米の値上がり~真犯人はだれ?いろいろな原因を整理してみた

「去年の今頃は今の値段の半分だったのに・・・」——こう嘆く声があちこちで聞かれています。食卓の主役である米は、いつの間にか普通自分で食べるためには買わない高級食材のお歳暮やお中元のような値段となってしまいました。
異変ともいえるこの現象の背景には何があるのでしょうか。単に「不作だったから」では済まされない、複雑な構造が隠れているような気配がします。
この記事では、まず歴史的な背景に触れたうえで、現在進行中の「令和の米騒動」の真相に迫っていきたいと思います。そして、最終的に「真犯人」は誰なのか、証言を集めながら冷静に検証していきます。
目次
米の値段の決定方法に歴史あり

米は日本人の主食であり、国家の存亡を左右する重要な作物であると位置づけられてきました。すべての国民が毎日食べられるように価格を安定させる必要があるため国家が管理してきた歴史があります。米の値段がどのように決められてきたかの歴史を基礎知識として勉強しておきましょう。
戦前から戦後へ――統制経済下の米価格の決まり方
戦前の日本における米は、主に地主と小作人による関係性のなかで取引されていました。市場価格に任される部分もありましたが、実質的には地主の影響力が強く、農民にとっては不安定な生活の象徴でもありました。
やがて日中戦争を経て太平洋戦争が勃発すると、国家総動員体制の一環として、政府による米の買上げと配給が開始されます。戦後もこの体制は続き、「食糧管理法」に基づく統制が敷かれました。農家は政府に決まった価格で米を納め、消費者もまた決まった価格で購入するという、食糧管理制度が確立されたのです。
自由化と減反政策の時代――食糧管理制度の終焉と価格の変動
1995年、長らく続いた食糧管理制度がついに幕を閉じます。この年、米は完全自由化され、民間による流通が認められるようになりました。とはいえ、すぐに市場に委ねられたわけではありません。
背景には、過剰生産による米価の下落を懸念する政府の姿勢があり、同時に減反政策が強化されました。農家は生産量を減らすことを条件に交付金を受け取り、需給のバランスを政策的に保とうとする試みが続きます。この頃から、米価格は市場原理と政策誘導の狭間で揺れ動く存在となっていきました。
現代の価格形成――需給に委ねられる米市場と新たな課題
現在、米の価格は主に民間同士の相対取引によって決まっています。JA全農、卸売業者、外食産業、量販店などが参加する市場において、需要と供給のバランスが価格を左右します。また、米穀卸や専門商社による先物的な取引も影響を及ぼしています。
とはいえ、米は保存が利くことから、短期的な供給ショックには比較的強い商品とされてきました。しかし近年は、気候変動による不作、輸出需要の拡大、農業従事者の高齢化と後継者不足といった構造的問題が積み重なり、従来の価格安定モデルが揺らぎつつあります。
令和の米騒動の原因分析
今回の米価高騰については、その原因についてメディアやネットでは様々な主張や議論がなされており、いったい何を信じればよいのかわからなくなっているのではないでしょうか。真偽はさておき、ここでは、いったん米高騰の原因として考えられることを整理してみましょう。
不作による供給不足
2023年以降、日本列島はかつてないほどの気象異常に見舞われました。高温障害、日照不足、局地的豪雨が重なり、米どころの新潟県で作況指数が「95(やや不良)」と全国で最も低くなるなどの不作となりました。これにより、白未熟粒や胴割れ粒の増加が報告され、1等米比率が低下、商品にならない米が増えたのです。
2024年の作況指数は「101(平年並み)」と発表されたものの、九州での猛暑、東海地方の台風があっため良いとは言えず、6月ごろには民間在庫量が少なくなり供給能力が危ぶまれるほどとなったのです。
在庫減少と買い占めの動き
平年並みの在庫があれば、多少の不作は吸収できます。しかし近年は備蓄が減少傾向にあり、政府備蓄米の放出も遅れました。加えて、2024年の秋口からは外食産業や大手食品メーカーによる買い占めとみられる動きも報告されています。「今のうちに確保しておこう」という心理が働いた結果、市場に出回る米の量が減り、小売価格が急上昇する一因となりました。
飼料米・輸出向けの拡大による主食用米の不足
近年、政府は飼料用米や輸出用米の生産を強く推進してきました。背景には、農家の収益性を多角化する狙いがあります。減反で主食用米の作付面積が減少したのです。
その一方で、政府は2030年に35万トンまで輸出量を増やす目標を掲げており、これは2024年度の8倍に相当します。2024年度の上半期では20,806トン(対前年同期比+26%)、輸出額は55億円(対前年同期比+33%)と、大幅に増加しています。
生産コストの上昇と価格転嫁
2022年以降、世界的なインフレや円安の進行により、肥料や農薬、燃料などの資材価格が高騰しました。
国の農業経営統計によると、米農家1軒あたりの所得の平均は2021年と2022年ともわずか1万円だったといいます。それらを労働時間で換算すると「時給10円」。統計や計算の方法はともかく農家に苦しい経営実態があるのは否定できないでしょう。
市場メカニズムの限界と価格の乱高下
本来、市場原理に委ねることは効率的とされますが、供給が不安定な農産物においては必ずしも万能ではありません。
実際、今回のように不作が続くと、取引価格が短期間に急騰し、消費者や流通関係者の混乱を招きました。市場には「価格安定機能」が期待されますが、それが十分に機能しなかったという点では、制度的な見直しが求められます。
米の高値:では真犯人はだれなのか

今回の米価高騰に際して、私たちは「犯人探し」に走りがちです。しかし、単純な悪者がいて、すべての責任をその人物や組織に押し付けることで解決できるような問題ではありません。
とはいえ、価格高騰を招いた構造を理解するには、それぞれの立場から見た「証言」を丁寧に拾い上げていくことは原因究明に不可欠です。ここでは関係各所に参考人として登場してもらい、実際の報道や発言をもとにその立場からの声を再構成してみました。
参考人1:農林水産省
「需要に見合うだけの米の量は、確実にこの日本の中にはあります。しかし、流通がスタックしていて、消費者の方々に高いお値段でしか提供できていない。流通に問題があるということです。21万トンが集荷業者のところに、足りない分があるということで、それに見合った数字を用意することにしました。」——江藤農林水産相の記者会見(2025年2月)より。
農林水産省は問題が表面化してかなり経ってから備蓄米放出の判断にいたりました。後手に回ったことが影響したのも否めませんが、この時の記者会見では「流通に問題がある」とはっきりと大臣が指摘しています。
その年の5月、江藤農林水産大臣は「私は米をもらってばかりで買ったことがない」という失言をし、問題となって辞任したのはご存じの通りです。こうして、備蓄米は放出されたものの、小売価格は下がらず、とうとう江藤大臣の在任中までに効果が表れませんでした。
参考人2:米農家
2025年5月、早くも「青田買い」の動きがあるといいます。農家のところへは入れ代わり立ち代わり集荷業者が訪れ、そのたびに高い価格を提示しているというのです。
「世間話をしながら、今年もよろしくってきているところがありました。」
(青森県の生産団体のインタビュー:2025年5月 日テレニュース)
JAが集荷する米は仮払いの9月から10月の集荷時期に概算金が支払われます。卸売業者はこれより高い金額を夏の前から提示しているわけです。JAの買取価格は安いので農家は出荷を控えます。
参考人3:JA全農
JA全農の山中徹会長は米の価格高騰を受けた記者会見で「コメ価格は高くない」と発言し消費者やメディアから批判を浴びました。JA側の言い分はこうです。
- 生産コストの上昇:肥料や燃料などの資材価格が高騰しており、農家の経営を圧迫しています。
- 農家の収益確保:適正な価格での販売は、農家の生活を維持するために必要不可欠です。
- 需給バランスの調整:天候不順や減反政策の影響で供給量が減少しており、価格の上昇は市場の自然な反応としています。
JAは巨大な組織で政治的に大きな力を持っています。自民党の農水族議員の票を持っており農林水産省とは密接な関係にあります。江藤元農水相は米不足を流通のせいにしていましたが、価格低下を招く備蓄米放出はしたくなかったのではないかと勘繰られます。
参考人4:卸売業者
「流通に問題がある」と農林水産省は言いました。2024年の米の生産量は昨年より18万トン多かったのですが、JAの集荷量は21万トン減っています。JA以外の米の卸売業者が買い占めているというのです。
「去年(2024年)の夏場から米が無くなって(米がないと)商売にならないから多く仕入れた。買えるときに買わないと。飲食店などとの契約があるので。」
(兵庫県の米卸売業者:2025年2月 関テレニュース)
これら卸売業者は農家から仕入れるのですがJAの買取価格より高い値段で買うといいます。農家はJAに売らず、より高くで買いとる卸売業者に売る傾向が強まったとみられます。
参考人5:小売業者
小売業者は高く仕入れたものは高く売らざるを得ません。この点は致し方ないのですが、江藤元農水相は2025年4月に米の卸小売業者との意見交換会を開き、このように述べました。
「消費者の皆様に安定供給を一日も早く取り戻したい。皆様にも一層のご協力をお願いしたい」
(2025年4月 ABEMAnews)
備蓄米をイレギュラーな状態で放出するのだから卸業者も、店頭価格を決められる小売業者も安くするように協力してくれというわけです。業者らも一定の理解を示しているようですがいずれにせよ仕入れの価格次第ということになります。
参考人6:消費者
2024年8月宮崎沖を震源地とする震度6弱のかなり強い地震がありました。一時南海トラフ地震臨時情報が発表されて消費者は非常時に備える動きがみられました。この際に通常より多くの米が家庭にストックされたとみられています。
折しも昨年の不作によって米が不足していたタイミングでありこれに拍車をかける結果となったことは否めません。このほかインバウンドの増加、コンビニのお弁当やおにぎりなど一昔前には見られなかった新しいコメ需要も発生しています。
米の消費量は減り続けているとはいえ依然として根強く存在しているのであり、高くなったとしても文句を言いつつ何とかやりくりしながら米は売れ続けます。一気にコメ離れするような現象は見受けられません。
まとめ
米の値上がりは、単なる不作や一部業者の投機的行動によるものではなく、構造的かつ多面的な問題です。農政の方向性、国際情勢、消費者心理、それぞれが歯車としてかみ合わなかった結果として、いまの価格高騰があります。
犯人探しをするよりも、制度全体の在り方を問い直すべき時期に来ているのではないでしょうか。税理士・会計士としては、こうした食料価格の変動が中小企業の仕入コストや飲食業の利益率に直結することを念頭に、より広い視野で経済環境をとらえる必要があるでしょう。

税理士.ch 編集部
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