投資が身近な時代だからこそ徹底的に顧客に寄り添う
資産面から人生を支える2人の専門家が描く 業界の未来

株式会社Fan 代表取締役 尾口 紘一
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 藤野 英人

2008年設立の株式会社Fanは、IFA(金融商品仲介業者)として資産運用アドバイス、特に投資の相談に無料で応じるサービスを提供している。特定の金融機関から独立した立場という強みを生かし、全国に店舗を展開中だ。一方、レオス・キャピタルワークス株式会社は、「ひふみ」シリーズを通じて国内外の企業の成長を支え、顧客の資産形成に貢献している、資産運用アドバイスと投資信託運用の専門家。協力関係にある両者が共通して訴えるのが、投資の活発化の必要性。企業の成長を後押しし、顧客に豊かさを実感してもらうためには、これまで以上に投資の裾野を広げていく必要があると語る。Fanの尾口紘一代表取締役と、レオス・キャピタルワークスの藤野英人代表取締役社長に、資産運用業界の今後の展望と、税理士との連携の可能性について伺った。

投資で運用する意味とIFAの役割とは?

まずは、それぞれの事業内容からお聞かせください。

尾口紘一氏(以下尾口):弊社は、「投資信託相談プラザ」という、資産運用に関するさまざまな相談に無料でお応えする店舗を全国に展開しています。お客様が気軽に足を運べるよう、店舗は各地のショッピングセンターや百貨店内にも出店しています。
そこで、お客様一人ひとりの資産運用全般について、投資を中心にアドバイスを行っています。IFA(金融商品仲介業者)として、証券会社とお客様とをつなぐ役割を担っている。そのようなイメージですね。

藤野英人氏(以下藤野):レオス・キャピタルワークスは、2003年に私が創業した独立系の資産運用会社です。「ひふみ」シリーズを中心に、100万人以上のお客様から大切な資金をお預かりしています。
日本株はもちろんのこと、世界株や非上場企業への投資にも力を入れています。

レオス・キャピタルワークスでは、
クロスオーバー投資の投資信託の提供を昨年9月から始めました。
商品の特長をお聞かせください。

藤野:新たな投資信託は、長年構想を温めてきた商品です。長年要望してきた規制緩和が実現した結果、ようやく販売に漕ぎつけました。最大の特長は、未上場の株式を組み入れられる公募投資信託であるという点。これにより、誰もが未上場企業に投資できる道が開かれました。これは非常に意義深いことで、個人が、将来性ある未上場企業のオーナーになれるのです。
もしご自身が投資した会社が上場すれば、証券取引所で鐘が鳴る光景も、これまでとは違って見えるはずです。「遂にここまで来たか」という深い感動を覚えるのではないでしょうか。

会社のオーナーであるという実感が湧きそうですね。

藤野:そうやって投資が活発になれば、成長企業を力強くサポートできます。そして高いリターンが生まれれば、結果的に社会全体にとってプラスになるのは明白です。未上場の会社にとっては自社の魅力を伝える機会になりますし、上場後には、投資信託を通じてファンになったお客様が、今度は直接その会社の株主になってくれるかもしれません。新たな投資信託は、そうした好循環を生み出すために不可欠な商品でした。運用残高は現在、260億円ほどになりました。当初90億円からのスタートでしたので、順調に拡大しています。
当面の目標は、早期に大台である1,000億円に乗せることです。そこまでいけば、未上場株式へ100億円規模の投資が可能になり、社会に与えるインパクトも格段に大きくなります。その水準を目指して邁進していきます。

Fanとレオス・キャピタルワークスはどのようなご関係なのでしょうか。

尾口:私たちは、レオスさんの“投資を文化に”という考え方に強く共感しています。“資産運用をあたりまえに”という私たちの想いとも通じる部分が多く、これまでに資産運用に関するイベントを共同開催するなど、投資のすそ野を広げる取り組みも行ってきました。
今後も志を同じくするパートナーとして、投資文化の定着に貢献していきたいと考えています。

藤野:Fanさんとは、競合というより、共通の目標を持つ協力関係にあります。互いに「日本の投資をさらに活発にしたい」という想いで固く結びついています。

預貯金ではなく、「投資」で資産運用するメリットはどこにあるとお考えですか。

尾口:長年デフレが続いた日本でも、ここ最近、物価が上昇に転じました。これは、現金で資産を保有していると、その価値が実質的に目減りしていくことを意味します。こうした環境下で大切な資産をどう育てるか。その最も合理的な手段が「投資」であると弊社は考え、お客様にご説明しています。

藤野:いわゆる「お金持ち」と呼ばれる方々は、実は資産の大部分を現金で持っているわけではありません。銀行預金の金利だけで資産を増やしている例も稀でしょう。やはり、現金や預貯金に過度に依存せず、株式や不動産といった資産に適切に投資できるかどうかが、資産形成の鍵を握るのです。
ところが、多くの方は目の前の「お金」を大切にし過ぎる傾向があります。「手元にあるこの1万円が愛おしいから、どこにも行かないでほしい」と、まるでお金を甘やかしているかのようです。そうではなく、自分が稼いだ「お金」に、自分以上に働いてもらう。その意識こそが、資産を増やし、豊かさを実感するために不可欠です。

投資に関心を持つ方々に対し、客観的な立場で助言できるIFAの役割が重要になりますね。

尾口:IFAという業態は、まだ規模が小さく、世間的な認知度も決して高くないのが実情です。
しかし、ネット証券が普及し、投資へのハードルが着実に下がっている今だからこそ、IFAが果たすべき役割は非常に大きいと感じています。手数料が比較的安価で手軽なネット証券の口座数は著しく増加しています。YouTubeを開けば「このファンドが良い」といった解説動画もすぐに見つかる。商品を買うだけなら誰でも簡単にできる時代です。
ただ弊社では、投資で最も大切なのは「お客様がどのようなライフプランを描いているか」だと考えています。その観点に立てば、そもそも投資が不要な方もいらっしゃいますし、その場合は率直にそうお伝えします。私たちの使命は、お客様の人生を資産面から支えるアドバイザーになることですから、安易に低コストのインデックスファンドを推奨するような画一的な対応は一切行いません。
また、手軽さの裏には、トラブルに巻き込まれる危険性も潜んでいます。最近では、口座の乗っ取りやフィッシング詐欺など、ネット証券にまつわる被害も後を絶ちません。弊社のようなIFAに事前にご相談いただければ、そうした被害を防ぐための仕組みをご説明できますし、もちろん、各証券会社の商品についても詳しくお話しできます。相談料はいただいておりません。「お金の相談」には抵抗があるかもしれませんが、IFAにできることは多岐にわたると自負しています。
お客様の心理的なハードルを少しでも下げられるよう、IFAの役割について積極的に発信していきたいですね。


ネット証券全盛の今こそ、税理士との連携が求められる

ネット証券の登場は、資産運用の世界を大きく変えたのですね。

藤野ネット証券の成功とIFAの台頭は地続きの話であり、両者ともに「投資の民主化」に貢献したと捉えています。

「投資の民主化」ですか。

藤野:ええ。つまり、一個人が、時間や場所の制約なく、投資の恩恵を受けられるようになった。このインパクトは計り知れません。NISAの普及も後押しとなり、ネット証券を通じた投資は日本でも急速に拡大しています。

しかし、これが初心者にとって適切かというと、必ずしもそうとは言えません。手軽さの一方で、助言や仲介を担う存在がいないため、専門的な知識やサービスを受けられず、知らないうちに資産を減らしてしまう事態も起こり得ます。こうした事態を防ぐ役割を担うのが、尾口さんたちIFA業界だと思うのです。投資の始め方が分からない、どんな商品を選べば良いか分からないなど、いわば路頭に迷っている方は、実は非常に多くいらっしゃいます。そうした方々に寄り添い、適切なアドバイスを提供するIFAは、まさに「投資の民主化」を推進する原動力であり、弊社にとっても心強い存在です

IFA業界の今後の成長に、税理士が貢献できる余地はあるのでしょうか。

尾口:むしろ、税理士の皆様のご協力は不可欠だと考えています。一般的に「投資」と聞くと株式を連想しがちですが、実際には国債などの債券や、藤野さんが扱う投資信託など、多様な選択肢があります。
当然ながら、それぞれリターンやリスクの特性は異なります。個人の資産状況やライフプランによって、適切な投資対象は変わってくるのです。税理士の先生方は、お客様との面談の場などで投資に関するご相談を受ける機会もあるかと存じます。その際、もちろん「株を積極的にやりなさい」とは言えないでしょう。
しかし、一般的な投資の知識をお話しいただいたり、IFAという専門家の存在をお伝えいただいたりするだけでも、IFA業界の裾野は大きく広がっていくのではないかと期待しています。

藤野:尾口さんと同意見です。私は、税理士は「中小企業の味方」というイメージを抱いており、常にお客様の資産状況に真摯に向き合っていると認識しています。IFAも全く同じです。特定の金融機関から独立した立場のIFAは、お客様に寄り添う資産運用アドバイスのプロです。IFAと税理士が連携すれば、投資に関心のある方々にとって、非常に安心感のあるプラットフォームが構築できるのではないでしょうか。


リスクとの付き合い方
極論を避け、少額投資から着実に

一方で、投資にはリスクが伴います。元本割れを懸念して、
一歩を踏み出せない方も少なくありません。
投資への恐怖心を和らげるために、どのような工夫をされていますか。

藤野:とにかく、一つひとつ丁寧に説明することに尽きます。もちろん、説明の深度はさまざまで、ご親族からの勧めがきっかけという段階から、投資セミナーで学んだという段階までいろいろです。
しかし、いずれにせよ、一度の説明で納得して投資を始められる方は稀です。私の経験上、少なくとも5回程度は説明を受けないと、なかなか踏み出せないものです。ですから、弊社に来られたお客様には、ご納得いただけるまで誠心誠意ご説明を尽くします。

具体的には、どのようなご説明をされていますか。

藤野:ケースバイケースですが、「極端なことはやめましょう」というお話はよくしますね。お客様の中には、「全資産を投資に回すか、全くやらないか」という二者択一で考えてしまう方が少なからずいらっしゃいます。「今1,500万円あるので、全額『ひふみ』に投資します」といったご相談も受けますが、それは極端なのでやめましょう、とお伝えしています。投資には順序があり、最初は少額で良いのです。少額でも、それは立派な投資です。
たとえば、100万円の資産を持つ方が全額を投資するのはリスクが高いですが、そのうちの5万円であれば、心理的な負担は大きくないはずです。私はよく「資産の10%程度から始めてみませんか?」とお話ししています。このハードルなら、多くの方にご納得いただきやすいと実感しています。

納得感を得るために、何度も工夫を凝らして説明されているのですね。
コミュニケーションを非常に重視されているのが印象的です。

藤野:「投資」という言葉のイメージとは少し違うかもしれませんが、弊社のやり方は極めてアナログです。「ひふみ」シリーズの運用残高は今や1兆円に迫りますが、当初はわずか1億円からのスタートでした。そこから、セミナーを開催し、北海道から沖縄まで全国を何十周もして、一人ひとりお客様を訪ね歩いたのです。そうした地道な取り組みなくして、お客様からの信頼は決して得られません。

尾口さんは、投資への恐怖心を和らげるためにどのようなことを心がけていますか。

尾口:藤野さんが仰った通り、誠心誠意ご説明することが基本です。弊社も創業以来、資産運用セミナーを地道に続けてきました。初心者の方にも安心してご参加いただけるよう、「投資信託とは何か」「投資と投機の違いとは」という基礎から始め、「老後2,000万円問題」や「NISA」といった社会的な関心事にも触れながら、投資の必要性を繰り返しお伝えしています。
NISAを例に挙げると、「30年間で2,000万円を貯めるには、毎月いくら貯金が必要かご存じですか?」と問いかけます。おそらく月々5万円以上は必要になるでしょう。それを継続するのは、現実的にはかなり難しい。そこで国が作ったのがNISAという制度で、貯蓄よりも効率的に資産を増やせる可能性がありますよ、という順序でお話ししています。
あとは細かい点ですが、お客様と接する場所の「雰囲気」にも配慮しています。たとえば、雑居ビルの薄暗い一室でどれだけ有意義な話をしても、お客様は不安な気持ちになり、後ろ向きになってしまいます。それでは、こちらの説明が真に伝わらなかったり、本当に聞きたいことを打ち明けられなかったりしかねません。冒頭で申し上げた通り、弊社の「投資信託相談プラザ」は全国のショッピングセンターや百貨店内にもあります。こうしたオープンな空間で、お客様に安心してご相談いただけることが、弊社の強みだと自負しています。


まだまだ低い日本の投資水準
業界の垣根を越え、市場活発化を目指す

最後に、今後の事業展望について、税理士業界との連携の在り方も含めてお聞かせください。

尾口:日本でも4人に1人が証券口座を持つ時代になりましたが、一人ひとりの投資額は、欧米諸国と比較するとまだ低い水準にあります。平均すると100万円から200万円ほどです。それ自体が悪いわけではありませんが、本格的な資産形成につなげるには、もう一段階ステップアップしていく必要があります。そこに、アドバイザーとしてのIFAの存在意義があると考えています。
また、開設されたネット証券口座の3〜4割が未稼働のままというデータもあり、今後も資産運用の重要性を粘り強く発信していく所存です。その上で、やはり税理士の皆様との連携を深めていきたいと考えています。多くの税理士の方々、特に若い世代の方々は、ご自身を「お金の専門家」と強く意識されているように感じます。お客様にアドバイスをされる際も、当然のように投資という選択肢を視野に入れておられるはずです。弊社としては、税理士の方々が顧問されているお客様とも、ぜひつながりを持ちたい。そのために、まず税理士の皆様との接点を増やしていきたいですね。
たとえば、税理士の方々と共同で投資関連のイベントを企画するなど、IFAの取り組みを知っていただく機会を創出していきたいです。

藤野:私たちが税理士の方々と直接的な関わりを持つことは多くありません。
しかし、お客様の資産に対して責任を負う、という点では完全に共通しています。特に、これから上場を目指す企業にとっては、監査法人や税理士の方々の知見が不可欠になります。互いに協力して取り組むことができれば、双方にとって大きなプラスになると確信しています。
投資がより一層活発化する社会を目指し、税理士の皆様とも必要に応じて連携しながら、引き続きお客様をサポートしてまいります。

プロフィール
株式会社Fan 代表取締役 尾口 紘一

1982年生まれ。富山県出身。神奈川大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に新卒FAとして入社、資産コンサルティング業務に従事。2008年に富山県で株式会社Fanを設立。現在は資産運用を気軽に相談できる『投資信託相談プラザ』を全国に展開。自身も講師を務める資産運用セミナーには、延べ6万人以上が参加。所属金融商品取引業者等はSBI証券、楽天証券、ウェルスナビ、ソニー銀行。資産運用に加え、保険、不動産、住宅ローンなど、ワンストップで対応するコンサルティングサービスを展開している。

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 藤野 英人

野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディン・フレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」など投資啓発活動にも注力する。東京理科大学上席特任教授、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授、東京科学大学客員教授。

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