【令和7年度】地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長について

地域未来投資促進税制とは、青色申告書を提出する事業者が、地域の強みを活かし先進性の高い事業へ設備投資を行うときに減税措置を受けられる制度です。
「地域経済牽引事業計画」の承認を受けた事業者が利用でき、法人税の特別償却または税額控除が受けられます。
本記事では、令和7年度税制改正の大綱で実施された地域未来投資促進税制について、その概要や見直し内容、適用期限の延長等を中心に詳しく解説します。
目次
- 地域未来投資促進税制(課税の特例措置)とは
- 令和7年度税制改正に係る地域未来投資促進税制の見直し条文
- 地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長①
- 地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長②
- 地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長③
- 地域未来投資促進税制を利用する際の注意点
- まとめ
地域未来投資促進税制(課税の特例措置)とは

地域未来投資促進税制とは、地域未来投資促進法に基づく支援措置のひとつです。(別途、融資や債務保証等の金融による支援措置もあります。)
地域経済牽引事業計画の承認を地方自治体から受け、さらに国から課税特例の確認を得た事業者が、新たに建物や機械等の設備投資を行う場合に以下のいずれかの減税措置が受けられます。
- 法人税等の特別償却(最大50%)
- 税額控除(最大6%)
ただし建物・機械等を貸付の用に供する場合や中古の建物・機械等の取得は本制度の対象とならないので注意して下さい。
また関連で、地方自治体の条例によっては、新たに取得する土地・建物等について、地方税(固定資産税・不動産取得税)の減免も受けられることもあります。
このように本制度は、地域経済の発展に寄与する事業を多角的に支援する仕組みとなっています。
地域の特性を活かした事業を展開し、売上拡大や高い付加価値の創出等を通じて経済的効果の最大化を図るためにもタイムリーな設備投資は欠かせません。
地域未来投資促進税制に係る優遇措置を活用することで、規模では劣るものの先進的な事業を行っている中堅・中小企業でも設備投資がしやすくなります。
特別償却
特別償却とは、建物や機械装置等の設備類を取得または制作した年度に、通常の償却処理に加え、追加で一定割合(本制度の場合、最大50%)の減価償却を適用できる制度です。
特別償却で、普通償却と別に追加で経費の計上が行えるため、特に設備の取得年度に多額の償却が利用でき、取得年度の課税所得がその分だけ圧縮できるので、法人税の節税効果が見込めます。
一方で減価償却は、最終的には取得価額相当額(残存価額1円)までしか費用化できないため、特別償却を使うと償却(費用化)のペースは早まるものの、それはあくまで将来に償却できたものを前倒しで償却しているに過ぎず、償却期間全体では法人税の支払総額は変わらないことに注意が必要です。
しかし注意点は別として、特別償却を利用すれば、当面の対外的な支出が軽減でき、資金繰りの改善にもつながるので、利用する価値は高いといえるでしょう。
税額控除
税額控除とは、建物や機械装置等の設備類を取得または制作した年度の課税所得に対する法人税を計算後に、取得価額の一定割合(本制度の場合、最大6%)を法人税額から直接差し引き(控除)できる制度のことをいいます。
特別償却は償却期間内の減価償却処理を早めることで間接的に節税効果を狙った制度ですが、税額控除は法人税から直接相当額を控除できるので、特別償却に比べ確実な節税効果があります。
参照先:地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進地域において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却または税額控除)|国税庁
令和7年度税制改正に係る地域未来投資促進税制の見直し条文
令和7年度税制改正大綱では、法人課税の分野において、地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長が実施されました。
本税制の3年間の期限延長が決定されるとともに、多くの項目で見直しが行われています。
以下は財務省資料に基づく地域未来投資促進税制の改正内容ですが、記述内容が多岐にわたるので一部のみ抜粋します。
興味のある方は下記引用先より全文をご確認下さい。
地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却または税額控除制度について、次の措置を講じた上、その適用期限を3年延長する。
<中略>
ホ 対象事業を行う承認地域経済牽引事業者(以下「対象事業者」という。)が取得する予定の減価償却資産の取得予定価額がその対象事業者の前事業年度における減価償却費の額の 20%以上の額であることとの要件について、次の見直しを行う。
(イ)前事業年度における減価償却費の額について、会社法の適用のない法人からの出資が過半数である場合の算出方法を明確化する。
(ロ)前事業年度における減価償却費の額に乗ずる割合を 25%に引き上げる。
地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長①
本章より、令和7年度税制改正大綱実施後の、地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長について、財務省資料も参考にしつつ、その内容を①~③に分けて、現状を詳しく紹介します。
地域未来投資促進税制は、その適用期限が令和7年3月31日まででしたが、令和7年度税制改正でさらに3年間延長され、本制度は今後、令和10年3月31日までの期間内に新しく取得または制作された設備機械等で、事業の用に供した場合に適用されます。
適用対象法人 | 地域経済を牽引する事業を行う青色申告法人 |
適用要件 | ・地域経済牽引事業計画について都道府県の承認を受けること ・承認された事業計画に基づき、特定地域経済牽引事業施設等を新設または増設し事業の用に供すること ・地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律による一定の基準に適合することについて国の確認を受けること |
確認要件(主務大臣) | ・通常類型及び上乗せ類型(※サプライチェーン類型が除外) ・先進性を有する(特定非常災害の被災地域は同要件を免除) ※事業の先進性の確認に当たっては、投資収益率また労働生産性の伸び率が一定以上であることの確認を不要とする ※先進性の確認については、先進性が認められない事業の明確化、その他の評価委員の評価精度の向上に向けた措置を講じて行う ・設備投資額が1億円以上(上限80億円) ・設備投資額が前事業年度原価償却費の25%以上 ・売上高伸び率が0を上回り、かつ過去5年度の対象事業に係る市場規模の伸び率より5%以上高いこと ・旧計画が終了しており、その労働生産性の伸び率4%以上、かつ投資収益率5%以上 ・労働生産性の伸び率または投資収益率が一定水準以上となることが見込まれること |
(※)下線の項目が今回の税制改正で見直しされた箇所
地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長②
地域未来投資促進税制を受けると、対象資産について、特別償却(取得価額の20%~50%)または税額控除(取得価額の2%~6%)のどちらかの特例措置が選択適用できます。
適用対象資産 | 新設もしくは増設に係る特定地域経済牽引事業施設等を構成する機械・装置・器具・備品・建物及びその付属設備並びに構築物で、その制作もしくは建設の後、事業の用に供されたことがないもの(貸付の用に供したものを除く) |
【機械装置・器具備品等】
特別償却 | 通常 | 取得価額×35%(改正前40%) |
同上 | 上乗せ | 取得価額×50% ※上乗せ要件①を満たす場合 |
税額控除 | 通常 | 取得価額×4% |
同上 | 上乗せ | 取得価額×5% ※上乗せ要件①を満たす場合 |
同上 | 上乗せ | 取得価額×6% ※上乗せ要件②を満たす場合 |
(※)下線の項目が今回の税制改正で見直しされた箇所
(※)上乗せ要件①及び上乗せ要件②に関しては、次章で解説
【建物・付属設備・構築物等】
特別償却 | 通常 | 取得価額×20% |
税額控除 | 通常 | 取得価額×2% |
※所有権移転リース取引で取得した特定事業用機械・装置等については、特別償却の規定は適用されないが、税額控除の規定は適用される
参照先:地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進地域において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却または税額控除)|国税庁
地域未来投資促進税制の見直し及び適用期限の延長③
令和7年度税制改正大綱では、対象資産のうち、機械装置・器具備品等について、上乗せ割合を適用するための要件が大幅に追加されました。
上乗せ要件① | ・その承認地域経済牽引事業者のその承認地域経済牽引事業が、同意基本計画において次の要件を満たすものとして指定された業種(指定業種)に該当すること、または指定業種に該当する事業を行う事業者と直接の取引関係を有する一定の事業に該当すること (イ) その地方公共団体におけるその業種の付加価値額の増加率またはその付加価値額のその県内総付加価値額に占める割合が全国平均に比して一定水準以上であること (ロ) その地方公共団体におけるその業種の売上高の総額、就業者の総数または給与の総額のいずれかについて、直近5年間の伸び率が10%以上であること ハ)その地方公共団体において、その業種の振興に関する具体的な目標等を定めており、予算措置等の具体的な取組が実施されていること |
上乗せ要件① | ・その承認地域経済牽引事業計画に定められた施設または設備を構成する減価償却資産の取得予定価額の合計額が10億円以上であること ・その承認地域経済牽引事業が1億円以上の付加価値額を創出すると見込まれるものであること ・その承認地域経済牽引事業について、労働生産性の伸び率及び投資収益率が一定水準以上となることが見込まれること |
同上 | 労働生産性の伸び率5%以上(※中小企業は4%)、かつ、投資収益率が5%以上となることが見込まれること |
同上(aまたはbのどちらか) | (a)直近事業年度の付加価値額増加率が8%以上、かつ、その事業が1億円以上の付加価値額を創出することが見込まれること |
同上(aまたはbのどちらか) | (b)対象事業において創出される付加価値額が3億円以上、かつ、事業を実施する企業の直近2事業年度の平均付加価値額が50億円以上 |
上乗せ要件② | 上記の上乗せ要件①を満たした上で、かつ以下の3つの要件を全て満たすこと ・産業競争力強化法に規定する特定中堅企業 ・パートナーシップ構築宣言の登録をしている ・設備投資額が10億円以上 |
(※)下線の項目が今回の税制改正で見直しされた箇所
地域未来投資促進税制を利用する際の注意点

地域未来投資促進税制を利用の際には注意しなければならない点もあります。建物や機械設備等を取得後に税制措置が受けられない事態にならないよう、以下の2点はしっかり確認しておきましょう。
確認書交付前の取得資産は支援措置の対象外となるので注意
地域未来投資促進税制では、事業計画の承認を受けた後に主務大臣より確認書が交付されます。
したがって確認書が交付される前に対象資産を取得してしまうと、税制措置の対象外となり支援措置が受けられなくなってしまいます。対象資産については、必ず確認書の交付を確認した後に取得するようにしましょう。
また対象資産に係る工事についても、地域経済牽引事業計画の承認後に着工しなければならないルールとなっています。承認前に着工した工事は税制措置の対象外となりますので、くれぐれもご注意下さい。
参照先:手続きの流れに関する注意点|地域未来投資促進税制|経済産業省
中古の建物や機械設備の取得は支援対象外なので注意
地域未来投資促進税制では、新たに取得または制作した減価償却資産のみが減税措置の対象です。中古の建物や機械設備等は取得しても本制度の対象外となりますのでご注意下さい。
地域未来投資促進税制による支援制度の目的は、地域経済の牽引力を強化する新規の設備投資を促進することです。そのため要件を知らずに中古設備を取得してしまうと、予定していた支援措置が受けられなくなります。
地域未来投資促進税制の適用を受けるためには、取得する建物や機械設備等の資産が必ず新品であることを確認した上で取得するようにしましょう。
参照先:税制適用の主な注意点|地域未来投資促進法に基づく支援措置|経済産業省
まとめ
地域未来投資促進税制は、地域経済牽引事業計画の承認を受けた青色申告法人が受けられる税制措置のひとつです。
承認された計画に沿って新たに取得または制作した機械設備類に対して、特別償却(最大50%)や税額控除(最大6%)が受けられます。
設備投資を行う事業者にとって本制度は利用メリットが大きいので、税制措置を活用したい事業者は、まずは税の専門家である公認会計士や税理士等へご相談され、利用することが適切かの判断も含め、自社の経営及び財務状況等を的確に把握することが重要です。

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