です。
それ以外にも週1でビズアップ総研の研修プログラムや、チームで決めた研修テーマを学習する時間をとっています。そして、OJTの場で後進の指導にあたるチームリーダーには、外部講師の方をお迎えしてコーチング研修も受講してもらっています。このように、学ぶ機会は豊富にある事務所だと自負しています。
また、マネジメント層にあたるスタッフの育成はもちろん、特に未経験者の育成という観点においては、ミドルマネジメント層の教育を重視し、積極的に取り組んできました。当事務所における「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の役割を明文化し、「マネジメントブック」として整理。これを使い、マネジメント勉強会をスタートしました。
マネジメントとして求められる責任や、与えられる権限、その過程で必要となる、コーチングやファシリテーションなどのスキル。こうしたものを学んでもらい、個人の成果からチームの成果へと意識を変えてもらう。マネージャーとして、どうあるべきか、どう接するべきかなどの相談にも乗り、議論もしながら身に付けてもらう機会としています。 週1回のミーティングの場では、チームの状況確認と相談対応、月1回はマネージャーとの1on1を設定しています。

プロフィール
石黒健太税理士事務所 所長 石黒 健太

京都を拠点に、起業家や中小企業の成長支援に注力する実践型税理士。2016年に滋賀で開業後、2018年に京都駅前へ拠点を移し、開業から5年で年商1億円を突破。現在ではスタッフ20名規模の体制を築き、未経験者を一人前に育てる教育・評価制度と、組織として再現性ある成果を出す「カルチャー経営」の仕組み化に取り組んでいる。2023年からは税理士向けのコミュニティ「1億突破会」を主催。
人材育成においては、1on1、月次フィードバック、評価シートの運用、行動指針の浸透を通じて、スタッフの自走力とマネジメント力を体系的に強化。実務経験ゼロからでも1年で戦力化できる育成フローを確立し、クラウドツールやAIも活用して、成長と生産性を両立させている。
事務所内では「マネジメントブック」や「経営指針書」を活用し、行動の背景にある価値観や思考法を共有。組織全体での価値観の共通化・実践を進め、職員一人ひとりが事務所の理念を体現する文化を育んでいる。

【受賞・認定】
 •マネーフォワード プラチナ会員事務所
 •経営革新等支援機関 トップ100事務所(5年連続受賞)
 •船井総研 税理士事務所研究会 優秀賞
 •京都府ライフ・ワーク・バランス認証企業

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