【令和6年度】中小企業事業再編投資損失準備金制度の2つの改正ポイントを解説
令和6年度の中小企業事業再編投資損失準備金制度改正のポイントは、従来の経営力向上計画に係る制度が若干修正されたことと特別事業再編計画に係る制度が新設されたことです。
この記事では経営力向上計画に係る制度を再確認し、何が改正されたのか解説します。
目次
- 中小企業事業再編投資損失準備金制度とは
- 中小企業事業再編投資損失準備金制度のメリットとは
- 経営力向上計画に係る中小企業事業再編投資損失準備金制度利用の要件
- 中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用するための手続きの流れ
- 中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用する際の注意点
- 中小企業事業再編投資損失準備金制度改正内容
- まとめ
中小企業事業再編投資損失準備金制度とは
中小企業事業再編投資損失準備金制度は、中堅・中小グループ化税制とも呼ばれ、中堅・中小企業がグループ化に向けてM&Aを実施することを後押しする制度で、「経営資源集約化税制」の一種です。
具体的には、経営力向上計画の認定を受けた中小企業がM&Aを実施するにあたり、株式等の取得価額の70%までを準備金として積み立てた場合は、その全額を損金に算入することができます。準備金は5年間据え置くことができ、据え置き期間経過後は、5年間かけて毎年均等に準備金を取り崩して、益金に算入することになります。
また、減損や株式売却を行うといった取り崩し条件に該当した場合は、準備金の取り崩しを行い、益金に算入する必要があります。
中小企業事業再編投資損失準備金制度のメリットとは
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用することにより
- M&A実施時の税負担を軽減できる
- M&Aに伴うリスクを低減できる
という2つのメリットがあります。それぞれ解説します。
M&A実施時の税負担を軽減できる
M&A実施時は、多額の資金を投資することになり、資金繰りの悪化が懸念されます。そのうえ税負担が重くのしかかると、倒産の危機すら生じかねません。
その点、経営力向上計画の認定を受けた上で中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用すれば、M&Aによる投資額の70%までを準備金として積み立て、その全額を損金に算入できるため、その分、利益が減ってM&A実施時の事業年度の税負担を軽減することができます。
もちろん、5年後から準備金を均等に取り崩していくため、最終的な税負担額に変わりはありませんが、M&A実施時の資金繰りの悪化を緩和する効果があると言えます。
M&Aに伴うリスクを低減できる
M&A実施時には、貸借対照表に記載されていない簿外債務、将来発生する恐れがある偶発債務が発覚することがあります。
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用することにより、準備金を積み立てるため、不測の事態に備えることができます。また、制度利用に先立って、事業承継等事前調査チェックシートに基づく事前調査を行うことができるため、簿外債務や偶発債務の発覚といったリスク自体を低減することもできます。
経営力向上計画に係る中小企業事業再編投資損失準備金制度利用の要件
中小企業が経営力向上計画に係る中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用するためには、一定の要件を満たす必要があります。また、制度を利用できるM&Aも限定されています。それぞれ解説しましょう。
買い手側の要件
買い手側は次の2つの要件を満たす必要があります。
- 青色申告書を提出する中小企業者であること。
- 2024年3月31日までに事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた法人であること。
なお、中小企業者とは、資本金または出資金の額が1億円以下の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人のことです。
売り手側の要件
売り手側は、常時使用する従業員数が2,000人以下の法人または個人等の特定事業者等であることが要件となっています。
対象となるM&A
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用できるM&Aは限定されています。
具体的には、「他の特定事業者等の株式等を取得するもので、事業の承継を伴うもの」に限られています。
例えば、次のようなM&Aでは制度を利用することはできません。
- グループ内の法人同士のM&A
- 親族間のM&A
- 事業譲渡や合併によるM&A
株式の取得価額に上限がある
経営力向上計画に係る中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用する場合は、株式の取得価額の下限はないものの上限が設けられています。
具体的には、10億円が上限となっており、10億円を超える場合は、制度を利用することはできません。
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用するための手続きの流れ
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用するためには、
- 経営力向上計画の認定を受ける
- M&A実施を報告して確認書の交付を受ける
- 税務申告で損金算入する
- 主務大臣へ事後報告を行う
この4段階を経なければなりません。それぞれ解説します。
経営力向上計画の認定を受ける
買収側法人と譲渡側法人の間でM&A実施の基本合意が交わされた段階で経営力向上計画を策定し、主務大臣の認定を受けます。
経営力向上計画の内容は、株式取得を含み、かつ事業承継等事前調査の内容を記載したものである必要があります。
また、事業承継等事前調査チェックシートを併せて作成して添付します。
なお、主務大臣とは経営力向上計画の事業分野を所管する大臣のことです。例えば、建設業ならば国土交通省の地方整備局が窓口になります。
経営力向上計画は、経営力向上計画申請プラットフォーム(https://www.keieiryoku.go.jp/)から電子申請することもできます。
M&A実施を報告して確認書の交付を受ける
買収側法人と譲渡側法人の間でM&Aの最終合意を行い、認定された経営力向上計画に則って株式取得を行います。
その後、主務大臣に事業承継等を実施したこと及び事業承継等事前調査の内容について報告します。主務大臣からは確認書が交付されますので受け取ります。
税務申告で損金算入する
税法上の要件を満たしていることを確認した上で、税務申告の際に準備金積立額につき損金算入を行います。
なお、税務申告では、経営力向上計画の認定書と実施の確認書の2点を添付する必要があるので忘れないようにしましょう。
主務大臣へ事後報告を行う
毎事業年度終了後、主務大臣に「事業の状況等に係る報告書」を提出する必要があります。最初の提出期限は、M&Aを実施した事業年度の翌事業年度終了後4ヶ月以内です。
その後は、計画期間に応じて最大5年間、報告が必要になります。
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用する際の注意点
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用する際にはいくつか注意すべきことがあります。
経営力向上計画の認定を受ける前に取得した株式は対象にならない
この制度の対象となる株式取得は、認定された経営力向上計画に基づく株式取得です。認定を受ける前に取得した株式については、対象となりません。
据え置き期間中でも準備金の取り崩しが必要になることもある
中小企業事業再編投資損失準備金制度を利用すれば原則として5年間は準備金の取り崩しを行う必要がありません。
ただ、取り崩し事由に該当した場合は、5年間の据え置き期間中でも準備金の取り崩しが必要になることもあります。
具体的には次のような場合です。
- 経営力向上計画の認定を取り消された場合(全額)
- 取得した株式を売却等を行うことで所有しなくなった場合(全額又は相当分)
- 株式を取得した事業者が合併により合併法人に当該株式を移転した場合(全額)
- 取得した株式を発行する会社が解散した場合(全額)
- 取得した株式の帳簿価額を減額した場合(相当分)
- 取得した法人が解散した場合(全額)
- 取得した法人が青色申告書の提出の承認を取り消され、又は取り止めた場合(全額)
- それ以外の場合において準備金を取り崩した場合(相当分)
中小企業事業再編投資損失準備金制度改正内容
中小企業事業再編投資損失準備金制度は、2024年度(令和6年度)の税制改正により、一部変更されました。改正点は次の2点です。
- 特別事業再編計画に係る制度の新設
- 経営力向上計画に係る制度の一部変更
それぞれ解説します。
特別事業再編計画に係る制度の新設
改正では、過去5年間にM&Aを実施した中小企業が更に、2度目、3度目のM&Aを実施する際に特別事業再編計画を受けることで、積立率と据置期間について優遇措置を受けられることとなりました。
特別事業再編計画に係る制度の対象となる企業
次の2つの要件を満たす中小企業です。
- 過去5年間にM&Aを実施した中小企業であること。
- 改正産業競争力強化法において新設される特別事業再編計画の認定を受けること。
なお、上記までに紹介した経営力向上計画に係る制度を利用しているかどうかは問いません。
特別事業再編計画に係る制度の優遇措置の内容
特別事業再編計画の認定後1回目のM&Aでは、株式等の取得価額の90%までを準備金として積み立てて、その全額を損金に算入することができます。
2回目以降は取得価額の100%を準備金として積み立てて、その全額を損金に算入できます。
また、据え置き期間が10年間に延長されます。なお、据え置き期間後の均等取崩期間は5年間のままで変わりはありません。
さらに、株式の取得価額の上限と下限が変わります。
経営力向上計画では、取得価額の上限が10億円、下限はありませんでしたが、次のように変わります。
- 取得価額の上限 100億円
- 取得価額の下限 1億円
経営力向上計画に係る制度の一部変更
経営力向上計画に係る制度に関する変更点は次のとおりです。
経営力向上計画の認定期限の延長
経営力向上計画の認定期限が、3年延長されました。適用期限は、2026年度末(2027年3月31日)までとなります。
特定保険契約を利用している場合は経営力向上計画に係る措置を利用できない
その事業年度終了の日において特定保険契約を締結している場合には、経営力向上計画に係る措置を適用できないこととされました。
特定保険契約とは、中小企業のM&A向けの表明保証保険のことと考えられます。
M&Aでは、売り手側が買い手側に対して対象企業の財務や法務等に関する開示事項に虚偽がないことを表明保証し、売り手側が当該保証に違反した場合には、買い手側が被る損害に対して金銭的な補償を行う義務を負う旨の「表明保証」を行います。この表明保証を担保するために損害保険会社が提供する保険が表明保証保険です。
これに伴い、経営力向上計画に係る制度をすでに利用している場合でも、特定保険契約を利用すると取り崩し事由に該当することになります。
まとめ
中小企業事業再編投資損失準備金制度に関する令和6年度(2024年度)改正は、従来の経営力向上計画に係る制度については大きな変更はありません。
新設された特別事業再編計画に係る制度は、中小企業のM&Aをより一層推進するもので、中小企業のグループ化を促す内容になっています。
顧問先の中小企業がグループ化を検討している場合は、制度について解説し、利用を促すべきでしょう。
【まとめ記事】令和6年度 税制改正について、仕組みや変更点を紹介
税理士.ch 編集部
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