令和7年税制改正で、給与収入が高い年金受給者の合計控除額の調整はどうなるか

令和7年になり、年金を受け取っている方にとって気になる話題が出てきました。給与収入が高い年金受給者が受けられる控除額が減り、税の負担が増す可能性が出てきたためです。「これから行う確定申告に影響するのだろうか」「今年の収入はどうなるか」という点を、気にする方も多いでしょう。

給与収入が高い年金受給者の合計控除額の調整は、決定事項ではありません。それだけに、今後の推移を注視する必要があります。この記事では現行の制度を説明したのち、合計控除額が調整された後との違いや、アドバイスを行うポイントを解説します。

なお本記事の内容は、2025年1月時点の情報です。今後の議論の進展により、本記事の内容が変わる場合があるため、最新の情報をご確認ください。

目次

給与収入が高い年金受給者は、控除額が調整される場合がある

現行の制度においても、給与収入が高い年金受給者は、控除額の調整が行われる場合があります。まず、以下に該当する方のケースを考えてみましょう。

  • 65歳以上の年金受給者
  • 公的年金等に係る雑所得(以下「年金の雑所得」と略)以外の合計所得金額が1,000万円以下

公的年金等に係る雑所得の金額を算出する方法を、以下の表にまとめました。

公的年金等の収入金額の合計額公的年金等に係る雑所得の金額
110万円以下0円
110万円超330万円未満収入金額の合計額-110万円
330万円以上410万円未満収入金額の合計額×0.75-27万5千円
410万円以上770万円未満収入金額の合計額×0.85-68万5千円
770万円以上1,000万円未満収入金額の合計額×0.95-145万5千円
1,000万円以上収入金額の合計額-195万5千円

引用元:国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係より

ここからは、年金の雑所得を除く合計所得金額が1,000万円を超える方のケースを考えてみましょう。公的年金等の収入金額が110万円以上の場合、年金の雑所得の金額は上の表と比べて、以下の通り増えることに注意してください。

年金の雑所得を除く合計所得金額年金の雑所得の金額
1,000万円を超え2,000万円以下10万円増加
2,000万円を超える20万円増加

給与所得1,000万円の場合、実際の給与収入は1,195万円に相当します。おおむね年間で1,200万円以上の給与収入を得ている方は、年金の雑所得に関する控除額が減り、課税の対象となる所得額や納税額が増えることに留意ください。

現行の控除額や税額はどのくらいか

現行制度でどのくらいの控除を受けられるか、金額を把握することは重要です。3つのケースに分けて、控除額と税額を確認していきましょう。

なお税額の計算にあたり、基礎控除(48万円)と社会保険料控除(勤め先の健康保険料:給与収入の5%相当分)を適用するものとします。また給与所得の控除額に10万円の「所得金額調整控除」を加える一方で、定額減税は考慮しないものとします。

給与収入が年間460万円、年金収入が年間210万円の場合

現行制度における控除額は、以下のとおりとなります。

項目給与年金
年間収入額4,600,000円2,100,000円
年間の所得3,140,000円1,000,000円
控除額1,460,000円1,100,000円

給与と年金の控除額を合計した額(合計控除額)は256万円です。また社会保険料控除は23万円となるため、所得控除の金額は71万円です。課税される所得金額は343万円、所得税額は258,500円となります。

給与収入が年間700万円、年金収入が年間250万円の場合

現行制度における控除額は、以下のとおりとなります。

項目給与年金
年間収入額7,000,000円2,500,000円
年間の所得5,100,000円1,400,000円
控除額1,900,000円1,100,000円

合計控除額は300万円です。また社会保険料控除は35万円となるため、所得控除の金額は83万円です。課税される所得金額は567万円、所得税額は706,500円となります。

給与収入が年間1,500万円、年金収入が年間270万円の場合

現行制度における控除額は、以下のとおりとなります。

項目給与年金
年間収入額15,000,000円2,700,000円
年間の所得12,950,000円1,700,000円
控除額2,050,000円1,000,000円

合計控除額は305万円です。また社会保険料控除は75万円となるため、所得控除の金額は123万円です。課税される所得金額は1,342万円、所得税額は2,892,600円となります。

令和7年度においても、特に制度の変更は見込まれていない

上記で計算された控除額は、令和7年3月17日申告期限の所得税確定申告(令和6年分の所得を申告)、および令和7年に得た収入においても同様です。特に制度の変更は見込まれていませんので、現行の計算方法を適用できます。

令和8年以降、税負担の増加が見込まれている

令和8年以降、一定の給与収入を得ている年金受給者を対象として、所得税の合計控除額を減らす動きがあります。これにより、税負担の増加が見込まれています。2025年1月24日時点の情報をもとに、どのような内容か確認していきましょう。

与党が公表した「令和7年度税制改正大綱」の内容

税負担の増加を示唆する内容は、自民党や公明党が令和6年12月20日に公表した「令和7年度税制改正大綱」に記載されています。「給与所得控除と公的年金等控除の合計額の上限を280万円とすることとし、在職老齢年金制度の見直しの帰趨を踏まえ、令和8年度税制改正において法制化を行う。」という一文があるため、令和7年の時点で何らかの税負担が増えるわけではありませんが、今後の動向に注目することが必要です。

合計控除額の上限が280万円となった場合、税の負担はどれだけ増すか

将来、合計控除額(給与所得控除額と公的年金等控除額の合計)の上限が280万円になると、税の負担はどれだけ増すのでしょうか。「現行の控除額や税額はどのくらいか」で取り上げた3つのケースについて、確認していきましょう。なお「所得金額調整控除」の10万円は、合計控除額に含むものと仮定します。

給与収入が年間460万円、年金収入が年間210万円の場合

給与と年金の控除額は合計で256万円ですから、合計控除額の上限が280万円に抑えられても影響は受けません。このため、制度が変更されても納税額が増える心配はいりません。

給与収入が年間700万円、年金収入が年間250万円の場合

合計控除額の上限が280万円となった場合、課税される所得金額は20万円増えて587万円、所得税額は746,500円となります。現行制度での所得税額は706,500円ですから、4万円増加します。また住民税の納税額も2万円増加することに留意してください。

給与収入が年間1,500万円、年金収入が年間270万円の場合

合計控除額の上限が280万円となった場合、課税される所得金額は25万円増えて1,367万円、所得税額は2,975,100円となります。現行制度での所得税額は2,892,600円ですから、82,500円増加します。また住民税の納税額も25,000円増加するため、増加する納税額は合計で10万円を超えます。

税負担の増加に対してアドバイスを行う3つのポイント

税負担が増えることへの対応を急ぐ必要はありませんが、事前の準備と心構えは必要です。ここからは年金を受け取りながら働く方、またこのような方を雇用する法人から相談を受けた際に、適切なアドバイスを行うポイントを解説します。

合計控除額の上限を超えても、手取り額は減らない

令和6年以降、「103万円の壁」や「130万円の壁」が話題となっています。配偶者の収入が103万円や130万円といった金額を超えると手取り額が減ってしまうため、市民の大きな関心を呼び起こしました。

「合計控除額の上限が280万円」という制限は「103万円の壁」や「130万円の壁」と異なり、一定額を超えると手取り額が逆に減ってしまう結果をもたらしません。単に控除額が頭打ちになるだけであり、新たな税や社会保険料の負担が発生しないためです。稼げば稼ぐほど手取りが増えますから、無理に働き方をセーブする必要はありません。

増税後も生活が成り立つよう、ライフプランの見直しを勧める

所得税が増税されると、そのぶん自由に使えるお金は減ります。ここ10年ほど、最低賃金は年々上昇していますが、相談者の給与が上がり続けているとは限りません。給与が横ばいの方は、より少ないお金で生活する必要に迫られるでしょう。

家計が収支均衡という方は、増税後は赤字となり、ご自身の預貯金を取り崩すことになるかもしれません。はじめから預貯金を取り崩す前提でライフプランを立てていた場合は、想定よりも預貯金の減少スピードが速くなってしまいます。増税後も生活が成り立つよう、ライフプランの見直しを勧めてください。不要な支出をなくす、節約するなどは代表的な方法です。

納税資金を準備しておくようアドバイスする

納税資金の準備も、アドバイスしておきたい項目の一つです。給与や公的年金はあらかじめ源泉徴収されていますが、最終的な所得税額が源泉徴収された金額を下回るとは限りません。所得税は累進課税ですから、所得が多いと税率が高くなり、確定申告を行った後で納税を迫られるケースもあります。

所得税を滞納すると延滞税がかかり、余分な支出を強いられることになります。節税のためにも、ライフプランを立てる際には事前に納税資金を確保することも重要です。

給与収入が高い年金受給者の合計控除額がどうなるか注視を

今回の制度変更は、給与や年金の収入が多い方ほど大きな影響を受けます。月額1万円以上の減収となるケースもあるため、なるべく早く制度変更の内容を知りたい方も多いでしょう。詳細は今後の議論で決まりますので、推移を注意深く見守っていきましょう。

税理士.ch 編集部

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