「アルムナイ採用」(出戻り採用)を成功させるポイント
株式会社人材研究所 代表
曽和 利光
「アルムナイ採用」とは何か
「アルムナイ」(alumni)とは、「卒業生」「同窓生」という意味の英語です。つまり、「アルムナイ採用」とは、自社の退職者(OB・OG)の中から再び人を探す、言わば「出戻り社員」を採用する方法です。実は筆者もその経験があるのですが、一度辞めた会社に再び入社する「出戻り」採用は、昔からたまにあることではありました。しかし、最近では「あえて」アルムナイをターゲットにして採用活動を行う会社が増えてきたために、この言葉がよく使われるようになってきました。
数々の有名企業も導入
一見すると、人材採用に困っていないのではないかと思うような大企業や有名企業でもアルムナイ採用は実施されています。例えば、日立製作所はアルムナイ等を対象にした「タレントプール」(人材データベース)を作り、退職者に登録をしてもらって、日立製作所の現在のニュースなどを中心とした情報提供を行うことで、将来的な再入社の可能性を高める活動をしています。他にも、三菱電機や味の素、野村ホールディングス、ニトリ、富士通等、アルムナイを対象に、情報提供をしたり、イベントを行ったりする企業は枚挙にいとまがありません。
有力な転職「潜在層」の一つがアルムナイ
アルムナイ採用が注目されている理由は、根本には少子化を背景とした人手不足があります。現在では、新卒も中途も高卒もあらゆるチャネルにおいて求人倍率は高止まりしており、その結果、失業率も3%を切るいわゆる「完全雇用」の状態になっています。世の中には長い間職を探しているような人は少なくなっているため、企業側は転職「顕在層」だけではなく、「潜在層」つまり転職活動を意識的に行ってはいない層もターゲットにして、アグレッシブな採用活動をしなければならなくなっています。その有力なターゲットの一つがアルムナイというわけです。
自社の文化を理解してくれている
アルムナイが有力なターゲットである理由はいくつもあります。例えば、自社の文化や仕事における価値観や考え方などを理解してくれていることは大きなメリットです。在籍している時は気づかなかった良さが、辞めてから分かることもよくあります。アルムナイの中には、もう一度あの文化の中で仕事をしたいと思ってくれる人もいることでしょう。そういう人がもし再入社してくれたら、今度は自社の文化の良さをちゃんと意識して実感して働いてくれることでしょう。
高いロイヤルティで働いてくれる
また、「出戻り」を許してくれたことは恩義を感じることにつながり、高いロイヤルティで組織に貢献してくれる可能性も大です。人は「好意の返報性」と言って、自分に好意を向けてくれた人に対して同じく好意を持つものです。一度辞めた自分に対して、快く迎え入れるという好意を向けてくれた会社に対しては、ふつうの人であれば多大な好意を抱くはずです。そして、自社の良さを意識しなくなった社内の人に対して、いかに今の会社が素晴らしいかを宣伝してくれることでしょう。
まず「辞める時」の対応が肝心
さて、このようなアルムナイ採用ですが、成功させるためにはどのようなことをすればよいでしょうか。最初に重要なことは、イグジットマネジメント(出口管理)です。退職時の経験がひどければ、その後、再入社など望むべくもありません。退職者を「落ちこぼれ」や「裏切り者」のように扱うのはもっての外です。いろいろ事情があったとしても、気持ちよく次のステージに送り出してあげることで、将来の再入社の可能性も高まるというものです。また、連絡手段がなければアプローチもできないので、退職時にそれを聞いておき、退職後の情報提供や連絡の許可も得ておく必要があります。
定期的な情報提供を行う
その上で、アルムナイの人たちと定期的に交流できるような場やイベント、メディアを作ります。よくあるのはOB・OG会を会社側が支援したり、会社が主催で作ったりすることです。支援というのはイベントの会場にオフィスの会議室を貸し出すようなことから、資金援助までいろいろな方法があります。また、社内報をアルムナイにも送り続けたり、自社に関するニュースを定期的にまとめてメールマガジンなどのような形で提供することで、定期的に自社のことを思い出してもらうようにします。
多様な受け皿を用意しておく
最後に、アルムナイを受け入れるために雇用形態に多様性を持たせることも重要です。会社を辞める理由は様々です。中には会社のことが大好きでも、家庭の事情や、ライフステージによって働き方を変えたくなって辞めたというような人もいます。そういう人も含めて「出戻り」採用を行うには、時短やリモートワーク、契約社員、業務委託など、様々な働き方の形態を用意しておくことが重要です。このような準備をしておくことで、アルムナイがある時ふとキャリアチェンジを考えた際に、元いた会社を思い出し、実際に戻ってきてくれる「アルムナイ採用」が実現できるのです。
セミナー情報
今回ご寄稿いただきました曽和利光先生のBizWebinar「会計事務所にとって最強の採用手法「アルムナイ採用」を成功させるポイント」が2024年7月11日(木)14:00~16:00 に開催されます!
会計事務所がアルムナイ採用を実践するためのポイントや、実際の採用の進め方について、曽和先生に詳しく解説していただきますので、ぜひ、多数の方々からのご参加をお待ちしております。
曽和 利光
株式会社人材研究所 代表
株式会社人材研究所代表取締役社長。日本採用力検定協会理事、日本ビジネス心理学会理事。
情報経営イノベーション専門職大学客員教授。リクルート時代に採用・育成・制度・組織開発・
メンタルヘルスなど、様々な人事領域の業務を担当し、同社の採用責任者に。
ライフネット生命、オープンハウスの人事責任者を経て、2011年人材研究所を創業。
実務経験を活かした、リアルで実効性のある人事コンサルティングや研修、
採用アウトソーシングなどをこれまで数百社に対して展開。
著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)、
『コミュ障のための面接戦略』(星海社)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)など
多数。