【令和7年度税制改正】中小企業投資促進税制の延長について、その概要や延長内容など

中小企業投資促進税制は、青色申告書を提出する中小企業者等が機械装置やソフトウェア等を新しく取得または制作する際に、取得価額の30%に相当する特別償却、または7%の税額控除を選択適用できる制度です。
また本制度は、2023年(令和5年度)の税制改正で適用期間が2年間延長され、1998年(平成10年)6月1日から2025年(令和7年)3月31日までの指定期間内に、要件を満たした中小企業者等が新しい機械設備等を取得または制作して設備投資をした際に適用されています。
令和7年度税制改正においては、この中小企業投資促進税制の適用期間がさらに延長されるとともに内容の改正が一部図られました。
本記事では、中小企業投資促進税制の概要、延長内容や制度利用上の注意点について詳しく解説します。
目次
中小企業投資促進税制とは?

中小企業投資促進税制とは、青色申告を提出して一定の要件を満たした法人や個人事業主が機械装置等の設備の取得や制作の投資を行ったときに、その取得費用の30%に相当する特別償却か、7%の税制控除のいずれかの適用を受けられる税制のことをいいます。
中小企業投資促進税制の目的は、税制を利用して積極的に設備投資を行う中小企業・個人事業主の数を増やし、最終的に中小企業者等の生産性向上を図ることです。
また中小企業者等は、中小企業投資促進税制を利用し上記の適用を受けることで、大きな節税効果を期待できます。
このうち、資本金が3,000万円以下の中小企業等の場合は特別償却か税額控除のどちらかを選択でき、資本金が3,000万円を越えている中小企業等の場合は特別償却のみの適用となります。
中小企業投資促進税制の概要
中小企業投資促進税制は、数年単位ごとの税制改正でその内容が度々変更されており、直近の2023年(令和5年)の税制改正では、本税制の適用期限が2025年(令和7年) 3月末まで延長されています。
以下が直近の制度改正に基づく中小企業投資促進税制の概要です。
対象者 | ・中小企業者等(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合、商店街振興組合等) ・従業員数1,000人以下の個人事業主 |
対象業種 | 製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業については生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業(映画業以外の娯楽業を除く)、不動産業、物品賃貸業 (※)性風俗関連特殊営業に該当するものは除く |
対象設備 | ・機械及び装置【1台の取得価額が160万円以上】 ・測定工具及び検査工具【1台の取得価額が120万円以上、1台の取得価額が30万円以上かつその年度の取得価額の合計額が計120万円以上】 ・一定のソフトウェア【一のソフトウェアの取得価額が70万円以上、その年度の取得価額の合計額が70万円以上のものを含む】 (※)複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除く ・貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)▪内航船舶(取得価格の75%が対象) |
措置内容 | ・個人事業主及び資本金3,000万円以下の中小企業の場合30%特別償却または7%税額控除 ・資本金3,000万円超の中小企業の場合30%特別償却 |
(※)以下の設備類は本投資促進税制の対象設備から除外する
①中古品②貸付の用に供する設備③匿名組合契約等の目的である事業の用に供する設備④コインランドリー業(主要な事業であるものを除く)の用に供する機械装置でその管理のおおむね全部を他の者に委託するもの
(※)対象設備において、総トン数500トン以上の内航船舶にあっては、船舶の環境への負荷の低減に資する設備の設置状況等を国土交通大臣に届け出た船舶に限定する
(※) 所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとされる資産については、特別償却の規定は適用されないが、税額控除の規定は適用される
参照先:中小企業投資促進税制|国税庁、所有権移転外リース取引|国税庁
中小企業投資促進税制の優遇措置
中小企業投資促進税制に係る優遇措置には以下の2つがあります。
- 特別償却
- 税額控除
最終的に生産力向上に資するとはいえ、資本力に乏しい中小企業や個人事業主にとって負担となるのが設備投資です。しかし中小企業投資促進税制に係る優遇措置を活用することで、中小企業等でも設備投資が実施しやすくなります。
特別償却
特別償却とは、機械装置等の設備類を取得または制作した年度に、通常の減価償却(普通償却)処理に加え、30%の減価償却を追加で適用できる制度です。
特別償却では、普通償却と別に追加で経費の計上が行えるため、特に設備の取得年度に多額の償却が利用でき、取得年度の課税所得がその分だけ圧縮できるので、法人税の節税効果が見込めます。
一方で減価償却は、最終的には取得価額相当額(残存価額1円)までしか費用化できないため、特別償却を使うと償却(費用化)のペースは早まるものの、それはあくまで将来に償却できたものを前倒しで償却しているに過ぎず、償却期間全体では法人税の支払総額は変わらないことに注意が必要です。
ただし注意点は別として、特別償却を利用すれば、当面の対外的な支出が軽減でき、資金繰りの改善にもつながるので、利用する価値は高いといえるでしょう。
税額控除
税額控除とは、機械装置等の設備類を取得または制作した年度の課税所得に対する法人税を計算後に、取得価額の7%相当額を法人税額から直接差し引き(控除)できる制度のことをいいます。
特別償却は償却期間内の減価償却処理を早めることで間接的に節税効果を狙った制度ですが、税額控除は法人税から直接相当額を控除できるので、特別償却に比べ確実な節税効果があります。
特別償却と税額控除の選択について
中小企業投資促進税制利用の要件を満たした中小企業等が本税制を利用する際には、特別償却と税額控除のいずれかを選択する必要があります。
双方の併用はできません。
選択に当り、判断の基礎として、まずは自社の現在の経営・財務状況を的確に把握しておく必要があります。
特別償却の特徴として、短期間の税金負担を軽減できるものの、長期的には難しいという点があります。一方、税額控除は、納税額を減らすという直接的なコスト削減策を通じて長期的な節税効果が見込めます。
それらの特徴を自社の財務状況と照らし合わせて、どのように選択し活用していくか、その見極めが大事です。
さらに将来的な設備投資計画も選択時の重要な判断基準になります。今後、継続的な設備投資が予定されていたり、一定の資金繰り確保が必要だったりする場合には特別償却の方が向いています。
一方、1回限りの大きな設備投資に対して、実質的なコスト削減を期待する場合には税額控除の選択が適切です。ただし自社だけで判断するのが困難な場合には、公認会計士や税理士等の専門家からの意見も聞いて、よりよい方法を選択していく必要があるでしょう。
必要書類
中小企業投資促進税制を利用する場合の手続きは、法人と個人事業主で方法が異なります。
ただし特別な手続きが必要なわけではありません。確定申告時にそれぞれ必要な書類を添付したり、必要事項を記載したりして申請します。
以下が法人・個人事業主別の提出書類です。
対象者 | 区分 | 必要書類 |
法人 | 特別償却 | 法人税の確定申告書に「特別償却の付表」(中小企業者等または中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)と適用額明細書を添付 |
同上 | 税額控除 | 法人税の確定申告書に「別表」(中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)と適用額明細書を添付 |
個人事業主 | 特別償却 | 青色申告決算書の「減価償却の計算」の「㋬割増(特別)償却費」の欄に特別償却の額を、「摘要」の欄に特例名(措法10 条の3)を記入 |
同上 | 税額控除 | 「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」を確定申告書に添付 |
参照先:中小企業投資促進税制|中小企業税制<令和6年度版>|中小企業庁
令和7年度税制改正大綱での中小企業投資促進税制の延長のポイント

令和7年度税制改正の大綱で中小企業投資促進税制の延長が決定されました。
以下の2つがその主な決定内容です。
①適用期限の2年延長
現在、2025年(令和7年)3月31日までとなっている適用期限(指定期間)を2年延長して、2027年(令和9年)3月31日までとする。
したがって本制度は、2027年(令和9年)3月31日までの間に事業の用に供した設備機械等の資産に適用されます。
②みなし大企業の判定方法の変更
一定の承認会社(※)が農地所有適格法人の発行済株式総数の50%を超える株式を有する場合には、当該株式を除外して、農地所有適格法人における「みなし大企業(制度対象外)」の判定を行う。
(※)一定の承認会社とは、農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法に規定する承認会社のうち、地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会、農林中央金庫または株式会社日本政策金融公庫がその総株主の議決権の過半数を有しているものをいう
参照先:令和7年度税制改正の大綱|財務省
参照先:中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却の対象となる中小企業者の範囲|国税庁
中小企業投資促進税制の注意点
最後に中小企業投資促進税制を利用する際の注意点を解説します。
主な注意点は以下の2つです。
- 内容の追加・変更や期限について注意する
- 計画的に設備投資を図る
内容の追加・変更や期限について注意
中小企業投資促進税制については、令和7年度税制改正大綱でも適用期限の延長が図られたように、度々期限の延長や内容の追加・変更が繰り返されてきた税制です。
そのため、自社に有利な制度改定だけでなく、時には不利な内容が追加・変更されることもあるので、常に関心を持って都度確認しておくことが大事です。
適切な設備投資は生産性向上につながるだけに、税制内容を理解してタイミング良く利用すれば、資金繰りの改善や節税だけでなく、自社の売上げ拡大や利益向上も図れます。
計画的に設備投資を図る
中小企業投資促進税制のメリットを最大限に受けるためには、計画的に設備投資を図る必要があります。
その際、中小企業投資促進税制は、取得・制作した設備等の支払いが事業年度内で完了してなくても、設備として稼働さえしていれば適用されるので覚えておいて下さい。
また投資を行った設備が、中小企業投資促進税制を利用できたとしても、実際の業務に十分活かし切れなかった場合には、投資として無駄になってしまう可能性もあります。
そのため制度の利用を目的とするのでなく、まずは会社にとって必要な設備投資を計画的かつ適切に行うようにしましょう。
さらに様々な要因から会社の利益が出ていない段階で設備投資を行うと、中小企業投資促進税制のメリットである特別償却や税額控除が活かせなくなることもあります。
それではもったいないので、できれば会社が利益を出しているときにうまく設備投資ができるよう、入念な投資計画を策定しておきましょう。
まとめ
中小企業投資促進税制は、特別償却と税額控除という優遇措置を使って、中小企業者等の設備投資を促進する制度です。
うまく利用すれば、事業者として大きな節税効果や資金繰り改善が期待できます。さらに効果的な設備投資ができれば、生産力向上や売上拡大等にも結びつきます。
令和7年度税制改正では、それらを期待して、本税制の適用期限がさらに2年間延長されました。
適用対象となる事業者としては、指定期限内でタイミング良く設備投資を行うことはもとより、次の期限が近づくと再度改正や延長が行われる可能性もあるので、制度を利用する際はきちんと内容を確認及び把握しておくことが大事です。

税理士.ch 編集部
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