助成金受給で消費税返還が必要?判断基準と仕訳・申告の注意点

助成金受給で消費税返還が必要?判断基準と仕訳・申告の注意点

助成金は、企業経営の支援として国や自治体などから給付されるものであり、近年では雇用調整助成金や事業再構築補助金などが多くの企業で活用されています。

しかし、消費税返還については課税売上割合の修正や控除対象仕入税額の調整といった対応が必要となる場合があり、誤解やミスが税務リスクにつながります。そのため、これらの給付金が消費税の課税関係にどのような影響を及ぼすかは、税理士や会計士が慎重に検討しなければなりません。

本記事では、助成金の消費税返還義務が発生するケース、判定基準、対応方法などを詳しく解説します。

目次

助成金と消費税の関係

助成金の受給は企業にとって重要な経営資源ですが、その処理を誤ると消費税の申告に予期せぬ影響を及ぼすことがあります。税理士・会計士は、助成金の性質と消費税法上について正しく理解し、実務に反映させなければなりません。

最初に、不課税や非課税の基本と、助成金が課税売上割合に及ぼす間接的影響などを解説します。 

助成金は課税取引に該当する?

助成金が支給された場合、その取引が課税取引に該当するかどうか最初に判断しなければなりません。消費税法では、課税取引とは「資産の譲渡や役務の提供などの対価として金銭を受け取る行為」を指します。つまり、金銭の受領が取引の対価として行われたかどうかが課税対象の判断基準です。 

助成金の場合、その金銭は企業が提供したサービスの対価ではなく、国や自治体などが政策目的で支給するものであり、一般的に「対価性」がないとされています。そのため、多くの助成金は「課税取引」ではなく、そもそも消費税の課税対象外の「不課税」として扱われます。

不課税と非課税の違い

「不課税」と「非課税」は似たように見える用語ですが、税務上は明確に区別されています。 

非課税とは、本来は課税対象となる取引であるにもかかわらず、法律によって例外的に課税が免除されているものです。例えば、土地の譲渡、住宅の賃貸、保険料、医療などが該当します。

一方で、不課税とは助成金、寄附金、罰金、補償金など消費税の課税の対象にならない取引です。助成金の多くは給付であり、事業者のサービス提供に対する対価ではないため、不課税として処理されます。

税務申告においてこの区別を誤ると、課税売上割合の算定や仕入税額控除の判定に誤差が生じ、消費税の還付額や納税額に影響を与える可能性があるため注意が必要です。

このように、助成金は消費税が課される性質のものではないため、通常は売上としての消費税申告には関係しません。しかし、消費税の仕入税額控除の算定においては、課税売上割合を下げる要因となる可能性があるため注意しましょう。

会計処理と消費税処理の連携と課税売上割合への影響

助成金の受給は、会計上は多くの場合「雑収入」として計上されますが、会計上の収益と消費税法上の課税関係は必ずしも一致しない点に注意が必要です。会計処理で収益として認識されたとしても、その助成金が消費税の課税対象外である「不課税収入」であれば、消費税の計算においては課税売上に含まれません。

特に、課税売上割合の算定時には重要なポイントになります。課税売上割合とは総売上高に占める課税売上高の割合を示すものであり、これが95%未満になると仕入税額控除の計算方法に制限がかかる可能性があります。

不課税である助成金が増加すると、総売上高(分母)が増えますが課税売上高(分子)は変わらないため、結果として課税売上割合が低下するリスクが起こるのです。これにより、過去に控除できたはずの仕入税額が控除できなくなり、消費税返還が必要となるケースもあります。

「対価性」があるかどうかが判断基準

消費税の課税関係を判断するうえで、対価性の有無は重要なポイントです。つまり、その収入が何らかの給付やサービスの提供に対する見返りであるかどうかです。助成金は、事業者が提供する商品やサービスに対する代価ではなく、政策目的に基づいて行政機関が交付する資金であるため、基本的には対価性が認められません。

ただし、例外的に対価性が認められるケースもあります。例えば、特定のサービス提供を条件として国や自治体が支払う補助金であれば、補助金付き取引と判断され課税対象になる可能性もあります。そのため、助成金の制度内容と支給要件を十分に確認しましょう。

課税売上割合への影響が生じる理由

助成金そのものは不課税であることが多いものの、消費税の申告・計算では間接的に大きな影響を与えることがあります。その最大の要因は、課税売上割合への影響です。

消費税の申告では、仕入税額控除を行う際に課税売上割合を計算する必要があります。課税売上割合とは、全売上に占める課税売上の割合を示すものです。これが95%未満であれば、原則として「個別対応方式」による仕入税額控除が必要です。つまり、課税売上に直接関連する仕入のみが控除対象となり、それ以外の仕入に係る消費税は控除できません。

助成金のような不課税収入が増加すると、分母である「総売上高」に対して非課税・不課税の収入の比率が上がります。結果として、課税売上割合が95%を下回るリスクが高くなり、仕入税額控除の適用範囲が狭まり、消費税の返還が必要になるのです。

助成金の種類による消費税への影響の違い

助成金の種類によって、消費税への影響度合いも異なります。例えば、雇用関連助成金は多くの場合、企業の売上活動とは直接関係がなく完全な不課税収入として処理されます。

一方で、設備投資型の補助金(事業再構築補助金など)は、対象経費に対して補助金が支給される仕組みであり、該当する支出に対する消費税の控除可否に直結します。

このように、助成金の性質や支給根拠、使用目的に応じて消費税計算への影響も変化します。制度ごとのガイドラインやFAQを丁寧に確認し、慎重に取り扱いましょう。

助成金による消費税返還が必要となる条件と注意点

具体的にどのような場合に、助成金の受給によって消費税の返還が必要になるのでしょうか。ここでは、助成金による消費税返還が必要となる条件、返還義務が発生しないケースを紹介します。

消費税返還が必要となるケース

消費税返還が必要な条件は、助成金が不課税収入であることです。これは多くの助成金で該当しますが、なかには例外的に課税対象となる補助金もあるため、制度ごとに確認しましょう。

また、助成金の金額が大きく、受給によって課税売上割合が95%未満になる場合も消費税返還が必要です。

さらに、原則課税方式を選択している場合も該当します。これらの要件が重なると、仕入税額のうち課税売上に対応しない部分の控除が制限され、過去に申告した税額との間に乖離が生じ、結果として追加納税である「消費税返還」が求められます。

返還義務が発生しないケースもある

すべての助成金で消費税返還が発生するわけではありません。例えば、支給額が小規模で課税売上割合に大きな影響を与えない場合、または課税売上自体が非常に高額である場合などです。課税売上割合が95%を下回ることはなく仕入税額控除の制限がかからないため、返還の必要はありません。

また、簡易課税制度を適用している事業者についても売上高に対する業種別の「みなし仕入率」で仕入控除額が算出されるため、課税売上割合の影響を受けません。そのため、助成金受給によっても消費税返還が発生する可能性は低いといえます。

税務上の取扱いと実務上の注意点

税理士や会計士が注意すべきポイントは、助成金の会計処理だけではありません。

消費税においては、受給した助成金が会計上「雑収入」などで処理されていても、その内容に応じて課税売上割合の影響が異なるため、正確な判断と説明責任が求められます。 

実務では、助成金の受給時期が年度末に集中することが多く、課税売上割合の再計算や控除制限の適用判断を誤りやすいタイミングでもあります。

特に、年次決算時においては「仕入税額控除の調整計算」を行い、前年の申告内容と突き合わせながら適正な修正申告の要否を検討しなければなりません。

助成金受給後の消費税処理には専門知識と対応力が必要

助成金の受給は企業にとって大きな経済的支援ですが、複雑な消費税の処理が求められます。消費税の返還が発生するかどうかは、課税売上割合の推移や、事業者の税制選択、助成金の内容によって大きく異なります。実務においては、年度ごとの売上構成や受給実績を細かく分析し、申告の際には慎重に確認することが重要です。

また、近年は助成金制度の変更や新設が頻繁に行われており、制度内容のアップデートに継続的に対応しなければなりません。

クライアントにアドバイスをする際には、こうした背景を踏まえて丁寧な解説を行い、税務リスクを回避することが専門家としての役割といえるでしょう。

税理士.ch 編集部

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