「壁の向こうにある景色」
業界最先端を行くあさひ会計のDXの取組 Vol.1
税理士法人あさひ会計 統括代表社員
株式会社ASAHI Accounting Robot 研究所代表取締役 田牧 大祐
ビジネスにおける成長力や競争力を培うべく、多くの企業が取り組むべき「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。組織の成長・生存のために会計事務所も例外なくDX化を進めていかなければならない時代へと突入している。しかし、取り組みの成功までのプロセスは決して平易ではないのが実情だ。 そこで今回は、デジタル化の先駆者である「あさひ会計」「ASAHI Accounting Robot 研究所」代表の田牧大祐先生に、デジタル化の壁を乗り越えての今の成功までの道のりと、DX化の今後の展望について、話を伺った。
デジタル化を始めたのは効率化より「面白そう」がきっかけ
まずは、RPAやAI-OCRといったデジタル化の活用を始めたきっかけを教えていただけますか?
当事務所のエンジニア佐々木からの「RPAが面白そう」という提言がきっかけとなり、事務所内の遊びとして使い始めました。当時は効率化というより、「何か面白いことができればいい」と思い導入しました。
自動化のPC画面の動きに感動し、当初、PCを操作するJOJOの奇妙な冒険出てくるスタンドのように思い、あそび心ががぜん出てきました。遊びの延長で作成した国税庁e-taxメッセージを自動取得するRobotから、その後、いくつも作っていくうちに、現場の困り事や自動化したいことの意見が自然と上がってくるようになり、事務所内の声で一人のためのRobotを作っていくことになりました。誰もが依頼可能な受付フォームを作り、RPAのエラーも表示させるようにして、新規リリースと事務所内での普及をしていくうちに発展していきました。
スムーズにできたのは、RPA専任者を3名、5名と配置、増員したことが大きかったですね。1名、2名ではここまでのスピード感や協力体制、エラー対応は難しかったでしょう。
また、元々私自身も自動化の分野に興味があり、まだ世の中にクラウド給与計算が普及していない10年以上前に、ICカードをタッチするクラウド勤怠管理ソフト「あさひ勤太郎」を開発・リリースしました。これも今思えば、もっとしっかりやれば大きな成長エンジンになったのではと、少し後悔しています。
常時250を超えるRPAプロセス、アプリが稼働。業務効率化に大きく貢献
現在はどれくらいの数のアプリを活用されていますか?
事務所ではRPAやAI-OCRを中心に、細かなものも入れると250位です。常に動くものから月に1回動くものまで様々で正確な数はわかりませんが、一日平均50位は動いています。
この50というのは職員がアプリで主体的に稼働させている総数です。自動仕訳処理や、過去の会計処理データの取込、路線価地価情報等の取得ロボなどの稼働数です。
この数にカウントされないロボもたくさん動いております。例えば、お客様のところに行く時は高速道路を利用することが多いので、NEXCO東日本のX(旧Twitter)で最新の道路状況で、事故通行止めなどの情報が出ると、こちらもRPAが自動でChatにNEXCO東日本のXの情報をとどけてくれます。
また、事務所にFAXが届いた時は、職員名や会社名、FAX番号をAI-OCRで自動読み取りし、担当職員とマッチング、各々のチャットへ即座に届くようにしています。これらはトリガー機能などで、ユーザーが主体的に稼働させるものではない受動的なRPAプロセスであり、その稼働数は、当該数字にカウントしていないので、どの程度動いているかは正直把握できておりません。
一方で、自治体の財務書類の形式を整えるRPAなどは納品時期に合わせた1月から2月の間は、毎日のように複数回うごく季節性のロボもあります。
日常的にかなりの数のアプリを活用されていらっしゃるのですね。ちなみに、現在160名ほどの職員さんが在籍されているそうですが、アプリを日常的に使っている方はどれくらいですか?
基本的に全職員が何かのアプリを使っています。在籍アプリは全員使っていますし、時期によっては一日20件ほど動かす高頻度ユーザーの職員もいます。あまりアプリを動かさない職員であっても、受動的なものも含むと最低一日数回は利用している状態です。
そうなのですね。アプリ活用に抵抗を感じる職員さんも一定数いらっしゃるのではと想像していましたが、あさひ会計の皆さんは積極的に活用されているのですね。
ええ、そうです。事務所全体の雰囲気として「みんなが使っているからこそ便利になる」「これを使うことで、必ず自分達の業務が楽になる」ということを理解してくれているので、抵抗なく使っているのだと思います。
これまで効果が高かったアプリ、印象に残ったアプリ
これまでかなりの数のアプリ開発をされてきたと思いますが、田牧先生をはじめとする現場の職員さんにとって、特に業務効率化の効果があったものや印象に残っているものがあれば、教えていただけますか?
一番活用しているのは、e-TAX(イータックス)とeLTAX(エルタックス)のメッセージを取得するアプリです。月水金はe-TAX、火木はeLTAXで活用しています。8時半に自動で起動し、担当者へ割り振りするところまでやっております。また、AI-OCRを全ての顧問先で活用している職員もいます。
特に便利だなと感じたのは、FAX振り替えロボです。以前は、FAXが届くと担当者に持っていったり名前を確認したりといった手間がありましたが、FAXが届くと、担当者のChatに、自動で即座に、表題をリネームして送ってくれるので重宝しています。
また、DVD書き込みロボは昨年末からテストを開始し、今年の確定申告分から活用していますが、これも大きな効果を実感しています。これまでは手作業で納品物の元帳をDVDに書き込んでいましたが、このアプリで自動化し、とても効果をあげています。紙印刷をすべてなくし、すべて納品をDVDで、自動書き込み作成としました。従来は、印刷製本や、データの書き込みも時間がかかるだけでなく、日中に行うと複合機やパソコンの操作時間をとってしまうのがネックでした。就業時間終了前にアプリで選択しておけば、朝出社するとDVDが出来上がっています。しかもDVDの表面にお客様名や対象年度まで印字しているので、テプラも不要で便利です。
非常に便利なアプリですね。具体的にはどのくらいの作業時間が短縮できるのでしょうか?
1クライアントあたり最低1時間は短縮できます。いざ自分でやるとソフトの操作と書き込みだけでなくテプラでタイトルを貼るなど様々な作業が発生しますが、アプリを始動しておけば、かなりの時間が短縮可能です。
確定申告の担当件数は担当者によっても異なりますが、平均20件ほどで、1件につき1時間短縮されるだけでも相当な業務削減です。一人ひとりの業務時間の削減はもちろんのこと、事務所全体で見てもかなりの削減になっています。
業務改善や効率化に向けて、常に新しい取り組みをされることは素晴らしいですね。ちなみに、そうした取り組みは誰でも企画できるものでしょうか?
弊社では「自分で新しくこれをやりたい」「こういう風に使ってみたい」といった提案は誰でもできるようにしています。専用フォームを設置し、希望するRPAのプロセスを送信するとロボット研究所に届くので、集まったアイデアや意見をもとに改定したり追加で作ったりといったことをやっています。
この仕組みがあることで、「やってみたいが、自分の技量や知識がない」という理由で断念することなく積極的に提案できる上に、具体的なアクションに移しやすくなるので、事務所内のDXを推進する上では重要な機能の一つとなっています。
プロフィール |
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税理士法人あさひ会計 統括代表社員 株式会社ASAHI Accounting Robot 研究所代表取締役 田牧 大祐 兵庫県出身。東北地方に約1,080件の顧問先を擁する東北最大級の会計事務所「税理士法人あさひ会計」の代表。大手ゼネコンで現場監督を経験した後、会計という仕事の面白さに惹かれ、1999年に中央監査法人に入所、監査業務に従事する。2007年、旭会計事務所(現 税理士法人あさひ会計)取締役、現在に至る。M&Aや組織再編、内部統制構築支援会計を得意とし、現在は、仕訳入力をなくすべく、Full Auto Journalを目指し、日々、奮闘中。2003 年、公認会計士登録。 |