効率化のムーブメントを会計業界に! ムダを排除し本質的な価値を創出する エンジョイント智原流「業務効率化」の極意に迫る Vol.2

エンジョイント税理士法人 代表 智原 翔悟
「業務の効率化は、難しいことではない」。そう語るのは、エンジョイント税理士法人の智原翔悟先生だ。業務の中で「面倒」と思う作業が出てきたら、それは、効率化を進めるチャンスなのだという。簡単で、効果が高いことから少しずつ始めるのが智原流。会計業界における業務効率化の動きを牽引する智原先生に、スムーズに進めるコツから最新の取り組みまで、詳しく伺った。
全ての中心はkintone
エンジョイントの「効率化」最前線
これまで伺ってきたような、「業務効率化」についての智原先生の考え方はどのように形成されていったのでしょうか?
独立する前に所属していた事務所に、原点があると思います。そこでは、タスク管理が個人に委ねられており、職員それぞれの業務の進捗状況を逐一共有することが難しい体制でした。スケジュールも、共有のカレンダーではなく個別の手帳で管理していたので、打ち合わせの時間の調整が難しかったり、誰がどこで何をしているのか分からなかったりことがありました。とてもお世話になった事務所なのですが、どうしたらもっと効率的に業務が行えるのか、私なりに色々とアイディアを出し勉強してきたのです。
そのときにインプットした情報が、現在のエンジョイント税理士法人の取り組みにもいきていると思っています。
貴社の業務効率化の取り組みには、どんな特徴があるのでしょうか?
象徴的なのが、タスク管理のシステムだと思います。先ほども少し出てきましたが、タスク管理については、一元的に管理できるシステムを絶対に作りたいと思っていました。そうしたシステムを構築できれば、私を含め、管理する側の負担が軽減するのはいうまでもありません。
ただ、効果はそこにとどまりません。誰がどのようなタスクを抱え、どのタスクの進捗が遅れているのかが瞬時に分かるようになれば、遅れている部分のテコ入れが容易になるのです。

ある会社の試算表の作成業務が遅れているのが確認できれば、納期に間に合うよう様々な手を素早く打てるようになるのです。多くの経営者は 、いち早くデータに目を通し、経営判断にいかしたいと考えています。試算表など、経営に直結するデータであればなおさらです。そうした要望に応えられれば、顧客からの信頼も増します。業務の効率化はもちろん、顧客との信頼関係を考えてもタスク管理というのは極めて重要なのです。
具体的には、どのようなシステムを使っているのでしょうか?
全てのワークフローの中心に「kintone」を据えています。タスク管理に加え、業務日報、さらには、見積書や請求書など顧客との契約関連の書類なども、全てkintoneを通じて管理しています。契約関連の書類については、電子契約サービスと連携させ、自動で書類を作成したり、更新したりする仕組みを構築しました。さらには、kintone上の顧客情報のデータベースを用い、作成した書類を、顧客に自動で送れるようにもなっています。それまで時間をかけて行っていた業務が、ほとんどワンクリックでできるようになったことは大きな成果だと思います。
なぜ、kintoneだったのでしょうか?
導入の決め手は、弊社の業務フローを一番理解している私自身が、弊社に最適なアプリを手軽に作ることができた点です。タスク管理が容易になるシステムを構築できたのは、私自身でアプリを作れたことが大きな要因になったのではないかと思います。それによって、年末調整の業務は誰が行っていて、どの顧客の案件がどこまで進んでいるのか、といったような確認が速やかに行えるようになりました。
さらにいうと、拡張性が高いというのもkintoneの魅力ではないでしょうか。実は、弊社では、以前は別のシステムを使っていたのですが、この、拡張性の高さが決め手となってkintoneに乗り換えたという経緯があります。kintoneは、「タスク管理しかできない」というものではないのです。顧客情報を追加したり、社内のマニュアルをkintone上で管理したりすることも可能になります。様々なカスタマイズができるので、うまく使いこなすことができれば非常に有効なツールになると思います。特に、多くの顧客を別々の社員が担当し、タスク管理が難しいような会計事務所にはおすすめのツールです。
新しい取り組みを進めるという貴社の取り組みは、スムーズに進んでいったのでしょうか?
総じて、順調に進んできているとは思っています。それは弊社が、効率の面で既存のシステムを上回るものが登場すれば、躊躇なく切り替えながらシステムの発展を図ってきた結果だと考えています。例えば弊社では、▼ストレージサービスはA社、▼Web会議のシステムはB社、▼マニュアルの管理はC社などというように、それぞれのサービスで別々の社のシステムを採用していました。その中心にkintoneが位置しているのは変わらないのですが、可能であれば、その他のシステムを統一することが望ましいと、実は、長らく思ってきました。その方が、シームレスな連携が可能になり、便利だからです。
そうしたことを勘案した結果、去年の年末ごろから、kintone以外の全てのシステムをGoogleに入れ替える作業を始めたのです。
重要なのは “割り切り”
求む “変化を楽しむ”人材
時間やコストがかかったのではないですか?
全てのデータを移行するので、もちろん時間がかかります。もっといえば、それまで使ってきたシステムから離脱する訳ですから、システムの構築に費やしたコストもかかります。ただ、その時点でベストだと思われるシステムを導入している訳ですから、そこにかけた時間やコストはムダではありません。弊社ではこれまでも、システムを導入したものの、「使いにくい」「利便性が悪い」などという理由で解約したシステムがいくつもあります。中には、3か月だけ使って解約したものもありました。

「年払い」の契約だったので、残り9か月の支払い分はムダになってしまいました。ただ、業務が効率化され、組織全体にとってプラスに働くのであれば、そうした勉強代を払ってでも、不要だと思ったシステムからは躊躇なく離脱するべきです。そうしたシステムにいつまでも拘っていると、「業務の効率化を実現する」という大目的など、夢物語に終わってしまいます。
特にGoogleの場合、生成AI・Geminiの目覚ましい進化も導入の決め手になりました。全社員が生成AIを利用できる点や、将来、各種システムを横断したデータ活用が社内でできるようになることを期待してGoogleの導入に力を入れました。システムの導入や離脱には、柔軟に対応するべきだと思います。それらを繰り返しながら、少しずつ業務の効率化を進めていけばいいのです。
もしかしたら弊社も、数年後にはkintoneでもGoogleでもない、全く別のシステムに乗り換えているかもしれません。本当に業務効率化を進めるのであれば、そのくらいの割り切りが欠かせないのです。
会計業界には、業務効率化についての先生のような考え方がどの程度浸透しているのでしょうか?
私のお話ししていることに対する理解者は、少しずつ増えてきているとは思っています。そういう方には是非、様々な事務所の先生方の取り組みを、貪欲に吸収して欲しいです。幸い会計業界は、横のつながりが非常に強い。業界の成長や発展に役立つような取り組み、それぞれの事務所や先生方が積み上げてきた知見は相当程度共有されています。例えば、セミナーに参加したり、書籍を読み込んだりすれば、最新の情報は必ず得られます。
また最近では、私を含めSNSで情報を発信する先生も増えてきています。日々アップデートされる知見や情報に触れることで、さらなる先進的なアイディアがうまれてくるのを期待しています。
AIの話題も出てきましたが、先端技術の発展は、会計業界に今後どのような変化をもたらすと見ていますか?
今後も、大きな変化を余儀なくされるのは間違いありません。AIが出してくるアイディアやデータを、税理士がどのように活用できるかがポイントになってくるのではないでしょうか。

例えば、AIを使って記帳業務などを行うのであれば、他のどのサービスで同業他社と差別化を図るのかがポイントになってきます。いわゆる高付加価値サービスというのがその答えになるかと思うのですが、そこにも、AIを活用する余地があると私は考えています。会計事務所というのは、顧客の、経営についてのあらゆるデータを揃えている最強のプラットフォームです。AIを使って、そうしたデータを最大限活用し、高付加価値サービスの提供につなげていく取り組みを今後展開していくつもりです。
一方で、そうしたデータをどう分析し、どのように顧客に伝えるのかが税理士には求められてきます。これは、AIでは代替できない、コミュニケーションの部分です。税務会計の知識だけではなく、一般の社会人が備えておくべきスキルこそが重要になってくる気がします。
ただ、昨今のAIの進化を見ると、会計事務所が従来の税務会計業務だけに拘って生き残るのは難しいとも考えています。税務会計にとどまらない視野を持っていくことも必要です。弊グループでは労務や採用支援などの事業も行っていて、先日、コワーキングスペースの運営も始めました。まだまだイメージ段階ですが教育事業やカフェにも挑戦したいと思っています。
これからの会計業界は、そうした、あらゆる変化に柔軟に対応できる人材が求められるのだと思います。ルーティンワークをこなすだけで満足するような方は、適応できない恐れがある。どうすれば業務効率を上げられるかを常に考え、考えたことを実践し、自らを取り巻く業界の常識すら変えていこうという人材こそ求められていますし、私自身もそうありたいと思っています。
| プロフィール |
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| エンジョイント税理士法人 代表・Metrics 取締役 智原 翔悟
「日本の中小企業の生産性を向上させる」をミッションに掲げ、クラウド会計を中心としたバックオフィスDX支援に取り組んでいる。Gemini APIを用いた通帳データ化アプリの開発などAI技術も積極的に活用。税理士業界のIT化が中小企業の生産性向上に欠かせないと考え、noteでの技術記事公開やXでの情報発信、講演を通じて全国の税理士にノウハウを発信している。 |


