年収900万円の源泉は高単価戦略にあり
23万人のYouTube登録者を原動力に事業拡大図る 若き税理士の次の一手は? Vol.2

税理士法人グランサーズ 代表社員 辻哲弥

税理士法人グランサーズ 代表社員 辻 哲弥

税理士法人グランサーズは、登録者数23万人を誇るYouTubeチャンネル・『社長の資産防衛チャンネル』を運営。YouTube経由での問い合わせが軌道に乗り、採用情報のページには「年収900万円以上」のフレーズが躍るほど経営は順調だ。グランサーズのかじ取りを担うのは、税理士の辻哲弥先生。会計業界で得た知見をいかし、エンターテインメントなど他業種への進出にも意欲を見せている。SNSを駆使し、業界の枠を超えた挑戦を続ける辻先生に、その経営戦略を伺った。

高待遇をどうやって生み出すか
会計業界は勇気をもって値上げを

自信をもって提供しているサービスというのは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

税理士法人グランサーズ 代表社員 辻哲弥

例えば、「SNSコンサルティング」は弊社の特徴的なサービスの一つといえるかもしれません。
YouTubeのほか、私個人としてもXやInstagramなどのSNSでフォロワーを増やすなどの成果を出せた実感があるので、そのノウハウを経営者の方々にお伝えしています。顧客の決算書を見ながら、「コストを払って営業活動するよりも、自分でSNSを運用して集客を行った方が効率的」と提案することもあります。YouTubeのタイトルにも掲げている通り、「資産を守る」というのが弊社の役割だと考えています。
そのためには、今ある資産をどう効率的に使うか、という観点がとても重要なのです。SNSは、誰でも気軽に始められるというメリットがあるので、特に、起業して間もないような若い経営者の方々に好評いただいています。


「SNSコンサルティング」は、通常の顧問契約の範囲内で対応しているのですか?

ごく基本的なSNSの話が中心になりますが、ある程度までのアドバイスは通常の顧問契約の中で行っています。毎月の顧問面談の際に、「どうすればフォロワーを増やせるのか」「動画の再生回数を伸ばすコツ」をお伝えするなど、それほど労力のかからない範囲のコンサルティング業務が中心になっています。実作業を伴うようなサービスになると別途費用をいただくこともありますが、今申し上げたような内容の相談には、面談でお会いした際にアドバイスをするなど柔軟に対応しています。
もちろん、いわゆる「高付加価値」といわれる経営コンサルティングサービスにも力を入れていますし、そうした多様なサービスを高品質で提供できているからこそ、料金体系にも妥協しないのです。

低い水準のまま料金体系が据え置かれてしまっている例は、よく耳にします。

料金が安価に抑えられてしまう点に、会計業界の問題点があると私は考えています。料金の水準は、当然、社員の給与水準にもある程度反映されます。料金が安ければ給与も上がらない。社員のモチベーションも下がって、離職者も増えるかもしれません。その結果、いわゆる「ブラック企業」に成り下がってしまう会計事務所も出てきてしまうのではないでしょうか。
もちろん、顧客の理解なしに、やみくもに料金を引き上げることはできません。ただ逆にいえば、秀でたサービスを提供できている自信があるのであれば、値上げも躊躇すべきではないと強く思います。ですから弊社も、サービスに見合う料金体系を設定しているのです。

「年収900万円」という触れ込みは、採用活動にもいい影響を与えそうですね。

ご多分に漏れず、弊社も、人手不足の状況は否めません。本音をいえば、人手はあればあるほどいい。ただ一方で、業務が円滑に回る程度には社員が集まってきています。しかも、優秀な人材が弊社に振り向いてくれている点も非常に嬉しく思っています。いいサービスを提供するにはいい人材が必要で、そのためには十分な給与の保障が不可欠な訳です。さらに、「この事務所でなら成長できそう」「やりがいがありそう」と感じてくれる社員が多いのも非常に嬉しいことです。

税理士法人グランサーズ 代表社員 辻哲弥


どうすれば、「高単価」→「働き手確保」という好循環が生まれるのでしょうか?

会計業界を見ていると、記帳処理をはじめ、最低限の作業しかしていない会計事務所もまだまだ多く、顧客に本当の意味で価値を感じてもらえる提案ができていないと感じています。税理士の多くが税務以外にあまり関心を持たず、経営やマーケティングなどに学びを広げようとしない傾向がある。売上改善やコンサルティングにまで踏み込んでこそ、この業界の価値は上がるのです。逆にいえば、そうした努力ができれば、料金体系を上げる余地は、この業界にはまだあると思っています。そういう意味では、大きな伸びしろがある業界なのです。業界全体の給与の水準を引き上げて、もっと夢のある業界にしていきたいです。
また課題として、会計業界は業務を進めるスピードが遅いなと感じることがあります。IT業界などと比べると、どうしても腰が重く見えます。他業界に負けないよう素早く動かなければ、優秀な人材は他業界へとどんどん流れてしまいます。そうした、会計業界の様々な課題を改善するきっかけを、弊社が与えられたらと思っています。


必要なのは「人間力」
他業種にも視野広げ 会計業界を盛り上げたい

ちなみに、辻先生が仰る「優秀な人材」とは、具体的にどんな能力を持っている方のことですか?

何事も主体的に考えられる人材です。弊社では、業務にAIを積極的に活用しています。AIの活用は今後の業務に欠かせないですし、コンサルティング業務との相性もいい。社員教育の中にも、AIをどう活用するかといったテーマは組み込んでいます。業務の効率化に役立つのも間違いないでしょう。
しかし同時に、人間の力というのも、会計業界には絶対に必要だと私は考えています。数字を見ながら課題を見つけ、顧客に納得してもらえるような伝え方で、根拠を示しながら「こうした方がいいですよ」と提案できる力こそ、税理士に求められているのです。AIは、分析はしてくれますが、そこに主体性をもって提案する力、顧客を説得するためのコミュニケーションスキルは、人間にしか備わっていません。私は、そうした人材こそ、この業界に必要だと考えています。

業界に変化の兆しはあると思いますか?

特に、私たちのような若手世代は、危機感を持っている人が多いと思います。AIの進化や顧客ニーズの変化を感じて、従来のような業務をただ惰性で続けているだけでは通用しなくなると感じている人たちも増えています。そういった人たちが、新しいスタイルの会計事務所を作っていくと期待しています。だからこそ、学び続け、挑戦し続ける必要があると考えています。

辻先生ご自身は、今後はどのように事業を展開していきたいとお考えですか?

やりたいことは本当にたくさんありますが、まずは、YouTubeやXでの発信を通じて自分の知名度をさらに高めて、会計業界内外のより多くの方々とつながっていきたいと考えています。それによって、採用の幅も広がりますし、他の会計事務所との連携も深められるかもしれないと期待しています。将来的には、エンターテインメント系のプロジェクトにも挑戦したいと思っています。

エンタメ、ですか?

会計事務所が、会計業務だけに固執する必要は全くありません。より広範な事業に乗り出して、企業の規模を拡大していくという戦略があって然るべきだと私は考えています。
最初は、会計業界で培ってきた税務・会計や経営についての知識をいかしたビジネス系のイベントから始めて、ゆくゆくは音楽や演劇、アイドルなどともコラボしながらやってみたいですね。個人的に、エンタメ業界にはこれからも成長の可能性があると思っていまして、その成長や新たな発想の中心に自分が立つようなイメージを持っています。まだ漠然としていますが、最終的には東京ドームでイベントを開催できるくらいの大きなプロジェクトを動かしていきたいと考えています。

そのために、今の活動があるのですね。

今やっている情報発信やコンサルティング業務など、すべてが将来につながっています。知名度を上げることは目的ではなく、「多くの人を巻き込める力を持つための手段」だと思っています。

先生の姿は、若手の税理士の方々の励みになるかもしれませんね。

私も含めて若い税理士は、「税理士の仕事はとても尊い」ということを再認識するべきです。税理士は、経営者の懐に入り込み、決算書という最も重要な情報に触れられる立場にあるからです。そこで問題を読み取り、未来に向けた提案ができる。これは他の職種ではなかなかできないことです。
ただし、その立場にあぐらをかいていたら、淘汰される時代が来ると思います。だからこそ、経営者と本音で対話し、何に困っているのかを聞き出し、行動に移せる力をつけていってほしい。その姿勢が、業界の未来を変えていくと信じています。
私も、その一助になりたいと考えています。そのためにまず、弊社の価値をさらに高めていく。そして、その先にあるコンサルティング業務やエンタメ的な活動も本格化させていきたいです。業界を変えるというより、業界の枠を超えて、面白く、価値あることを次々と仕掛けていける存在になりたいです。

税理士法人グランサーズ 代表社員 辻哲弥
プロフィール
税理士法人グランサーズ 代表社員 辻哲 弥

公認会計士・税理士。1998年生まれ。有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事したのち、23歳で「日本一若い会計事務所」としてACLEAN(アクリーン)会計事務所を設立。2023年、同事務所を税理士法人グランサーズと統合し、代表に就任。中小企業の税務顧問対応に加え、内部統制構築支援、組織再編、事業承継などの専門性の高い支援を提供。クラウド会計など最新のデジタルツールを活用した経理効率化にも力を入れている。
さらに、会計人材の育成にも注力。現場で即戦力となるスキルを備えた人材の輩出を目指し、若手人材への実務教育、キャリア支援、情報発信を積極的に行っている。近年は、SNSやコンテンツ発信を通じて、次世代の会計プロフェッショナルの育成・啓蒙にも取り組む。

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