人口減少時代の新たな働き方
―関係人口が会計事務所・税理事務所に与える影響とはー
明星大学経営学部特任教授/オフィスたはら 代表
田原 洋樹
はじめに
2024年4月24日に、有識者で構成される「人口戦略会議(座長:三村明夫・日本製鉄名誉会長)」は、2020年から50年までに全国の自治体の4割にあたる744自治体に対して、20~39歳の女性人口(若年女性)が50%以上減少する「消滅可能性自治体」であると発表しました。この発表は、ちょうど10年前に、日本創成会議(座長:増田寛也)が「消滅可能性都市」を発表した、いわゆる「増田レポート」の考え方を踏襲し、分析手法を拡充したものとされています。10年前は50%が「消滅可能」と分析されたことに比べると、今回はやや改善が見られますが、依然少子化基調は変わっておらず、同会議は警鐘を鳴らしています。
本稿は、今回、人口戦略会議で発表された内容を概観し、人口減少時代において、ビジネスパーソンはどのような生き方、働き方が求められるかを考えたいと思います。
9つの人口特性とは
まず、今回新たに報告された内容を見てみましょう。人口戦略会議は、自治体の人口特性を9つに分類しました(表)。
表「自治体の人口特性別9分類(自然減対策と社会減対策)」
A:自立持続可能性自治体
移動仮定(人口移動の傾向が一定程度続くことが予想されること)、封鎖人口(人口移動が少なく、出生と死亡だけの要因で人口が変化することが予想されること)ともに若年女性が20%未満の自治体のことです。100年後も若年女性が5割近く残存しており、持続可能性が高いとされる自治体です。
B:ブラックホール型自治体(B-①、B-②)
移動仮定における若年女性人口の減少率が50%未満である一方、封鎖人口における減少率が50%以上の自治体は、人口の増加分を他地域からの人口流入に依存しており、かつ当該地域の出生率が非常に低いことが特徴的です。以上のことから、「ブラックホール型自治体」と名づけられ、自然減対策が極めて必要だと考えられています。
C:消滅可能性自治体(C-①、C-②、C-③)
封鎖人口の状況に関わらず、移動仮定における若年女性人口の減少率が50%以上である自治体です。C-①、②、③全てにおいて、社会減対策が極めて必要だとされています。
D:その他の自治体(D-①、D-②、D-③)
上記の分類にいずれも該当しない自治体です。なかでも、社会減対策と自然減対策が両方必要なD-③に該当する自治体が514(全体の30%)を占めています。消滅可能性自治体予備軍のグループとも言えるでしょう。
また、地域別にみれば、ブラックホール型自治体は、25自治体のうち、21自治体が関東に存在し、うち17自治体が東京都に該当します。一方、消滅可能性自治体は、北海道(117自治体)や東北(165自治体)など地方部に多く存在しています。ブラックホールのように、地方部の人口が都市部(特に東京都)に吸い込まれていることが今回の分析によって明らかになりました。今回の人口戦略会議の報告は、東京への人口の一極集中を解消すべく、10年前に始まった地方創生政策が、依然としてその課題を解消できていない実態が浮き彫りになったと言えます。
人口減少時代の救世主「関係人口」とは?
前章で取りあげた、人口特性別の9分類を見ると、全1,729自治体のうち、Aの自立持続可能性自治体65(全体の4%)をのぞく1,664自治体(全体の96%)は、自然減あるいは社会減の何らかの対策が必要な自治体と言えます。さらに特筆すべきは、上記のAを加えたD-1、B-1の計204自治体(全体の12%)以外の1,525自治体(全体の88%)は何らかの社会減の対策が必要とされている点です。
政府は、このような社会減対策の一つとして、定住人口や観光客を中心とした交流人口ではない関係人口の創出に力を入れています。
関係人口という言葉は、2010年代半ば頃から使われはじめました。その後、後を追うように、政策に取り入れられました。内閣府は、第2期地方創生政策(以下第2期総合戦略)の「基本目標見直し」について、「地方とのつながりを築く」観点を追加しています。その中で、地域に住む人々だけでなく、地域に必ずしも居住していない地域外の人々に対しても、地域の担い手としての活躍を促すこと、すなわち「地方創生の当事者の最大化」を図ることは、地域の活力を維持・発展させるために必要不可欠であると説明しています。このため、地域外から地域の祭りに毎年参加し運営にも携わる、副業・兼業で週末に地域の企業・NPOで働くなど、その地域や地域の人々に多様な形で関わる人々、すなわち「関係人口を地域の力にしていくことを目指す」と、はじめて関係人口への期待について言及しています。
第2期総合戦略におけるキーワードともいえる関係人口について、総務省は「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、「地域と多様に関わる人々」と定義しています。多様な人材が地域づくりに参画する機会をつくり出すことで、関係人口を地域の担い手の候補として期待しています。そのうえで、関係人口を、行き来する者「風の人」、何らかの関わりがある者(過去の勤務や居住、滞在等)、地域内にルーツがある者(近居)、地域内にルーツがある者(遠居)の4つに分類しています(以下図参照)。
図:関係人口の概念図
おわりに(関係人口が会計事務所や税理事務所に与える影響とは)
前章で記述したように、関係人口の創出によって、社会減をくい止めようとする各自治体は、都市部のビジネスパーソンをターゲットとして、ワーケーションや副業・兼業がしやすい環境の整備に躍起になっています。またこれに加え、コロナ禍によって、リモートワークの働き方が普及したことも、この動きに拍車をかけました。都市部で働く人が、今後地方での副業や兼業など、第2の働き方を模索する機会が一気に高まったと言えるでしょう。
この機会の高まりによって、正社員として働いていたビジネスパーソンは、今後、確定申告の必要性も出てくることから、彼らが税理士に税務顧問などの相談をする機会も増えることが予想されます。人口減少時代の新たな働き方の台頭は、会計事務所や税理士事務所で働く皆様にとっても、大きなビジネスチャンスになる可能性があると言えるでしょう。
田原 洋樹
明星大学経営学部特任教授/オフィスたはら 代表
奈良県生駒市出身。大学を卒業したのち上京、大手旅行会社JTBで15年間に渡り、
法人ソリューション営業を担当する。2005年には当時の史上最年少営業マネージャーとして活躍した。
2011年に株式会社オフィスたはらを設立、民間企業のリーダー開発や組織マネジメント、
講演活動を数多く行う。2017年4月~現在、明星大学経営学部・特任教授として、
地域創生やブランドマーケティングなどをテーマに講義を行っている。
2024年3月北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)にて博士号を取得(知識科学)
趣味はマラソン(フルマラソンは通算18回完走、自己記録3時間21分)
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