アメリカの関税15%の影響とは?税理士・会計士が検討すべき対策

アメリカとの貿易において、関税が15%に引き上げられることが決定しました。これは、日本の多くの企業、特にアメリカと取引のある企業にとって経営戦略の根本的な見直しをしなければならない事態です。
税理士・会計士は、新しい関税率が事業に与える影響について、クライアントから具体的な相談を受ける機会が増えるでしょう。
この記事では、関税15% 影響が具体的にどのような形で企業に影響を及ぼすのか、専門家としてどのようなサポートを提供できるかについて解説します。
目次
関税15%引き上げが企業に与える財務的な影響とは

アメリカとの貿易における関税率が15%に引き上げられたことは、単純にコストが増えるだけというわけではありません。これは企業の損益計算書、貸借対照表、加えてキャッシュフロー計算書のすべてに影響を及ぼします。
税理士・会計士がクライアントに対して的確なアドバイスを行うためには、この影響を財務諸表の各項目と結びつけて理解しなければなりません。最初に、関税率の上昇が企業の財務にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
損益計算書への直接的な影響
最も直接的な影響は、売上原価の増加です。アメリカから原材料や部品を輸入している企業は、関税率が15%に上昇することで仕入コストが大幅に増加します。このコスト増は製品の製造コストを押し上げ、結果として売上総利益が少なくなってしまいます。
増加分を製品の販売価格に転嫁できるかどうかは、企業の収益性を左右する重要なポイントです。市場での競争が激しい業界では、簡単に商品の値段を上げると顧客が離れてしまう危険があるため、慎重に考える必要があります。
また、仕入れコストが増えると在庫の評価額にも影響があり、決算時のクライアントの利益にも影響する可能性があります。
貸借対照表への影響
関税率の変更は、貸借対照表にも影響を及ぼします。仕入コストの増加は、棚卸資産の取得原価を直接的に引き上げることになります。結果、貸借対照表に書かれている在庫の金額が大きくなり、クライアントの財産のバランスが変わってきます。在庫を多く抱える企業にとっては、関税引き上げ前に仕入れたものと、引き上げ後に仕入れたものの評価を正確に区別しなければなりません。
また、関税の支払いは、企業の流動資産である現金・預金に直接的な影響を与えます。関税の支払いサイクルによっては、一時的に手元資金が減少し、クライアントの事業を回すための資金が不足するリスクも考慮しなければなりません。
キャッシュフロー計算書への波及
関税の支払いは、企業のキャッシュフローに大きな影響を与えます。支払いは商品の仕入と同時に発生することが多く、これはキャッシュアウトのタイミングを早めます。特に、アメリカとの取引額が大きい企業にとっては、関税の増加が一時的な資金繰りの悪化を招くリスクがあるでしょう。
キャッシュフロー計算書上では、「営業活動によるキャッシュフロー」において、仕入債務の増加や現金支出の増加として現れることになります。
税理士・会計士は、クライアントの詳細なキャッシュフロー予測を行い、必要に応じて資金調達の提案や、金融機関との連携をサポートをしなければなりません。
関税15%による企業の課題と税理士・会計士がすべき対策
関税15%への変更は、企業のサプライチェーン、価格戦略、そして事業継続性にまで影響を及ぼします。このような状況で、クライアントは様々な課題に直面することになります。
税理士・会計士は、これらの課題を事前に察知し解決策を提示することで、クライアントの信頼をさらに深められるでしょう。ここでは、関税の引き上げによって企業が直面する具体的な課題と、専門家として提案すべき対策を解説します。
サプライチェーンの再構築とコスト削減
関税15%への変更は、アメリカからの輸入に依存しているサプライチェーンの供給体制の弱点が見えてきます。企業は、アメリカ以外の国からの調達先を検討したり、国内での生産に切り替えたりするなど、仕入れの方法を根本から見直す必要があります。
税理士・会計士は、クライアントの調達戦略を分析し、以下の点を正確に試算して最適な戦略を提案しなければなりません。
- 新しい仕入れ先を見つけるためのコスト(輸送費、品質管理費など)
- 国内生産への切り替えにかかる初期投資(設備投資、人件費など)
また、関税の適用を最小限に抑えるための原産地規則の活用や、保税倉庫の利用など、専門的な知識に基づくアドバイスも有効です。
価格戦略の見直しと市場競争力の維持
仕入コストの増加は、製品の販売価格に影響を与えます。値上げができないとクライアントの利益が減ってしまう可能性がある一方、価格転嫁を行った場合、市場での競争力が低下するリスクがあります。税理士・会計士は、クライアントのコスト構造を詳細に分析し、値上げができるかどうか、そしてそのリスクを見極めなければなりません。
また、価格転嫁が難しい場合でも、他のコスト削減策(製造プロセスの効率化、販管費の削減など)を組み合わせることで、収益性を維持する提案を行うことが重要です。顧客に対する商品の価値を改めて考え、値上げしても納得してもらえるような方法をともに考えることも、専門家としての大切な役割です。
税務上のコンプライアンス強化と節税対策
関税率の変更に伴い、新たな税務上の問題も発生する可能性があります。例えば、関税を支払った後の仕入税額控除の取り扱い、関税に関連する費用の損金算入の可否など、専門的な知識が必要となるケースが増えるでしょう。
税理士・会計士は、新しい税金の法律や関税のルールをチェックし、クライアントがコンプライアンスを遵守できるようサポートしなければなりません。
また、関税の削減を目的とした国際税務戦略、関税評価額の適正化や、FTA(自由貿易協定)の活用など、専門家だからこそできる節税対策を提案しましょう。
資金繰り改善と金融機関との連携支援
関税の増加によりクライアントから資金が出ていくスピードが速くなり、資金繰りが苦しくなる可能性があります。
税理士・会計士は、クライアントの資金繰り計画を詳細に作成し、将来的なキャッシュ不足を予測する必要があります。そのうえで、資金を集めるための具体的な対策をすることが重要です。
- 金融機関への融資相談
- 有利な条件での借入
- 補助金や助成金の活用
- 銀行への融資の相談
専門家としての知見を活かし、金融機関納得するような事業計画書を作ることも、重要な役割といえるでしょう。
関税変更を乗り越えるためのサポート

関税率変更は企業にとって大きな課題ですが、同時に新たなビジネスチャンスや効率化の機会でもあります。税理士・会計士は、単に問題を指摘するだけではなく、具体的な解決策を提示することも重要です。ここでは、専門家として、クライアントをどのようにサポートできるかについて解説します。
ビジネスのやり方を変えて新しいチャンスを作る
関税の引き上げは、これまでのビジネスモデルを見直す良い機会です。例えば、アメリカへの輸出に依存していた企業は、新たな市場(アジア、ヨーロッパなど)への展開を検討する必要が出てくるかもしれません。
税理士や会計士は、新しい市場の税金のルールや法律、かかる費用などを調べて、クライアントの経営戦略を一緒に考えるパートナーになれます。
また、関税引き上げを逆手に取り、国内生産を強みとして「Made in Japan」をアピールするなど、これまでになかった価値を生み出すアイデアを提案することもできるでしょう。
専門家ネットワークの活用と役立つ情報の発信
国際的な経済変動に際しては、最新かつ正確な情報が不可欠です。税理士・会計士は、同業者や弁護士、コンサルタントなどとのネットワークを積極的に活用し、常に最新の情報を収集・共有することで、クライアントに質の高いサービスを提供できます。定期的なセミナー開催やニュースレターの発行を通じて、関税に関する最新情報や対策事例をクライアントに提供する方法も有効です。
信頼されるパートナーとして長く続く関係を築く
関税変更のような予期せぬ事態は、クライアントとの関係性を深める機会でもあります。税務や会計の枠を超えて経営全般にわたる相談に応じることで、企業の成長を支える信頼されるパートナーとしての地位を築くことができます。関税引き上げが原因で起きた問題を一緒に乗り越えることで、クライアントとの関係は今よりもっと強くなるでしょう。
関税15%の影響を乗り越え企業の成長を支える
アメリカとの関税率変更は、税務や会計の問題に留まりません。これは企業のビジネスのやり方そのものを揺るがす大きな経営課題です。
税理士・会計士は、財務の専門家としてこの変化を的確に分析し、クライアントが成長し続けるための最適な選択肢を提示しましょう。

税理士.ch 編集部
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