税理士になるために簿記の資格は必要?基本的な考え方と双方の関係性を紹介
「税理士になることを目標に定めたものの、税理士試験になるために簿記の勉強をする必要はあるんだろうか?」
税理士を目指す人の中には、このように素朴な疑問をもつ人も多いのではないでしょうか。結論からお伝えすると、税理士になるためには簿記の知識は必要ですが資格は必須ではありません。
本記事では、税理士試験と簿記の資格の関係性や、簿記資格の必要性について詳しく説明しています。税理士になるための勉強の方向性を探している人は、ぜひ記事内容をご確認ください。
目次
簿記の資格と税理士試験の関係性
簿記の資格と税理士試験にはどのような関連があるのでしょうか。
2つのポイントにて関係性を説明します。
- 日商簿記1級の資格で税理士試験の資格が得られる
- 税理士試験には簿記の知識が必要
日商簿記1級の資格で税理士試験の資格が得られる
一般的には簿記検定2級・1級レベルの知識相当が、税理士試験の会計科目に相当すると言われています。
税理士試験の合格を目指す人には、日商簿記検定2級・1級の勉強で会計の基礎を学んでいる人も多いです。
簿記検定2級に合格したあとに実務経験を積んで税理士試験へ挑戦する人の他に、日商簿記1級の資格を取得して税理士試験の資格獲得を目標とする人もいます。
税理士試験には簿記の知識が必要
税理士になるには試験で5科目に合格しなければいけません。5科目をクリアするうえで必須科目とされている「簿記論」と「財務諸表論」には、簿記検定で学習する内容が含まれています。
その他に「所得税法」や「法人税法」「事業税」「消費税法」などの選択科目においても簿記の知識が前提として出題されます。税理士試験に合格するには簿記の知識は最低限必要と考えておいて良いでしょう。
必ずしも必須ではない
簿記検定の知識と税理士試験の会計科目に必要な知識には深い関連性がありますが、税理士になるにあたって、簿記検定の資格は必須ではありません。
ある程度の簿記の知識があると税理士試験の学習がはかどる、という具合です。
会計知識をまったく持ちあわせていない人は、いきなり税理士試験の会計科目から勉強を始めてしまうと、挫折する可能性が高いです。
まずは簿記の基礎知識から着実に身につけていくようにしましょう。
税理士試験とは?
税理士試験に簿記の資格はどのように関わっているのでしょうか。
簿記との関係性を把握するために、税理士試験の概要を紹介します。
- 試験科目
- 受験資格
試験科目
税理士の試験科目は合計で11科目用意されており、そのうち5科目を選んで受験します。
5科目の選択は「必須科目」「選択必須科目」「選択科目」の3つのカテゴリーからルールにしたがって選びます。
必須科目(2科目) | 会計科目の「簿記論」と「財務諸表論」必ず合格しなければいけない |
選択必須科目(1科目) | 「所得税法」と「法人税法」のうち、いずれか一つを選ぶ |
選択科目(2科目) | 選択科目は「相続税法」「消費税法または酒税法」「固定資産税」「国税徴収法」「住民税または事業税」 |
受験資格
税理士の受験資格は、「学識」「資格」「職歴」「受験資格の認定」の4つのタイプに分類されています。
この4つのタイプのうち、一つでも条件を満たしていれば受験資格が得られます。
タイプごとの受験資格詳細は次のとおりです。
学識の受験資格
- 大学もしくは短大を卒業した人で、法律学または経済学を1科目以上履修した人
- 大学3年生以上で、法律学または経済学を1科目以上服も62単位取得した人
- 一定の専門学校の専門過程を修了した人で、法律学または経済学を1科目以上履修した人
- 公認会計士試験の短答式試験に合格した人
資格の受験資格
- 日商簿記検定1級に合格した人
- 全経簿記検定上級に合格した人
職歴の受験資格
- 法人または個人の会計事務所にて2年以上の実務を経験した人
- 銀行や信託会社、保険会社などで資金の貸付や運用に関連する事務を2年以上経験した人
- 税理士や弁護士、公認会計士などの補助事務に2年以上従事した人
受験資格を認定される他のケース
- 海外の大学で法律学と経済学を履修して卒業した人で、日本の大学などを卒業した人と同等と認められた人
- 商工会や青色申告会にて記帳指導事務に2年以上携わった人
日商簿記の試験と税理士試験の違い
日商簿記の試験と税理士試験の根本的な違いを2つのポイントにて説明します。
- 簿記1級と簿記論の違い
- 合格率の差
簿記1級と簿記論の違い
日商簿記1級の出題範囲は「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」の4つです。
一方で税理士試験の簿記論の出題範囲は「複式簿記の原理」「その記帳・計算及び帳簿組織」「商業簿記」「工業簿記」の4つです。
出題範囲のおよそ9割は重複すると言われています。
一つ異なる点は、簿記論に含まれる原価計算です。簿記1級と簿記論は似たようなテーマで出題されますが、難易度は簿記論の方が高い傾向にあります。
簿記1級はある程度出題傾向が予測できるため、過去問にてしっかり対応することで得点を狙うことができますが、簿記論は問題作成者である学者や実務家が毎回入れ替わるため、出題傾向が毎年変わります。
臨機応変さが求められる点に簿記論の難しさがあると言って良いでしょう。
合格率の差
出題テーマが似ている税理士試験の簿記論と日商簿記1級の合格率に明確な差はあるのでしょうか。
それぞれの直近5回分の合格率を一覧表にまとめました。
税理士試験の簿記論
令和5年 | 17.4% |
令和4年 | 23.0% |
令和3年 | 16.5% |
令和2年 | 22.6% |
令和元年 | 17.4% |
平均 | 19.4% |
日商簿記1級
令和5年11月 | 16.8% |
令和5年6月 | 12.5% |
令和4年11月 | 10.4% |
令和4年6月 | 10.1% |
令和3年11月 | 10.2% |
平均 | 12.0% |
直近5回の合格率平均では、簿記1級の方が低くなっています。
数字だけを見ると税理士試験の方が簡単なのかと早合点してしまいそうですが、税理士試験は受験資格を満たした人が受験しているため、前提知識の差を考慮しなければいけません。
簿記1級の場合は、会計の知識が薄い人でも受験できるルールです。税理士試験は簿記1級よりも受験者のレベルが高くなるため、必然的に合格率が上がる傾向にあります。
税理士試験と簿記1級の資格どちらを優先すべきか
将来税理士として働く目標を定めている人は、税理士の登録資格が得られる税理士試験を優先するべきです。会計事務所や税理士法人に就職したい場合は、税理士試験の簿記論のみの合格でも十分に戦力として活躍できます。
総務職としてのキャリアアップを望む場合は簿記1級の受験がおすすめです。簿記1級では商業簿記と工業簿記の両方を学べるため、経理に必要とされるレベルの高い知識を満遍なく身につけることができます。
簿記1級の資格は会計の専門家として見られるため、企業の経理部に就職する際には大きなアピールポイントとなるでしょう。
どちらの資格を優先すべきかは、これから進むキャリアによって決まると言っても過言ではありません。
簿記1級の資格を取得するメリット
簿記1級を取得するメリットは、企業の経理職として活躍するために必要な知識と評価が得られる点にあります。
その他には、税理士資格の受験資格が得られることも大きなメリットです。
- 会計の知識を十分にアピールできる
- 税理士試験の受験資格を得られる
会計の知識を十分にアピールできる
簿記1級の試験に合格するには工業簿記、原価計算の十分な理解が必須です。試験に合格できるだけのスキルがあれば、メーカーの経理職として十分に活躍できるでしょう。
将来独立して事業を運営したいという人にとっても会計の知識はあらゆる局面で役立ちます。
将来のキャリアアップのためにも、簿記1級は持っておいて損はない資格です。
税理士試験の受験資格を得られる
税理士試験の受験資格がない場合は、会計に関する事務の実務経験が2年以上必要です。簿記1級の試験は年に2回あります。
つまり簿記1級の試験に合格できれば、2年を待たずして税理士試験の資格を得ることもできるということです。
実務経験を重視したい人は、簿記1級の資格取得を目指しつつ税理士事務所で2年の実務を積む選択もできます。
まとめ
税理士になるためには、簿記の資格は必須ではありません。しかし、税理士の仕事に簿記の知識は必要です。それは簿記1級の資格を取得していると、税理士試験の資格が得られることからも明らかです。
合格率は税理士試験の方が高く、簿記1級試験の方が低いですが、難易度は税理士試験の方が高いと言われています。
税理士になることを目標として定めている人は税理士試験を優先すべきですが、勉強の一環として簿記の勉強を進めるのは良い選択肢です。時間に余裕がある人は、簿記資格の取得に向けた勉強を進めてみても良いでしょう。
税理士.ch 編集部
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