補正予算とは?成立までのプロセスや令和6年度のポイントを解説
毎年ニュースで耳にする「補正予算」。
2024年度も、12月に13兆9,433億円の補正予算が成立し、補正後の2024年度予算は126兆5,150億円となりました。
主に経済対策などのために編成される補正予算ですが、通常の予算と何が違うのでしょうか。また、中小企業を支援する税理士にとって、補正予算は業務にどのように関わってくるでしょうか。
今回は、補正予算について解説します。
目次
補正予算とは何か
補正予算とは、その年度の本予算(当初予算)に不足が生じたり、新たに予算を投じる必要が生じたりした場合に編成される予算のことをいいます。
補正予算を財源とするものとして、税理士にとって馴染み深いものの一つが補助金です。
よく新年度から公募が始まる多くの補助金の名称に「令和◯年度補正」と、一つ前の年度が付けられているのは、前年度の補正予算で追加された額から執行されているためです。
補正予算と通常の予算の違い
通常、その年度の予算(本予算)は通常国会を経て成立するため、年に一度の成立となります。
しかし、補正予算は新たに予算を投じる必要のある事案(例:災害や物価高)などに対処するためのもので、必要に応じて複数回にわたり編成されることがあります。
近年では、令和2年度(2020年度)に新型コロナ対策として第3次補正予算まで編成されました。
【補正予算と通常の予算の違い】
本予算(当初予算) | 補正予算 | |
予算の性質 | 国の年間予算として最初に作成した予算 | 予算作成後の事情の変化によって、当初予算を変更する予算 |
成立時期 | 毎年4月(通常国会で審議) | 随時(臨時国会で審議) |
回数 | 一年度に一回 | 随時(多くは年に一回) |
金額規模 | おおむね100兆円~110兆円台 | 数兆円~数十兆円 |
補正予算はどのような時に作成されるのか
補正予算は、主に年度の途中に生じた予算不足や、新たに発生した事態に対応するために編成されます。たとえば、災害や経済危機などの緊急事態、予想外の税収変動、政策的な経費追加が、補正予算を作成する主な目的です。
近年の補正予算額と主な支出目的をまとめます。
会計年度 | 補正予算額 | 主な支出目的 |
令和6年度(2024年度) | 13.9兆円 | 日本経済・地方経済の成長など |
令和5年度(2023年度) | 13.1兆円 | 防災、減災、物価高など |
令和4年度(2022年度) | 31.6兆円 | 原油価格・物価高騰・賃上げ等対策、防災・減災など |
令和3年度(2021年度) | 35.9兆円 | 新型コロナウイルス感染症の拡大防止など |
令和2年度(2020年度) | 73兆円 | 新型コロナウイルス感染症対策関係経費など |
令和元年度(2019年度) | 3.1兆円 | 災害からの復旧・復興と安全・安心の確保など |
平成30年度(2018年度) | 3.6兆円 | 災害からの復旧・復興、防災・減災など |
平成29年度(2017年度) | 1.6兆円 | 災害復旧等・防災・減災事業など |
上記のとおり、補正予算は毎年作成されています。
特に経済対策のための補正予算の編成が常態化しており、「補正予算ありき」で本予算が編成されていることを問題視する声もあります。
補正予算は誰が決めるのか
補正予算は、まず「補正予算案」が作られ、政府や各政党で調整された後、内閣で閣議決定されたものが政府案として国会に提出されます。最終的には国会により審議され、可決・成立する流れとなります。
補正予算案の作成
新たに生じた変化への対応や追加の経済対策などを対象に、政府や各政党で調整された補正予算案が作成されます。
閣議決定
作成された補正予算案は、内閣総理大臣やその他の国務大臣が出席する会議(閣議)で決定されます。
国会への提出と審議
閣議決定された補正予算案は国会に提出され、両院の審議を経て可決・成立します。
政府案の段階で、必要な話し合いを各政党と行い、内容を調整していることから、国会審議では政府案がそのまま可決されることが一般的です。
補正予算はいつ決まる?
前述のとおり、本予算は通常国会に提出され、その年度に一回だけ成立します。
これに対し、補正予算は、本予算の成立後に必要に応じて編成されます。秋から年末にかけて行われやすい傾向は見られるものの、成立する回数や時期は不定期といえます。
会計年度 | 補正予算成立日 |
令和6年度(2024年度) | 令和6年12月17日 |
令和5年度(2023年度) | 令和5年11月29日 |
令和4年度(2022年度) | 【第1次】令和4年5月31日 【第2次】令和4年12月2日 |
令和3年度(2021年度) | 令和3年12月20日 |
令和2年度(2020年度) | 【第1次】令和2年4月30日 【第2次】令和2年6月12日 【第3次】令和3年1月28日 |
令和元年度(2019年度) | 令和2年1月30日 |
平成30年度(2018年度) | 【第1次】平成30年11月7日 【第2次】平成31年2月7日 |
平成29年度(2017年度) | 平成30年2月1日 |
補正予算のスケジュール
全体の流れ
まずは、「本予算~補正予算」までの流れを整理します。
本予算は、前年の8月下旬ころ、各府省庁から財務省に概算要求(次年度の施策等にかかる予算の要求)が行われ、財務省はそれを受けて年末に向けて予算案の原案を作成します。
その案を政府が各政党と調整して閣議決定し、年明けから始まる通常国会に政府案として提出します。そして3月末までに政府案の国会審議が行われ、4月から新年度の予算として執行されます。補正予算は、この本予算よりも後に作成されます。例外もありますが、多くの年では12月や翌年1月ごろに補正予算が成立する傾向が見られます。
本予算よりも補正予算のほうが早く決まる
本予算と補正予算は似たプロセスで成立しますが、本予算の場合は通常国会で審議されるため、国会提出から予算成立までに約3か月ほどの審議期間を要します。
これに対し、補正予算は緊急性の高い予算として臨時国会で審議されるため、数週間で可決されることが多く、本予算よりも成立までの期間がとても短くなります。
本予算~補正予算成立までの具体的なスケジュール
それでは、令和6年度(2024年度)を例に、本予算とそれに対する補正予算が成立するまでの具体的なスケジュールを確認してみましょう。
- 本予算
令和5年8月末:各府省庁の概算要求の期限
令和5年12月22日:令和6年度予算案閣議決定
令和6年1月26日:国会提出、審議開始
令和6年3月28日:本予算成立 - 補正予算
令和6年11月28日:臨時国会招集
令和6年11月29日:補正予算案閣議決定
令和6年12月9日:国会提出、審議開始
令和6年12月17日:補正予算成立
補正予算の財源
補正予算の主な財源は、税収と国債です。
特に補正予算は国債の割合が高く、多くの年度において補正予算額の半分以上が国債発行で賄われています。
会計年度 | 補正予算額 | 国債 |
令和6年度(2024年度) | 13.9兆円 | 6.6兆円 |
令和5年度(2023年度) | 13.1兆円 | 8.8兆円 |
令和4年度(2022年度) | 31.6兆円 | 25.5兆円 |
令和3年度(2021年度) | 35.9兆円 | 22兆円 |
令和2年度(2020年度) | 73兆円 | 79.8兆円(税収減による) |
令和元年度(2019年度) | 3.1兆円 | 3.1兆円 |
平成30年度(2018年度) | 3.6兆円 | 1.6兆円 |
平成29年度(2017年度) | 1.6兆円 | 1.1兆円 |
令和6年度(2024年度)の補正予算の内容
令和6年度補正予算の主な使い道
2024年度補正予算として成立した13.9兆円の主な用途は、賃上げ環境の整備などの経済対策を盛り込んだ「日本経済・地方経済の成長」に5.7兆円、冬期の電気・ガス料金の補助や住民税非課税世帯への給付金などへの対応を主とする「物価高の克服」に3.3兆円、被災地の復興・復旧対策を含む「国民の安心・安全の確保」に4.7兆円となります。
中小企業支援に関する補正予算
上記のうち、中小企業の支援に特に関係が深いものは、「日本経済・地方経済の成長」の賃上げ環境の整備(9,127億円)であり、主な内訳は以下の通りです。
- 中小企業の大規模設備投資、高付加価値化のための設備投資、ITの導入等の支援:3,400億円
- 中堅・中小企業の省力化に向けた工場等の拠点新設や大規模な設備投資支援:1,400億円
- 医療・介護・障害福祉現場の生産性向上・職場環境改善支援:2,304億円
- 急変する経営状況に直面する医療機関への支援:483億円
- 最低賃金引き上げに対応する生産性向上支援:297億円
令和7年からの主な補助金
最後に、令和6年度補正予算により令和7年以降に予定されている主な補助金を確認しましょう。
生産性革命推進事業【補正予算3,400億円】
既存の補助金(ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金、事業承継・M&A補助金など)に加え、新たに「中小企業成長加速化補助金」が創設される見通しです。
中小企業成長加速化補助金とは、売上高100億円を目指す成長志向型の中小企業に、以下の支援を行う補助金として説明されています。
- 設備投資支援
- 新事業・新分野進出やM&A等への対応
- 海外展開支援
- 人材育成・人材確保への支援
また、既存の補助金についても補助率の引き上げ等が計画されています。
大規模成長投資補助金・地域企業経営人材確保支援事業給付金【1,400億円(総額3,000万円)】
地方においても持続的な賃上げや事業成長を実現するための補助金です。
具体的には、工場等の拠点新設や大規模な設備投資といった抜本的な生産性向上の取り組みが対象になるほか、出向や兼業等により大企業から経営人材を受け入れた場合の給付金が計画されています。
(参考)中業企業庁:令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連
まとめ
令和6年度の補正予算は、賃上げや物価高への対応、被災地復興など多岐にわたる重要な課題を解決するためのものとなっています。特に、中小企業支援においては、成長促進や人材確保、生産性向上を目的とした多様な支援が予定されています。本予算と補正予算の役割や時期の違いを踏まえて、支援のチャンスに活かしていただければ幸いです。
税理士.ch 編集部
税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から
最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。
運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/