中小企業の採用成功法則

中小企業の採用成功法則

人事の扉株式会社 代表取締役 
桜井 透


現在、従業員数300名未満の中小企業の有効求人倍率は6.50倍(就職白書2024)。1人の学生を6社が狙う、完全売手市場となっており、中小企業にとっては採用戦国時代と言えます。しかしながら、この厳しい環境下でも、独自の取り組みや工夫を通じて採用に成功している地方の中小企業は多く存在します。

本コラムでは、採用に成功している中小企業と失敗している中小企業の事例を紹介し、地方の中小企業が採用で成功するためのヒントを提供します。


内定辞退と内定前フォローの重要性

初回は、採用課題において上位にくる内定辞退、内定者フォローに関する勘違いをお伝えします。採用に失敗する企業は、内定後のフォローを重視し、採用に成功する企業は、内定前フォローを重視しています。

学生の事例から学ぶ

私が就職活動を支援していた大学生が、以前このような話をしていました。
彼女はマッチングアプリで出会った男性と初デートに行き、2時間後に突然告白されました。しかし、彼女は相手のことをまだよく知らず、逆に相手も私の何を分かったのか、もしかしたら会った女性みんなに片端から「好き」って言っているんじゃないか、と不審感を抱き、その場はやんわりと断って、その後にブロックしました。

このように、双方が十分に理解し合わないまま進展を急ぐと不信感が生まれ、関係が続かないのです。

面接現場での内定辞退の現状

面接現場でも同様の問題が発生しています。「内定辞退が多く困っています。辞退防止に効果的な内定者フォローの方法を教えてください」という相談が多く寄せられます。しかし多くの場合、問題は内定者フォローではなく、内定前の関係構築にあります。

多くの企業では、面接回数が少ないうちに内定を出しています。具体的には1回か2回の能力チェックだけで内定を出すことがほとんどです。しかし、内定後にフォローをしても手遅れです。内定を出した瞬間に主導権が相手に移り、相手が選ぶ立場になります。重要なのは内定前のフォローです。面接回数を増やし、互いに理解を深め、志望度を高めてから内定を出すことが必要なのです

このアドバイスに対し、「若い求職者は時間効率を重視するため、面接を何度も行うと辞退されるのでは?」と懸念する企業も多いです。しかし、面接回数が少ないうちに内定を出すというやり方では内定辞退が止まらないのが現状。

求職者は御社以外も応募しています。もし他の会社が、求職者の話をじっくり聞き、実績や強みを引き出し、それらを自社ならどう活かせるのか、自社とどうマッチしているのか、きちんとフィードバックをし、入社後のキャリアビジョンも明確に提示していたらどうでしょうか。

別日には複数の社員と面談の機会をつくり、職場も案内し、座席はどこか、隣の席はどんな人なのか、パソコンの種類、支給携帯の種類、チャットツール、置き型お菓子はあるのかなどの、デスクから半径5mの細かい職場環境まで伝えていたら、求職者はどちらを選ぶでしょうか。

効果的な内定前フォローの方法

私も日々大学生と接する機会があるので、彼らがタイパ重視であることには同感です。確かに応募する企業を絞り込む過程はタイパ重視だと感じることがあります。数年前までのように、たくさんの会社にエントリーをしたり、会社説明会に参加したりする学生はほとんどいなくなりました。

しかしそれでも複数社から内定を獲得できるのが、超売り手市場の現実です。その中から最終的に入社を決断するは、自分が会社のことをよく理解し、逆に自分のこともしっかり理解してくれた会社です。会社のことをよく分からず、自分のどこを評価されたのかも分からない状態で内定を出されても、決断することはできません。冒頭の学生のように「誰にでも内定を出しているんじゃないの?」と思われるリスクもあります。

単純接触効果を活用する

単純接触効果(ザイアンスの法則)によれば、会う回数が増えるほど相手を好意的に感じるようになります。タイパ重視の若者も例外ではありません。最低でも3回は接点を持つことをおすすめします。そのうち2回はオンラインでも構いませんが、職場の雰囲気や社員の空気感は対面で伝える必要があるため、1回は対面を取り入れてください。

具体的なステップ

1回目
求職者と年齢の近い先輩社員とのカジュアルなオンライン面談。雑談を中心に相互理解を深め、自社の価値観やカルチャーとの適合性を確認します。

2回目
オンラインで求職者の強みや実績、価値観を深掘りし、入社後の具体的なポジションや仕事内容を伝え、スキルの適合性を確認します。
2回目の選考をクリアした求職者へは、最終面接の案内を事務的に行うのではなく、これまでのフィードバックを基に評価ポイントや改善点を伝えます。

3回目(最終面接)
対面で行い、トップが登場し、会社や業界の課題を正直に共有し、求職者と共に解決していく未来を語ります。また、職場案内や先輩との座談会を設け、対面ならではのアピールを行います。内定を伝える際も、なぜ内定を出すのか、どのポジションで何を期待しているのか、一緒に解決したい未来について熱意を持って伝えます。

まとめ

このように、内定後のフォローでは効果がほとんどありません。内定前に「この会社から内定が出たら入社を決める」と志望度を高めることが、内定辞退を防ぐ鍵です。そのためには、面接回数を増やし、相互理解を深め、求職者と自社のフィットポイントを丁寧に伝えることが重要です。

桜井 透

人事の扉株式会社 代表取締役
新卒から20年間、人材・採用業界に従事し、地方の中小企業700社以上の採用を支援。「母集団いらない」「志望動機を聞かない」「エントリーシート廃止」など、大手就活ナビや大手企業が提唱する成功セオリーを否定し、地方の中小企業独自の採用戦略と手法を構築。採用の本質と最新トレンドを組み合わせ、最適な解決策を提案し採用成功をサポート。新卒・中途・アルバイト・パートの採用支援実績あり。自治体、商工会議所などが主催する300回以上のセミナーを通じて、中小企業が即実践できる採用成功事例やノウハウを提供している。

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