不確実な社会で活かされるOODAループ思考

明星大学経営学部特任教授/オフィスたはら 代表
田原 洋樹

はじめに 

OODA(ウーダ)ループは、PDCAサイクルに代わる新たな意志決定と行動のプロセス理論と言われ、近年、日本の様々なビジネスシーンで活用されています。

PDCAサイクルは予測データに基づき、業務の改善や効率化を図る事前対応型のプロセス理論でした。一方、現代社会はVUCA(予測が困難な)時代と言われています。今起きている事実データを観察(Observe)し、情勢を判断(Orient)し、意志決定(Decide)から行動(Act)に移すという、迅速な意志決定と行動が今まで以上に求められる時代となりました。

本コラムでは、組織マネジメントで求められるOODAループの考え方と進め方について、事例を通じてわかりやすく説明します。

1. OODAループとは?

OODAループとは、軍事戦略家のジョン・ボイドによって提唱された、4つの特徴的な活動を理論化した意思決定のためのマネジメント理論です。4つの特徴について見ていきましょう。

①観察(Observe)「みる」
判断に必要な情報を集めるフェーズです。ニーズの把握、社会動向、組織内部の状況などの収集活動を意味します。          

②情勢判断(Orient)「わかる」
観察で得た情報を経験、知識、アイデア、社会環境などをもとに方向づけを行うフェーズです。どのような状況下にあるか、得られた情報をもとに全体像を明らかにして、正確な情勢の判断を行います。

③意志決定(Decide)「きめる」
情勢判断を踏まえ、ある種の意志決定を行うフェーズです。直観的判断や論理的な判断をすることでもあり、もし判断に自信が持てないなら、仮説を立案して検証して決定を行います。

④行動(Act)「うごく」
意志決定にもとづく行動を行うフェーズです。仮説を検証して、結果が異なれば、再度観察に戻って、行動のフィードバックを反映した上で、見直しを行います。

これらの4つのフェーズを繰り返す(ループさせる)ことで、マネジメントを円滑に進めます。

2. OODAループとPDCAサイクルの違いとは?

OODAループに似たマネジメント理論としては、PDCAサイクルが有名です。では、OODAループとPDCAサイクルの違いは何でしょう。PDCAサイクルは、計画を前提としたマネジメントサイクルですが、OODAループは、ミッション遂行を前提とし、ミッション遂行に必要な権限、自由度が与えられていると言います。不確実性の高い状況では、事前に綿密な計画をするのではなく、到達地点としてのミッションが与えられるOODAループの方が有効とされています。

PDCAサイクルOODAループ
不確実性低い高い
命令のタイプタスク型命令ミッション型命令
タスク反復的創発的
対応の重点事前対応事後対応
データ予測データ事実データ
専門性・特殊性の要求低い高い
行動に関する判断上位判断現場判断
出所)チェット・リチャーズ著,原田勉訳(2019)「OODA LOOP(ウーダループ)次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」,
東洋経済新報社を一部加筆修正

3. ハンガリー軍のエピソード(なぜ、ハンガリー軍の偵察部隊は猛吹雪のなかで帰還できたのか?)

第2次世界大戦時、ハンガリー軍は、アルプス山脈の野営地から偵察隊を送り出したが、直後に激しい吹雪に見舞われました。しかし、隊員の1人が、たまたまポケットに持っていた地図によって、3日間かけて無事に野営地に帰還することができたそうです。ところが、帰還後、この隊員の地図はアルプス山脈の地図ではなくピレネー山脈の地図であったことが判明しました。つまりハンガリー軍の偵察隊は、「間違った地図」によって、無事に帰還を果たしたのです。

この事例からの示唆は、「間違った地図」の行動的意味であり、地図があったからこそ、冷静さを取り戻し、行動に移行することができたという点にあります。不確実性が高い状況の中では、地図のような大きな方向性を示す計画よりも、実際は行動を通して情報を集め、ミッションを遂行する(無事に帰還する)ことが重要であることを象徴するエピソードです。まさにOODAループ思考の有効性を語るエピソードですね。

4. ビジネスへ応用

OODAループは、既述の通り、もともとは軍事戦略に活用されてきました。しかし近年、これをビジネスに援用しようとする動きが見られます。実際、日本においても、大企業から中小企業、個人事業や行政の現場でも幅広く活用されています。一方、従来親しまれてきたPDCAサイクルからOODAループに完全に切り替えるということではなく、双方のメリットデメリットを加味して、マネジメントシーンに応じた「使い分け」が必要となります。ポイントは、VUCA的な環境下に置かれているか否か、短期的かつ即応性が求められる状況か否かなどを見極めることが重要です。以下にまとめます。

PDCA
「目標設定」から始まるので、目標が明確になり、ブレずに取り組みやすい。
安定した環境での品質管理や一定期間かける取組などに適している。
不確定な要素が多く、目標が描きづらい状況では、出発点となる目標設定がしづらい。

活用しやすい点

注意する点

OODAループ
「観察」から始まるので、変化が速い状況に対応しやすい。
変化が起こりやすく、変化のスピードが速い環境やスピーディな意思決定に適している。
個人の判断で行動する部分が多いので、明確な目標やメンバー間の意識のズレなどがある組織では実施しても成果があがりにくい。

出所) 厚生労働省「生産性&効率アップ必勝マニュアル~マネジメント手法~,K : PDCAサイクルとOODAループ」https://www.mhlw.go.jp/content/001297217.pdf

それでは、実際に現場でOODAループを導入した場合に、OODAループがうまくまわっているかを、客観的に評価する「チェックリスト」をご紹介します。厚生労働省で推奨されているもので、簡単にチェックが可能ですので、是非現場でご活用ください。

OODA

  • 市場、商圏、顧客、競合、技術・商品などの状況を観察し、何か変化はないかを常に情報収集しているか
  • 起こっている変化や事象に対して、なぜ変化しているのか?なぜこうなっているのか?といった考察をしているか
  • 起こっている変化や事象に対して自社・自店が適応できているか、これまでの判断や行動に問題がなかったかを振り返っているか
  • 状況判断や考察結果に基づき、素早く打ち手を考え、実行しているか
  • 取組結果を振り返り、状況に応じて次の打ち手を考え、実行しているか
  • 観察→状況判断→意思決定→行動を素早くまわして状況に対応できているか

出所) 厚生労働省「生産性&効率アップ必勝マニュアル~マネジメント手法~,K : PDCAサイクルとOODAループ」https://www.mhlw.go.jp/content/001297217.pdf

おわりに

OODAループが日本のビジネスシーンで取りあげられるようになったのは、ごく最近です。実際に現在、Amazonで販売されているOODAループ関連図書は2018年以降に出版されたものがほとんどで、その大半は2020年以降、つまりコロナによるパンデミックや、ロシアによるウクライナ侵攻、中東での紛争など、近年の不安定な国際情勢とともに注目を集めてきた最新のマネジメント理論と言えます。言い換えると、本コラムをお読みくださった皆様は、OODAループのアーリーアダプター(初期採用者)と言えるのです。ぜひ、この新たなマネジメント理論を現場で実践してみてください。

田原 洋樹

明星大学経営学部特任教授/オフィスたはら 代表
奈良県生駒市出身。大学を卒業したのち上京、大手旅行会社JTBで15年間に渡り、 法人ソリューション営業を担当する。2005年には当時の史上最年少営業マネージャーとして活躍した。 2011年に株式会社オフィスたはらを設立、民間企業のリーダー開発や組織マネジメント、 講演活動を数多く行う。2017年4月~現在、明星大学経営学部・特任教授として、 地域創生やブランドマーケティングなどをテーマに講義を行っている。 2024年3月北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)にて博士号を取得(知識科学) 趣味はマラソン(フルマラソンは通算18回完走、自己記録3時間21分)

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