新潟県N0.1、働きがいの頂点へ!
新卒を定期採用できない状況からエントリー数200人超に激増した秘密を暴く Vol.1
FUN税理士法人 代表・公認会計士・税理士 山岸 賢太朗
優秀な人材を採用したいのにコレはという応募者が少ない、せっかく入所した新人がすぐ辞めてしまう――。全国の会計事務所が頭を抱える深刻な問題を解決したのが、新潟県新潟市のFUN税理士法人。代表の山岸賢太朗先生が採用活動の前面に立つようになり、新卒を定期採用できない状態から一転、今では200人超のエントリーを集めるまでになった。さらに応募者の志望度も高まり、離職防止や定着につながっているという。採用活動の成功の秘密はいったい何なのか、山岸代表を直撃した。
人材採用は「先行投資」という考え
新卒採用に力を入れるようになった背景を教えていただけますか?
私が入社した2013年から2021年まで新卒入社は2名という状況で新卒の定期採用が難しく、人が辞めたら補充採用していく形で、中途採用やパート採用が中心でした。そして弊社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に共感した優秀な人材を採用したいが、中途は安定して採れるかどうかもわからないところがあり、人材採用自体を「先行投資」としてしっかりやるべきではないかということになりました。
そこで補充採用から定期採用に切り替え、特に新卒採用に重点を置くようにしました。ここ3年はある程度の母集団から新卒を採用する流れが定着したので、これまでの結果がやっと出てきたと感じています。既存の職員の定着を図るためにも、人はある程度多めにいた方がいいのでこのペースで続けていきます。
欲しいのに、なかなか人が集まらない状況だった
今でこそコンスタントに新卒採用できていますが、21卒までは新卒の定期採用ができていませんでした。実態としては「欲しいけれども人が集まらなかった」という状況でした。最終的に欲しい人材を採用するためには、一定数の母集団から選ぶ必要がありますが、そこまで応募がなかったのです。
さすがに「これはまずい」と思い、方針を変えることにしました。 まずは人材採用サイトを立ち上げ、事務所として求める人物像を明確に示し、インターンシップを強化することにしました。それまでは採用担当者に全てを任せていましたが、私が直接やることにしたのです。「このままではどんどん人が採れなくなる」という危機感からの決断でした。
自ら「採用委員会」委員長として人材採用の陣頭指揮を執る
さっそく採用委員会の委員長となり、22年卒採用からは私が採用活動に前面に出て話す場を増やしました。オンライン事務所説明会では、学生が自分と合うかの判断材料にしてもらうために、弊所の理念や実態を70分ほどかけて丁寧に説明することで、共感してくれた人に入所してもらう流れができました。
ここ数年は毎年エントリー数が200名以上集まる状況が続き、そこから毎年2名ほど入所する状況です。
ようやく新卒の人材採用も安定してきたので、今は他の職員に委員長を任せています。というのも、志望する学生とより近い年代の職員に対応させた方が、入所後のイメージや親近感が湧きやすいと思ったからです。年次の浅い1年目や2年目の職員を積極的にメンバーに入れているのは、そういう意図です。
25年卒の採用では早期選考にも挑戦し、内定辞退もありましたが、最終的には内定を出すことができました。
中途採用VS新卒。どっちがより効果が高いのか
「中途人材はなかなか安定して採れるかわからない」とのことですが、新卒採用では教育負担がかかる面もあります。
それでも新卒がコンスタントに入ることの効果は大きいとお考えですか?
目先の業績を上げたいなら、たしかに中途経験者を採用するのが正解かもしれません。ただ弊所の場合、より長期視点で人材採用を捉えています。短期ではなく10年スパンで「どのように成長し、活躍してくれるか」です。
新卒の方は素直に事務所の方針を吸収しますが、中途の方は「前の事務所ではこうだった」と経験語りをする方も少なくありません。新卒にはそういうことがない点がいいと思います。事務所の価値観を共有する際も支障なく受け容れてくれるので、弊所では新卒の方が合うと感じています。
今、事務所に残っているメンバーもほぼ新卒か中途の未経験枠で入った職員ばかりです。そういう点は他の税理士事務所と異なる点です。
「経験」より「人柄、素直さ」が重要。個々の持つ可能性を信じる
こういう採用方針に至ったのも、人柄を重視しているためです。今まで何度か経験者の面接を担当しましたが、お話を聞いていて「うちの事務所と合わないだろうな」と感じる機会が多かったのです。
弊所には銀行出身者など異業種からの応募も多いですが、良い意味で「会計事務所っぽくない」と言われます。たとえ入所時には会計に関する知識がなかったとしても、人柄を見て弊所に合う新人を採用する方が長期的に見ても良い結果につながりやすいと実感しています。
また、新卒を採ることで事務所内の平均年齢が若返り、組織全体の活性化にもつながるメリットもあります。
デメリットとしては、新卒者は何もわからないことが前提なので、教える側の負担が当然あることです。しかし、私はそこにも大きな学びがあると思います。教える側に立つことで初めてわかることは多く、結果的に先輩職員側が成長する機会にもなっていると思います。
弊所では、新卒者を育てるために「3年間はきちんと見よう」と言っています。
入所後のギャップ解消のために、「正直」に伝えることも大切
事務所説明会では先生ご自身が70分かけて積極的にお話されていたとのことでした。
価値観が合う人や人柄を見極めた上で人材採用をするためには、
やはりそこまでやっておいた方が良いでしょうか?
私はやった方が良いと思います。せっかく弊所に興味を持ってエントリーして、説明会に申し込んでくれた学生に対して行う説明会なので、事務所の実態や理念を知ってもらう場にしたいと思っています。それで、今は面接を受ける条件として説明会を受けるのも必須にさせてもらっています。
事務所として経営計画書を作ってミッション・ビジョン・バリューを示しているので、その方向性や価値観に合う方に入ってもらうことに注力しています。
弊所も「働きがい」と「働きやすさ」の両方を満たした職場環境を整えていきたいと思っていますが、働きやすさだけの観点で言えば、現状では地銀の方が働きやすいかもしれません。ですから、私は説明会でもそういう話を正直にしています。なるべく実態をお伝えするようにして、入所後のギャップが出ないようにきちんと伝えた上で合うか合わないかを判断してもらうようにしています。
こうした方針を理解して入所する新卒者も、もちろん働きやすさを求めているとは思いますが、同時に働きがいの方をより重視している職員が多いです。やはり入り口でしっかりと発信していくことが重要ではないかと思います。
少子化の中、学生に合うアプローチが必要な時代に
21卒以前の採用で苦戦していた理由をどう受け止めておられますか?
当時は採用者候補者の母集団の形成がうまくできず、こちらが「採用したい」と思う学生が集まらない状況でした。日本全体で少子化が進行している上、地方ということも満足のいく採用を難しくしていました。新潟県内だけでは大学生数は少ないですし、Uターン希望の学生に強く志望してもらえる存在にもなれていませんでした。そうした状況で前年と同じように新卒採用をしようと思っていても、応募数が下がるのもやむを得なかっただろうと思います。
新卒採用を続けていて、何か変化を感じる点はありますか?
21年卒と22年卒の大きな違いとしては、弊所でオンライン採用を導入したことによって新潟県外からの応募がかなり増えたことが挙げられます。また、21年卒まではあまり見られなかった現象として、大企業や300~400名在籍の大手税理士法人からの内定を断って弊所に入所してくれた学生が出てきたことがあります。
オンラインで説明会や面接を行うことで、首都圏や関西など県外の大学に通う優秀な学生にも広くアプローチしやすくなり、有力校の学生が毎年のように応募してくれるようになったのは、以前はなかったので非常に嬉しいですね。
プロフィール |
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FUN税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 山岸 賢太朗
1984年生まれ、明治大学商学部商学科出身 |