家事代行で株式公開達成・年商20億円目前の“会計士CEO”加茂 雄一
さらなる成長を目指す業界特化型プラットフォームビジネスとは Vol.1

株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

家事代行のIT化で問題解決に挑み、業界を大きく変えた株式会社CaSy。従業員約50人、キャスト約1万5,000 人で今期売上は18億円を見込む。さらに家事代行事業のクロスマッチングサービスMoNiCaののを提供を開始し、業界全体の課題解決に取り組んでいる。会計士としてIPO支援に関わったのちCaSyを設立し、上場も果たした代表取締役の加茂 雄一氏に、起業や上場までの経緯と事業の現状、今後の展望を聞いた。

起業家への転身を後押しした「志」と革新の原点

まずは大学卒業後の監査法人での経験についてお聞かせください。

大学4年生の時に公認会計士の資格を取得し、卒業後は中央青山監査法人に入りました。大手だったので、関わるクライアントもグローバルな大企業ばかりでした。そこには2年ほどいたのですが、大企業相手だとやはり自分が関われるのは業務の一部になってしまうのですよね。もう少し規模は小さくても、企業の全体像を把握しながら取り組みたい思いがあり、次のステップとして太陽監査法人を選びました。
そこでは色々とチャレンジさせてもらいましたが、業務の割合でいうとIPO支援が50%、上場企業の監査とM&A関連がそれぞれ25%ずつといった感じでした。このIPO支援の経験が、CaSyの創業や上場を目指すことにつながっていきました。

監査法人での経験を積んで、事務所を構えて独立しようとは思いませんでしたか。

思いませんでした。会計監査業務って直接のクライアントは企業ですが、誰に向けたものかというと株主や投資家なので、実はクライアントから嫌われることも多いのです。私はもっとわかりやすく自分の仕事を喜んでもらうとか、目の前の人のためになっている実感を得たいと思っていました。
ただ、太陽監査法人はIPO支援に携わる時間が長く、チャレンジもできる良い環境だったので辞める気持ちはありませんでした。しかし、業務で多くのベンチャー企業の経営者と話をするうちに、彼らの「志」に興味を持ち始めたのです。皆さん、自分のビジネスを通じてどんな人を救いたいとか、どんな問題を解決したいとかを、それはもう熱く語られるのですよ。彼らの志がどこでどうやって育ったのか知りたくて、また彼らのような人たちとのネットワークをもっと広げたくて、グロービス経営大学院に進む道を選びました。30歳頃の話ですね。
当初は2年ほどで太陽監査法人に戻るつもりでしたが、大学院での最後の課題が私の運命を変えました。4人グループでビジネスプランを考える課題だったのですが、そのアイデア出しの中で、家事代行のプランが出てきたのです。

株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

CaSyの事業は、もともとは大学院での課題のアイデアだったのですね。
事業のアイデアはスムーズに思いついたのでしょうか。

いえ、100個くらいのアイデアを出したのですが、講師からは全て0点と言われました。例えば、私が納豆好きだから納豆専門店のレストランを出そうとか、冷蔵庫の中で消費期限を管理するシステムを作ろうとか、誰でもぱっと思いつきそうな案ばかりでしたね。何が足りないのか講師に聞くと、やはり「志」だと。ビジネスを通して、どういう人を救っていきたいとか、どうやって世の中を良くしたいとか、そういう志がないと人は巻き込めないと言うのです。
そこで、改めて「私たちが救いたいのは誰か」というところに立ち返って考えると、「身近な人」だったのですね。身近な人といえば最初に思い浮かぶのは家族でしたので、まずはお互いの家族の状況などをグループのメンバーと共有しました。
改めて考えていると、ちょうどその頃、私自身が家事代行サービスを初めて利用する機会があったことを思い出しました。利用のきっかけは妻の妊娠でした。私は家事が苦手でそれまでほとんど奥さんに任せていたのですが、妊娠で体が動かしづらいこともあり、さすがにと思って慣れないながら挑戦してみたのです。それが案の定ひどいことになってしまって…。むしろ、私が家事をやることが妻のストレスになってしまうぐらいでした。
そこで、何か違う形でサポートできないかと調べてみて、家事代行サービスの存在を知りました。今では競合となるサービスですが、その時は感動しましたね。私のように家事が苦手な人が無理にやるよりもずっと高いクオリティで掃除や料理をしてくれるし、苦手な私に任せる妻の不安もなくなって、家庭に笑顔が増えたのですから。とても満足し、良いサービスだなと感じました。
この体験がもとになり、家事代行から話を広げて「共働き世代を救う」を目指してみるのはどうか、と話が進んでいったのです。

具体的には、どのような点で既存の家事代行サービスと差別化していこうと考えたのでしょうか。

当時の家事代行サービスは富裕層向けのイメージが強く、まだ一般的ではありませんでした。それには理由が2つあり、1つは価格です。2014年頃の相場は1時間あたり4,000円~5,000円、かつ依頼は2~3時間から。つまり1回に1~2万円ほどかかる計算です。一般家庭が毎週使うには高すぎます。
もう1つは依頼の手間ですね。忙しい人向けのサービスなのに、ビジネスアワーにしかつながらないコールセンターに電話をかけて、まず営業の訪問ヒアリングがあり、スタッフの選定を経てようやく…という感じで、とにかく手間と時間がかかる。最初の電話から利用まで2週間かかるなんてことがザラでした。
これら価格と手間の問題を解決すれば、家事代行の利用者はもっと増えるはず。ではどうやって解決すればいいか、と考えてみて、当時Uberやメルカリなど、社会に浸透しつつあったシェアリングエコノミーに着目しました。
忙しくて家事ができない方や家事が苦手な方と、近所に住む時間のある主婦の方や家事の得意な方をマッチングさせる。これなら最短で当日の3時間後に訪問できるし、営業の人件費もかからない分、価格を抑えられるのではないかと。
このアイデアをもとに3か月練ったビジネスプランを発表したところ、クラスで1番の評価をもらえたのです。しかも、審査員にいたベンチャーキャピタルの方から「出資してもいい」と言う嬉しい提案もいただけました。クラスでの発表は2013年9月末だったのですが、10月にはメンバーと「ちょっと挑戦してみようか」という話になり、2014年1月にはもう株式会社CaSyを起業していましたね。創業メンバーは会計士の私と、NTTデータのエンジニア、もう一人はみずほ銀行出身の銀行員で、家事については全くの素人ばかりでした。

スピード起業から上場へ
会計士経験が支えた資金調達の成功

スピード起業の後は、どのように顧客を獲得していったのでしょうか。

株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

まずは2014年の3~4月頃に事前登録用サイトを作りました。お客様向けには「1時間2,500円で、アプリやWebから申し込める家事代行サービスがあったら使いますか」、働き手向けには「高時給の1,450円で、近所の家事代行の依頼があればやりますか」と問いかけ、両者の反応を確認しました。
まずは東京都の一部地域に絞っての展開でしたが、すぐにお客様としては約100人、働き手としては数十人の登録があったので、これを手動でマッチングしていきました。

創業メンバーには家事の知識がなかったので、働き手の研修に必要な最初のスタッフは「家事代行ひろば」というマッチング掲示板に投稿されていた方に声をかけて雇い、その方と一緒にサービスのコンセプトや研修メニューを作っていきましたね。10年近く経つ今もその方は働いてくれています。

事業は立ち上げからずっと順風満帆だったのでしょうか。また、資金調達を複数回されていますが、きっかけや目的はどのようなものでしたか。

起業から2年ほど経った頃、資金がショートしかけるという大問題が起きました。私が集客のために広告費を使いすぎたためです。しかしこれを機に、きちんとした月次の資金管理や、ゆくゆくは上場も視野に入れての管理体制の構築を始めたので、いいきっかけだったと思っています。
軌道に乗れたと思えたのは起業から約4年、2018年3月に6億円の資金調達をした時ですね。事業拡大のために大きく投資できるようになり、企業として新たな段階に入ったと感じました。
それ以前の資金調達はほぼ、運転資金を補うためのものでした。ベンチャーキャピタルにこちらからアプローチして、プレゼンして、これまでに10社ほどに出資していただきました。やはり私が会計士だったことで信頼を得られましたし、様々な会社の事業計画書を見てきた経験も役立ち、アプローチに対する成功率は高いほうだったと思います。

会計士のキャリアが資金調達に役立ったということですね。経営や上場にあたってはどうでしたか。

会計士として数字に強いのは、経営者としても強みだと思っています。人を巻き込むには、感覚的な部分はもちろんですが、数字で裏付ける部分も同じくらい重要です。数字がわかれば、それを根拠にして説得力のある話ができますので、そこでも会計士のキャリアが生きたと思います。上場にあたっての準備では、監査法人でのIPO支援経験が非常に役立ちました。他社を支援してきた視点があったおかげで、具体的な手続きや課題に対してスムーズに対応できたと感じています。

上場はいつから意識していたのでしょうか。

上場は、ベンチャーキャピタルから最初の資金調達を行った2014年6月にはもう意識していました。他者のお金を頼る以上、最終的にはM&Aか上場で利益を還元したいと考えていたからです。
また、家事代行のような信用が重要なサービスを提供していることも、上場を目指した理由の一つです。派遣されるスタッフの質だけでなく、会社全体の体制がしっかりしていることをお客様に伝え、安心して利用していただきたいと考えていました。

株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

上場に至るまでに大変だったのは、上場の審査に一度落ちたことですね。業績や予算に対する目標の正確性が基準に達していなかったのと、一時的ですが離職率が上がった時があったためです。従業員が辞めていったのは、上場をするために、承認フローや評価のルールを必要以上に厳しくしたことと、株主目線で考えすぎた結果、従業員への配慮が足りなくなってしまったからです。本来は、お客様やキャスト、株主のためにも、従業員を一番に考え、大切にすべきだったのに、そのことを見失っていたのです。この点についてはとても反省しています。

上場でどのような良い影響がありましたか。また、逆に悪い影響はありましたか。

上場後はお客様からの問い合わせが増え、もともとの目的だった、より多くの信用は得られたと思います。取材の声がかかることも増えました。また、この業界で上場しているのは弊社くらいなので、経営陣だけではなく、従業員やキャストにとっても、成し遂げたことが自信につながったのではないかと思います。
悪い影響はとくにありません。もともと3人で創業して、3人で代表、株も3分割していて、オーナー企業だという意識もなかったですしね。

プロフィール
株式会社CaSy 代表取締役 加茂 雄一

早稲田大学商学部卒業後、公認会計士として中央青山監査法人、 太陽ASG有限責任監査法人に勤務。100社以上のベンチャー企業と関わり、株式公開などを手掛ける。妻の妊娠をきっかけに家事代行サービスを利用した経験から、「共働き子育て層がより気軽に使える家事代行サービスが必要」と感じ、家事代行を中心とした暮らしのマッチングプラットフォームを運営する、株式会社CaSyを設立、代表取締役へ就任。2022年2月22日に東京証券取引所グロース市場(当時のマザーズ市場)上場。独自のマッチングアルゴリズムの構築、ダイナミックプライシングの導入、様々なサービスとのAPI連携を行い、家事代行業界のDX化をけん引。

ーー* Vol2 *ーー

  

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

売上アップの秘訣や事務所経営に役立つ情報が満載
税理士.chの最新記事をメールでお知らせ

BizWebinar無料ご招待
キャンペーン実施中!

2025年3月末までにご登録の方限定で、
BizWebinar(弊社オンラインセミナー)へ無料でご招待いたします。この機会に是非、ご登録ください。