会社の経営状況を示す安全余裕率とは?損益分岐点との関係と改善方法を考える
安全余裕率は、企業の売上高が減っても赤字に陥らずに経営を続けられるか、つまり、経営にどの程度の余裕があるのかを示す指標です。
順調に成長している企業でも売上高が順調に伸び続けるとは限らず、減ることもあります。台風や地震などの災害で被災したり、コロナ禍などの感染症の拡大により、事業をストップせざるを得なくなることもあります。
このような場合、安全余裕率が低いとたちまち、赤字に陥ってしまいます。こうした事態を避けるためには、普段から、安全余裕率を高めておくことが大切です。
目次
安全余裕率とは
安全余裕率とは、会社の売り上げが損益分岐点売上高をどれだけ上回っているかを確認するための指標です。
損益分岐点売上高を上回っていれば、安全余裕率はプラスになり、数字が大きいほど、利益を確保でき、経営が安定していることになります。
一方、損益分岐点売上高を下回っている場合は、安全余裕率はマイナスになり、赤字経営に陥っていることになります。
安全余裕率の計算方法

安全余裕率を計算するには、まず、損益分岐点売上高を求める必要があります。具体的な計算の流れを紹介します。
損益分岐点売上高を計算する
安全余裕率は、「損益分岐点売上高」を起点に、超えているか超えていないかを計る指標です。
そのため、まずは、損益分岐点売上高を知る必要があります。損益分岐点売上高とは、営業などに掛かる費用を収益でカバーして損益が0になる売上高のことです。
損益分岐点売上高の計算式は次のとおりです。
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益比率
※限界利益率=1-変動費÷売上高
では、損益分岐点売上高の計算式の例を確認しましょう。
売上高:1,000万円
固定費:400万円
変動費:200万円
限界利益率:1-200万円÷1,000万円=4/5(80%)
損益分岐点売上高:400万円÷4/5=500万円
上記の数字の場合は、損益分岐点売上高は500万円になるということです。
安全余裕率を計算する
損益分岐点売上高を求めたら、次に安全余裕率を計算します。安全余裕率の計算式は次のとおりです。
安全余裕率={(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高}×100%
実際の売上高から損益分岐点売上高を差し引き、この数字を売上高と比較した数字ということになります。では、安全余裕率の計算式の例を確認しましょう。
売上高:1,000万円
損益分岐点売上高:500万円
安全余裕率:{(1,000万円-500万円)÷1,000万円}×100%=50%
上記の数字の場合は、安全余裕率は50%になるということです。
(売上高-損益分岐点売上高)の部分は、安全余裕額を意味しています。
この安全余裕額が売上高に占める割合を示しており、この数字がプラスでかつ、高い割合であるほど、経営の安全性が高いことになります。上記の数字の場合は、売上が現在の50%まで減少しても、まだ利益を確保できることを意味しています。
会社が赤字の場合は安全余裕率はどうなるのか?
会社が赤字の場合は安全余裕率はどうなるのでしょうか。まず、会社が赤字ならば、売上高が損益分岐点売上高を下回っている状態ということになります。
次の数字で見てみましょう。
売上高:400万円
損益分岐点売上高:500万円
安全余裕率:{(400万円-500万円)÷400万円}×100%=−25%
上記の数字の場合は、安全余裕率は−25%になるということです。400万円の売上高では、100万円の営業損失が発生しており、会社の経営が危険な状態に陥っていることになります。
売上高を伸ばすか、損益分岐点売上高を下げない限り、会社の経営はいずれ行き詰ります。
安全余裕率は20%以上が安全圏
では、企業の安全余裕率は、どれくらいの数字であるのが理想なのでしょうか?
この点については、業種により異なりますが、少なくともマイナスでは経営が行き詰りますから、プラスを維持する必要があります。
おおむねの目安は次のとおりです。
| 安全余裕率 | 指標 |
| 0%未満 | 赤字の状態。迅速な改善が必要。 |
| 0%~10%未満 | 要注意の状態。改善が必要。 |
| 10%~20%未満 | 日本企業の平均的水準。 |
| 20%~40%未満 | 安全圏。 |
| 40%以上 | 理想的な水準。利益を多く確保できる。 |
安全余裕率は20%以上が安全圏とされています。
しかし、20%以上の数字を出すことはかなり難しく、日本企業の平均的水準は、10%~20%未満とされています。数字が芳しくない場合は、まず、平均的水準に入ることを目指しましょう。
安全余裕率を改善するには?

安全余裕率を改善する方法は3つあります。
- 売上高を増加させる
- 固定費を減らす
- 変動費を減らす
一つ一つ確認しましょう。
売上高を増加させる
安全余裕率を改善させるための最善の方法は、売上高を増加させることです。
売上高を増加させる方法としては、
- 販売数を増やすこと。
- 商品・サービスの単価を上げること。
の2通りの方法があります。
販売数を増やすには、営業を強化し、新規顧客を増やしたり、既存顧客に購入量や頻度を増やしてもらう方法が考えられます。
商品・サービスの単価を上げるには、販売価格を上げることが最も手っ取り早い方法です。ただ、価格を上げると顧客が離れてしまうケースもあるため、慎重に判断する必要があります。
固定費を減らす
固定費を減らすことも安全余裕率を改善する方法の一つです。代表的な固定費は次のようなものです。
- 役員報酬・給与賃金:役員報酬が高すぎる場合はカットすることを検討しましょう。給与についてはできる限りカットは避けたいところですがやむを得ない場合の手段になります。
- 通信費:電話代やインターネット利用料などです。
- 広告宣伝費:宣伝にかかる費用について効果があるのかよく検討しましょう。
- 接待交際費・消耗品費:接待交際費は取引先に対する接待などの費用です。消耗品費は消耗品の購入にかかる費用です。節約できるものは減らすべきです。
- 地代家賃:事務所の賃料が高額すぎる場合は、賃料の安い事務所への移転も検討しましょう。
固定費については、減らすことができる費用が限られていますが、次のような形での削減を検討しましょう。
- 役員報酬を減らす。
- 事務所や事業所の賃料を下げる。
- 人員を削減する。
- 効果の薄い宣伝をやめるなどして広告宣伝費を減らす。
どの手段を講じるべきかはケースバイケースなので、状況に応じて手段を選択しましょう。
変動費を減らす
変動費を減らすことも安全余裕率を改善する方法の一つです。代表的な変動費は次のようなものです。
- 売上原価:事業年度の売上高に対応する仕入相当額
- 材料費:原材料費、部品費など製品の製造にかかる材料費
- 労務費:製造部門の従業員の賃金や法定福利費など
- 外注費:外部に作業を委託する際にかかる費用
変動費は、商品やサービスを製造したり提供するのに必要な費用です。これを減らした場合は、生産量が減るため、売上自体が減ってしまうことがあります。
ただ、原材料の調達方法を見直したり、生産性を高めるなどして、変動費を減らせる可能性もあるので、検討の余地はあります。
安全余裕率は日頃から意識し高めておく
売上高が順調に伸びていても、売上が急激に落ちることがあります。特に避けられないのが、台風や地震などの災害やコロナ禍などの感染症の拡大により、事業をストップせざるを得なくなる場合です。
安全余裕率が低いとこうした時に、たちまち経営が行き詰まってしまいます。企業の経営者は、日頃から安全余裕率を把握し、非常時に備えて、安全余裕率を高めておくことが大切です。
まとめ
売上高が順調に伸びていても、様々な要因により、下落することがあります。このような場合、安全余裕率が低いとたちまち赤字に陥ってしまいます。
安定した経営を続けていくためには、安全余裕率を意識することが大切です。会計士や税理士の方は、顧問先の企業の安全余裕率を常に把握し、状況に応じて適切なアドバイスを行えるようにしておきましょう。
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