コンサルティング実施の注意点
<税理士がコンサルタントとして活躍するためには?⑥>

日沖コンサルティング事務所・代表
中小企業診断士、中小企業大学校・講師、産業能率大学・講師
日沖 健
6回に渡って税理士がコンサルタントとして活躍するためのポイントをお伝えするシリーズの6回目。最終回の今回は、コンサルティングを進める上での注意点を紹介します。
先生と生徒という関係をまず見直そう
税理士は日ごろ、会計・税務の専門知識を持つ「先生」という立場で、その分野においては学ぶ側に立つクライアントに、専門家としての知見を教示しています。税理士業務はそれでも構いませんが、コンサルタント業務ではこの師弟関係は致命傷になります。
コンサルタントは、経営に関する知識・ノウハウを持っていますが、クライアントの内情や業界事情を知りません。一方、クライアントは、自社の内情や業界事情を熟知していますが、経営に関する知識・ノウハウを持っていません。こうした補完関係にあるコンサルタントとクライアントが知恵を出し合って、協力して問題解決を進めるのがコンサルティングです。どちらが上とか下とかという関係ではありません。
師弟関係に慣れてしまったクライアントが、税理士に対してこうした関係の見直しを提案してくることは、絶対にありません。まずは税理士が日ごろの師弟関係をいったん脇に置いて、クライアントに対して「一緒に問題解決に取り組むパートナーという関係でコンサルティングをしましょう」と提案する必要があります。
クライアントとの対話では、税理士は、知識を語るのではなく、クライアントに質問して話を引き出し、それに耳を傾けるようにします。そして、クライアントが自分の考えを語りつくしたら、論点を整理し、一緒になって問題の原因や解決策を考えるようにします。 コンサルタントが即座に自分の意見を述べると、クライアントは「先生の答えを聞こう」という姿勢になってしまいます。クライアントが対等の関係に慣れてくるまでは、コンサルタントは自分の意見をぐっとしまいこんで、最後の最後に述べるというくらいが良いでしょう。
数字だけでなく会社全体を見よう
税理士は、経営者と対話するとき、条件反射的に会計・税務に着目します。しかし会計・税務は、経営機能の一部に過ぎず、他にも調達・設計・製造・販売・総務といった様々な経営機能があります。
税理士は、クライアントの経営資源のなかで、まずカネに着目しがちです。しかし、カネの他にもヒト・モノ・情報など様々な経営資源があります。企業には、どこにどういう問題が潜んでいるかわかりません。税理士がコンサルタントとしてクライアントと接するとき、まず会計・税務やカネに着目するという癖を捨てて、経営全体を見渡す必要があります。
また、大きな方針を決めてから小さい施策を決めるという順序でコンサルティングを進めます。たとえば、クライアントから「営業担当者の活動が非効率なので改善したい」という依頼があったとします。実際にクライアントの言う通り営業担当者の活動が非効率だとしたら、コンサルタントは早速、営業活動の改善策を検討しがちです。
しかし、もしこのクライアントで営業担当者による営業よりもWeb営業の方が有効だとしたら、営業活動の改善は、まったく意味がなくなります。大きいところから小さいところに取り組む、というのはコンサルティングの重要なルールです。
中小企業は問題だらけ。粗探しに終始しない。
たいていの中小企業は、問題だらけです。ある程度経験があるコンサルタントなら、クライアントの現場に一歩足を踏み入れるだけで、即座に様々な問題点が目につきます。
「行き当たりばったりで飛び込み営業をしているだけで、マーケティング戦略がない」
「従業員のスキルが低い、エンゲージメントも低い」
「機械が老朽化しているのに、十分に補修していない」
「予算達成という掛け声だけで、フォローができていない」
問題が目に入ると、コンサルタントはどうしてもクライアントに指摘したくなります。
コンサルタントは、問題点を冷静に分析し、会社の発展のために悪いと思ったことを率直に指摘しているだけなのですが、クライアントはそうは受け取ってくれません。指摘を受けたクライアントの従業員は、次のように反発します。
「このコンサルタントは、わが社の粗探しばかりしているな」
「我々の苦労を知らないで、まったく言いたい放題。偉そうに」
「ちょっと現場を覗いただけで何がわかる。本当にわが社のことを分かって言っているのか、疑わしい」
「うちくらいの規模の会社で、そんなに完璧にできるわけないでしょ」
こうしたクライアントの反発は、第三者から見ると過剰反応ですし、印象だけの誤解かもしれません。
ただ、過剰反応であろうと、勘違いであろうと、クライアントがコンサルタントに拒絶反応を示してしまっては、コンサルタントにとってもクライアントにとっても、何も良いことはありません。クライアントが「よしコンサルタントと一緒に会社を改革しよう!」と能動的に協力する状態でないと、コンサルティングで経営改革の成果を実現することはできないからです。
どんな人でも、いきなり他人から問題点を指摘されたら、気分の良いものではありません。「俺って頭悪いから」とへらへら笑っている人も、他人から「お前って頭悪いな」と言われたらムッとします。 とくにコンサルティングの初期段階では、コンサルタントはクライアントの問題点には目をつむり、客観的に事実の把握に努めるべきです。どんな会社にも、キラリと光るところがあるでしょう。努めて良い点にも目を向けるようにします。
経営者の言いなりにならない。経営者の利益よりも会社の利益
コンサルティングを依頼してくる経営者は、コンサルタントのことを信頼し、「コンサルティングで会社を改革しよう」と意気込んでいます。オーナー経営者にとって会社は自分のものだからです。
一方、クライアントの従業員は、コンサルタントのことを敬遠し、「コンサルティングとか、余計なことをしないでよ」と引いた目線でいることも少なくありません。従業員にとってコンサルティングは日常業務に加えて取り組む「余計な仕事」ですし、自分たちの業務の問題点を指摘されることを警戒しているからです。
とりわけ、社長の右腕という立場の“番頭さん”はコンサルタントに対して否定的な方も少なくありません。番頭さんがしっかりしていれば本来コンサルティングは必要ないわけで、コンサルタントが入ることは自分の能力不足の証明となり、社内での自分の立場を脅かす存在にもなるからです。
しかし、こうした後ろ向きな姿勢の従業員や番頭さんに、前向きになって協力してもらわないと、コンサルティングで大きな成果を実現することはできません。これは受注に次いでコンサルティングで難しいことです。ここで大切なのは、コンサルタントは経営者の言いなりにならず、会社の利益を第一に考えてコンサルティングを進めることです。
たとえば、高齢の経営者から「そろそろ現役を退きたいと思っている。リストラで収益を改善して、自分の役員退職金を確保したい」という相談があったとします。もしコンサルタントが経営者の要望通りにリストラ策を作って断行したら、どうなるでしょうか。経営者は満足しますが、リストラされる従業員は不満です。会社は内部分裂の状態になり、その会社が長期的に発展することはないでしょう。
逆に、コンサルタントが経営者に対して、リストラの問題点を指摘し、「社長、リストラを止めて、会社の長期的な発展を目指して改革を一緒に考えましょう」と提言したとします。経営者から「お前には用はない」と言われて絶縁になるかもしれませんが、もし経営者が納得してコンサルティングを進めればどうなるでしょう。
コンサルタントの「経営者の利益よりも会社の利益」という姿勢を見て、従業員は「このコンサルタントは私たちの味方だ。コンサルタントと一緒に経営改革に取り組もう」と思ってくれるでしょう。するとコンサルティングの成功確率が高まり、会社が発展します。
この例のように、コンサルティングでは、経営者の利益と会社の利益が対立することがよくあります。コンサルタントは、「経営者の利益よりも会社の利益」をモットーに活動することが大切です。
以上で連載を終わります。ここまでご精読いただき、ありがとうございました。 なお、本連載の詳しい内容は、拙著『税理士消滅時代を生き抜く ―コンサルタントへの進化戦略』を参考にしてください。皆様のビジネスの発展をお祈りします。
日沖 健
日沖コンサルティング事務所・代表
中小企業診断士、中小企業大学校・講師、産業能率大学・講師
1965年愛知県生まれ
慶応義塾大商学部卒、Arthur D. Little 経営大学院修了MBA with Distinction
日本石油(現・ENEOS)勤務を経て2002年より現職
経営戦略のコンサルティングと経営人材育成の研修を行う。また、中小企業大学校・中小企業診断士養成課程で後進のコンサルタントの育成にも注力している。
東洋経済オンラインに記事連載中、テレビ出演多数
著書(コンサルタント関係)
『税理士消滅時代を生き抜く ―コンサルタントへの進化戦略』
『コンサルタントを使って会社を変身させる法』
『コンサルタントが役に立たない本当の理由』
『中小企業診断士のリアル』
『中小企業診断士の独立開業のリアル』
『企業内診断士のリアル』

