令和8年税制改正で注目される「青色申告特別控除の見直し」とは
令和8年度税制改正大綱(令和7年12月公表)では、個人事業者・不動産オーナーの実務に直結する論点として、青色申告特別控除の見直しが明記されました。今回のポイントは「控除額をどう動かすか」だけではなく、電子申告(e-Tax)や電子帳簿保存を前提に、申告・保存の姿を制度側が“指定”しに来ている点にあります。税務・会計の実務家としては、顧問先の申告フローそのものを点検し、いつから何を揃えるべきかを逆算する局面です。
この記事では、改正内容の骨格を押さえたうえで、これまでの制度経緯と実務上の論点を整理します。
目次
今回の「見直し」で何が変わるのか
令和8年度税制改正大綱では、青色申告特別控除について、従来の控除区分を単純に維持するのではなく、「電子化の度合い」に応じて控除額に段階的な差を設ける方向性が明確に示されました。見直しのポイントは、次のように整理できます。

55万円控除は「電子申告前提」の65万円控除へ再編
現行制度では、複式簿記による記帳や期限内申告などの要件を満たすことで55万円の青色申告特別控除が認められ、さらに電子申告(e-Tax)または一定の要件を満たす電子帳簿保存を行う場合に65万円控除が適用される仕組みとなっています。
これに対し、改正案では、従来55万円控除に該当していた区分について、「期限内にe-Taxで提出していること」を要件として組み込み、控除額を65万円へ引き上げるとされています。言い換えれば、紙提出を前提とした55万円控除という位置付けは事実上整理され、電子申告が制度上の標準として明確化されることになります。
簡易簿記による10万円控除の対象範囲を縮小
あわせて、10万円控除についても整理が行われます。簡易簿記による記帳を行う者のうち、前々年分の事業所得または不動産所得の収入金額が1,000万円を超える場合には、10万円控除の適用対象から除外する方向が示されました。
この見直しにより、一定規模以上の事業者が簡易簿記・紙提出のまま申告を続けた場合、青色申告特別控除を一切受けられなくなる可能性が生じます。実務的には、複式簿記への移行や電子化対応を行うか、控除がない前提で税額・資金繰りを再設計するか、選択を迫られるケースが増えると考えられます。
55万円→65万円:電子申告が「加点」から「必須」へ
現行制度でも、複式簿記+期限内申告などの要件を満たすと55万円控除が基本となり、さらにe-Tax提出または優良な電子帳簿の保存を満たすと65万円控除となる、という建付けでした。国税庁の案内でも、55万円控除と65万円控除の違いは「電子申告または優良な電子帳簿保存」の有無として整理されています。
これに対し大綱は、55万円控除側に“期限内のe-Tax提出”を要件として組み込み、控除額を65万円に引き上げるとしています。
言い換えると、紙提出を続ける層は、これまでの「55万円」レンジから外れやすくなり、電子申告が事実上の標準へ寄っていく構図です。
65万円→75万円:電子帳簿保存を満たす者を上積み優遇
今回の見直しで最も実務への影響が大きいのが、65万円控除の上に新たに75万円控除が設けられる点です。いわゆるe-Tax要件を満たす者のうち、仕訳帳・総勘定元帳について電磁的記録の保存等を行う場合に、控除額を75万円に引き上げるとしているのです。
では、われわれもやろう、と腰が浮きそうですが、この75万円控除は、単に電子申告を行っているだけでは適用されません。
- 期限内にe-Taxで申告書等を提出していること
- その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存法に基づく電磁的記録による保存等を行っていること
これはできているとしても、まだ条件が不足しています。そのうえ、次のいずれかに該当する必要があると整理されています。
- 仕訳帳および総勘定元帳について、訂正・削除履歴の確保や検索性の確保など、電子帳簿保存法施行規則が定める一定の要件を満たす「優良な電子帳簿保存」を行っている場合です。
- 請求書等の電子取引データについて、改ざん防止措置や検索要件を満たした形で保存し、会計データと自動的に連携させる仕組みを構築している場合です。
ここで注意すべきなのは、「一定の要件を満たす」という表現が、青色申告特別控除独自の新基準を意味するものではなく、既存の電子帳簿保存法およびその運用基準を前提にしている点です。実務上は、会計ソフトを使用しているだけでは足りず、保存方法や運用体制が電子帳簿保存法上の水準を満たしているかどうかが問われることになります。
ここは“会計ソフトを使っているか”では足りず、保存要件をどのレベルで満たすか、証憑の電子化・電子取引データの保存を含めた運用設計が問われます。大綱の文言は、電子帳簿保存法の枠組みを前提にしつつ、青色控除側でインセンティブを強める設計だと読めます。
10万円控除:簡易簿記×高収入層は対象外へ
もう一つ実務に刺さるのが、10万円控除の“射程”の見直しです。大綱は、簡易簿記で記帳する者のうち、前々年の事業所得(または不動産所得)の収入金額が1,000万円を超える場合は、10万円控除の対象から除外するとしています。
改正後の影響を端的に言えば、「簡易簿記で回しているが売上規模は大きい」顧問先ほど、控除の消滅(=増税)リスクが顕在化します。他の税務実務家向けの解説でも、書面提出・簡易簿記のままだと控除が10万円→0円へ落ち得る点が注意点として挙げられています。
適用時期:いつの申告から効くか
大綱は、上記の改正を「令和9年分以後の所得税」に適用するとしています。
住民税のタイミングは所得税の翌年度課税となるため、実務上は令和10年度の個人住民税に波及する、と整理されるのが一般的です(速報解説でも同様の整理が見られます)。
顧問先への周知は、「令和9年分=2027年分の確定申告から」という言い方で、準備期間を逆算するのが安全です。
そもそも青色申告特別控除は何のための制度か

税制改正のたびに論点になるのは、「青色の控除は優遇が大きすぎるのか、それとも事業者のコスト補填なのか」という評価です。制度趣旨の出発点は、正確な記帳と期限内申告を促し、課税の適正を担保する点にあります。国税庁のタックスアンサーでも、青色申告者の特典として、55万円(一定要件で65万円)または10万円を所得金額から控除する、とシンプルに整理されています。
一方で、近年は会計ソフト・クラウド会計の普及により、複式簿記のハードルは下がりました。税務行政側も、電子申告と電子保存が当たり前の世界を想定し、制度の“報奨”の付け方を変えつつあります。今回の見直しが、控除の単純縮減ではなく「電子化に乗る者を厚くする/乗らない者を薄くする」方向で書かれているのは、その文脈に沿うものです。
実務で起きる変化:増税・事務・システムの三点セット
税務・会計の実務家が先に見ておくべきは、影響の出方が“顧問先のタイプ別”に分かれる点です。改正が予定どおり進めば、次の三点セットが同時に起きます。
紙提出の維持は、控除面で不利になりやすい
大綱は、55万円控除の要件として「期限内e-Tax提出」を追加し、控除額を65万円に引き上げる設計です。
裏返すと、紙提出を続ける理由が「慣れている」「e-Taxを嫌がる」にとどまる場合、控除額の観点から説得材料が増えます。特に、決算書等の提出を含め期限内でe-Tax提出する運用(委任関係、送信後の控え管理、添付書類の扱い)まで落とし込まないと、要件未達になり得ます。
10万円控除の“ゼロ化”が、一定層で現実味を帯びる
簡易簿記で回し、前々年収入が1,000万円超の層は10万円控除の対象外となる方向が示されています。
この層は「複式簿記に移る」か「電子化に投資する」か、もしくは“控除がない前提”で税額と資金繰りを組み直す必要が出ます。速報資料でも、簡易簿記・書面提出のままでは控除減(あるいは消滅)となる点が実務上の注意として挙げられています。
75万円控除は、電子帳簿保存の運用力が問われる
75万円控除の要件は、単なる電子申告ではなく、仕訳帳・総勘定元帳の電磁的記録保存等まで踏み込みます。
顧問先側では、会計ソフトの設定、証憑の保存、電子取引データの保存ルール(検索性・真実性の確保など)を含め、運用が“監査に耐える形”になっているかが争点です。税務・会計の実務家も、導入支援だけでなく、年中行事としての運用監督(チェックポイントの定型化)まで視野に入ります。
実務家が今すぐやるべき「準備」の順番

制度改正は、条文施行前に顧問先や自社の行動が変わるかどうかで結果が決まります。準備は、次の順番が現実的です。
まず、顧問先や自社を3類型に分ける
- すでにe-Tax提出+電子保存が回っている
- e-Tax提出はできるが、保存は紙中心
- 紙提出・簡易簿記中心(とくに前々年収入1,000万円超が混在)
大綱の設計だと、番号が増えるほどは税負担増の可能性が高く、1.は75万円控除の射程に入る可能性があります。
次に、要件“未達”の落とし穴を潰す
e-Tax提出は「提出した」だけではなく、確定申告書に加えて貸借対照表・損益計算書等を提出期限までに送信する、と明記されています。
電子帳簿保存側も、保存要件の満たし方が複数示されており、顧問先や自社の実装(ソフト、保存形態、電子取引の範囲)がどれに該当するかを事前に整理すべきです。
最後に、コミュニケーションを「節税」から「業務設計」へ寄せる
青色控除は、節税話法に寄せると“単なる得”として扱われがちです。しかし今回の改正は、申告・保存のやり方を変える話です。顧問先や自社にとっては、経理フロー、証憑管理、ツール投資、担当者教育まで含む業務設計になります。税務・会計の実務家が先回りして、導入コストと税効果、リスク(要件未達、保存不備)を同じ土俵で説明できるかが鍵です。
まとめ
令和8年度税制改正大綱が示した青色申告特別控除の見直しは、控除額の上積み(65万円→75万円)と、適用要件の“電子化前提”への組み替えが同時に進む点が特徴です。
電子申告は加点ではなく標準へ、電子帳簿保存は「やれている事業者」をさらに優遇する装置へ、簡易簿記×一定規模の層は控除対象から外れる方向へ。制度が示すメッセージは明確です。
対応としては、「令和9年分の申告から」を起点に、類型化→落とし穴の確認→業務設計の支援、の順に手を打つのが現実的でしょう。税制改正は“知っている”だけでは足りません。顧問先や自社の運用が変わった瞬間に、控除の差が税額の差になります。
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