メガソーラー問題~その功罪と未来〜

メガソーラー問題~その功罪と未来

近年、日本各地でメガソーラー発電所の建設が相次ぎ、大規模な太陽光パネルが山林や農地を覆う光景が珍しくなくなりました。再生可能エネルギーの普及という観点からは歓迎される一方で、自然環境の破壊や景観の変化、災害リスクの増大といった負の側面も顕在化しています。こうした課題は地域経済や住民生活に直結し、このコラムの読者層としては顧問先や経営者から相談を受ける可能性があるテーマです。

この記事では、メガソーラーの歴史と現状、設置が進む背景、問題点とその解決策、さらに未来の展望について整理します。エネルギー政策の動向は税務・会計実務にも影響を及ぼすため、制度や市場環境を正しく理解しておきましょう。

目次

メガソーラーの現状

「メガソーラー」とは、1MW(メガワット)以上の発電能力を持つ大規模太陽光発電所を指します。2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)をきっかけに急増し、利用されなくなった農地や山林の斜面、工場跡地などに建設が進みました。

経済産業省の統計によると、2024年12月末時点の太陽光発電の導入量(運転開始済容量, ACベース)は75.6GWに達し、近年は年間約5GWのペースでの導入が続いています。

最新の推計では、2024年の年間発電電力量に占める太陽光発電の割合は約11%に達しています。規模別には、非住宅(10kW以上)が約8割を占め、うち1MW以上のメガソーラーは全体容量の約4割という構成です。特に九州・中部・関東では、春の軽負荷期(GWなど)の晴天・休日の昼間に、太陽光が需要の4割超に達する時間帯が確認されています。

一方で、出力が天候に左右されやすいため、電力の安定供給を支える火力発電や送電網の調整力に依存しているのが実情です。発電量と需要が一致しない時間帯には余剰電力が発生し、制御が課題となっています。

ソーラー発電の始まりから現在まで

日本の太陽光発電の歩みは、第一次石油危機を契機とする研究開発の強化に始まります。1990年代に入ると住宅用の実証が進み、1992年には余剰電力の買取がスタートしました。1994年には住宅用太陽光への国の補助金が導入され、屋根上を中心に普及の基盤が築かれます。

2000年代半ばには国の住宅用補助がいったん終息しますが、2009年に住宅用の余剰買取制度が再開し、普及は再加速しました。決定的な転機は2012年の固定価格買取制度(FIT)です。一定期間の買取価格をあらかじめ約束する仕組みが投資回収の見通しを与え、大規模案件への資金が流入しました。その後は入札の導入や価格見直しを通じて、制度は段階的に“量から質”へ舵を切っていきます。

2020年代に入ると、政策の中心は市場連動のFIPへ移り始めます。FIPは、発電事業者が市場で売電し、そこに月次で算定されるプレミアムを上乗せする仕組みです。価格は固定ではなく、市場と連動します。これにより太陽光は、電力市場とより深く結びついた“運用型の事業”へと性格を変えつつあります。今後は中規模案件にもFIPの適用拡大が進み、予測・調整・蓄電池運用・アグリゲーションといった“運転の巧拙”がリターンを左右する局面が増えます。

メガソーラーの設置が進んでいる理由

メガソーラーの設置が進んでいる理由は、エネルギー安全保障と脱炭素の要請に対し、短い期間で容量を積み上げられるからです。

初期の高い買取価格とスケールメリットが投資を呼び込み、プロジェクトファイナンスも拡充されました。遊休地・工業団地・造成済み地の活用は地方財政にプラスをもたらし、企業のRE100(企業が使用電力を100%再エネに切り替えることを約束する国際イニシアチブ)対応やPPA(Power Purchase Agreement:発電事業者と需要家が直接結ぶ長期の電力購入契約。自社設備を持たずに再エネを調達できる仕組み)需要の高まりも後押ししました。

こうして“速さ・規模・資金”が揃ったことが導入加速の主要因ですが、そのスピードがしばしば制度整備や住民合意、系統容量の準備不足を招いた側面は否めません。

メガソーラーをめぐる諸問題

再生可能エネルギーの推進役として期待される一方で、メガソーラーは以下のように様々な問題を引き起こしており、解決策が追い付いていない感がありますが現在進行形で議論がなされています。

自然環境の破壊

山林伐採によって土砂崩れのリスクが高まった地域があります。2021年の静岡県熱海市の土石流災害では、盛土造成に加え、周辺のソーラー開発が影響を与えた可能性が指摘されました。中山間地に設置された施設では雨水の流れが変わり、下流の河川氾濫を招く危険性が増しています。

景観悪化と観光への影響

長野県や京都府の観光地周辺では、山の斜面に設置されたメガソーラーが景観を損ねるとして住民や観光業者から反発がありました。観光収入や不動産価値の下落を懸念する声も強まっています。

地域住民との対立

事業者が外部資本であるケースも多く、住民説明が不十分なまま工事が進められることで、行政訴訟や差し止め請求に至った例もあります。地域の合意形成の欠如が社会的摩擦を大きくしています。

廃棄パネルの環境リスク

寿命を迎えたパネルには鉛やフッ素樹脂など有害物質が含まれている場合があり、処理を誤ると土壌汚染の原因となります。環境省の試算では、2040年までに累計約8000万トンもの廃棄パネルが発生すると見込まれており、その処理費用を誰が負担するかは大きな論点です。

送電網の制約と出力抑制

九州電力管内では太陽光の出力が需要を上回り、発電を抑制する「出力制御」が主に春の軽負荷期(GW など)を中心に毎年度繰り返し発生しています。発電事業者にとっては収益悪化の要因であり、投資回収が難しくなる懸念があります。

FIT導入後、とりわけ太陽光の急速な導入で“系統制約”が顕在化し、既存送電網の容量上限が再エネ拡大の制約要因となっています。実際、広島県のメガソーラー計画では『送電線の空き容量が足りない』として受け入れ不可となった区画が生じた事例も報じられています。

関連法規の未整備

メガソーラーの急拡大は上記のような問題を生ぜしめましたが、これに対し「法整備が現場に追いついていないからだ」という指摘が続いています。現在各方面から声が出ている点を挙げればきりがないほどですが、主要な3点を挙げるとすれば以下の通りになるでしょう。

  • 再生可能エネルギー特措法で出力制御や認定・監督の予見可能性を高める。
  • 環境影響評価法で分割回避や急傾斜・流域評価の義務化など実効性を強める。
  • 電気事業法でノンファーム接続・調整力市場・広域連系の整備を明確化する。

このほかの太陽光発電関連の法整備の課題もまとめて整理すると以下の表のようになります。

法律・制度(要旨)メガソーラー関連の未整備/課題(要点)整備が求められる方向(例)
再生可能エネルギー特法<FIT/FIP・事業計画認定)出力制御の予見可能性が不十分/維持管理・違反是正の運用が自治体でばらつく出力制御ルールの数値的開示・オンライン代理制店の標準化/認定取消・罰則の全国平準化
電気事業法(系統接続・運用)ノンファーム接続の運用が不透明/調整力・DR・蓄電の価値評価が不十分/広城連系の投資判断が遅い接続・出力制部の補償ルール明確化/調整力市場の高度化/広城連系強化の計画透明化
環境影響評価法(環境アセスメント)規模開値回避の分割計画・段階施工/急傾斜・盛土・流城評価が不足/住民説明の実効性が弱い分割回避の実効化(禁止の明文化)/急傾科・水源の最低基準設定/説明会・意見反映の拘束力強化
森林法皆伐・林地開発許可の基準が地域差/保安林での開発抑制が不十分保安林・水源涵養林における明確な禁止・制限基準 /監督・罰則の実効化
土砂災害防止法/砂防法急傾斜地・盛土造成で最低基準が不統一/濁水・土砂流出対策が事後的盛土・排水・保全工の全国最低基準・監督強化/違反時の是正命令の迅速化
農地法営農型(ソーラーシェアリング)の転用審査が自治体で揺れる/耕作放棄地の扱いが不明確営農継続の定量基準・転用許可の全国標準化/違反時の是正・取消の明確化
最観法景観区域・歴史的景観周辺での設置基準が自治体ごとにばらつく眺望・色彩・反射の指針と合意形成プロセスの標準化/最低基準の国指針化
河川法・漁業法(水上太陽光)係留・水質・航行・漁業権調整の手続が分散/責任分界が不明確水上設置の統一ガイドライン・水質監視基準/利水調整の迅速化
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)使用済みバネルの区分・保管・運搬・処理基準が不明確/不適正保管の感念保管・運搬・処理の技術基準と許可要件の明確化/ 追跡(トレーサビリティ)整備
資源有効利用促進法(EPR)拡大生産者者任(拠出・回収)の制度化が過渡期/費用確保の仕組みが弱い回収処出金・保証金の制度化/リサイクル目標と達成義務の明確化
建築基準法(BIPV・軽量パネル)外皮一体の耐用耐火・落下防止・点検の基準が 不明確/工作物該当性に差BIPV・軽量バネルの設計・施工・保守ガイドラインの法的位置づけ強化
地方税法(固定資産税・横却資産税)家屋/償却資産/構築物の区分と評価、耐用年数の解釈が自治体で揺れる資産区分・評価・耐用年数の全国統一解釈/わがまち特例の整理・周知
国土利用計画法大規模土地取得・転用の届出・審査が実態に追いつかず監視が後追い一定規模以上の再エネ開発の事前届出・審査の強化/透明化
自然公園法国立・国定公園や風致地区での設置可否・景観配慮が自治体でばらつく保護区での設置判基準の明確化/代替案検討義 務の明文化
文化財保護法埋蔵文化財包蔵地・史跡周辺の開発行為手続に地 城差/発見時対応が不統一事前調査・届出の標準化/発見時の停止義務と処理 フローの明文化

これだけ普及してからすでに遅しという感がありながらも、このように非常に多い課題を抱え、国・自治体で「最低基準の統一」「住民参加の実効化」「系統整備とルールの明確化」「廃棄責任の見える化」を同時並行で進めるべき、という声が強まっています。

なお、一方では法整備を待たずして各自治体、メーカー、地域単位で問題解決に向けた様々な取り組みもそれぞれに行われているのが実情です。

メガソーラーの未来

今後の方向性としては、技術・制度・地域経済の三つの軸で大きな変化が見込まれます。

技術革新

高効率パネルの開発が進み、同じ面積でもより多くの電力を生み出せるようになっています。また「ソーラーシェアリング」によって農業と発電を両立させる取り組みが広がりつつあります。さらに、パネルの軽量化や透過型技術により、都市部の建物外壁や窓ガラスにも導入できる可能性があります。

制度改革と市場化

FITからFIP(市場連動型制度)へ移行しつつあり、単なる補助金依存ではなく、電力市場価格に応じた柔軟な事業運営が必要になります。電力先物取引やグリーン証書など、新たな金融スキームとの連動も期待されます。

地域経済との連携

自治体主導で再エネ事業を立ち上げ、利益を地域インフラ整備や福祉に充てる事例も出始めています。地域が主体的に関わることで、持続可能性と社会的受容性が高まると考えられます。

メガソーラーをめぐる有力政治家の発言

自民党総裁選に向けた記者会見で高市早苗氏は、「美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対です」と述べ、無秩序な野立て偏重への批判と、サプライチェーンの安全保障を前面に打ち出しました。

あわせて、国産の新技術(薄くて軽いフィルム型の次世代太陽電池など)への投資を強化し、屋根や壁面など建物を起点にした実装を広げる方向性が示されたと報じられています。

この立場は、山林の大規模造成に伴う環境・景観リスクを抑え、都市部を含む既存ストックでの分散導入を加速するという政策ベクトルと整合的です。一方で、国内製造を伸ばすには量産設備、人材、品質規格、初期需要の創出といった産業政策の手当てが不可欠です。

また、太陽光の一時的な供給過剰や送電網の調整問題については、出力制御の適正運用とともに、蓄電・需給調整の市場整備、広域連系の増強といった“系統側の刷新”が前提になります。

高市氏の問題提起は、立地の転換・産業の自立・系統の近代化という三点セットでの対応を社会に促すものだと受け止められます。

まとめ

メガソーラーは再生可能エネルギー拡大の象徴であり、エネルギー自給率の改善や温室効果ガス削減に貢献してきました。しかしその拡大は、自然環境の破壊や地域社会との摩擦、廃棄物処理といった新たな問題を生み出しています。

今後は、環境と共生し地域に利益を還元する持続可能な形への転換が求められます。分散型エネルギーや地域共同事業の発展は、その解決策の一つです。また、廃棄パネルのリサイクル技術も今後の進展を注目する必要があります。

加えて、税務・会計の専門家には、エネルギー事業の投資採算性や補助金の処理、償却資産税の申告支援など、多様な役割が期待されます。制度改革や技術革新を注視しつつ、財務面からの支援を通じて持続可能な社会づくりに貢献できるといえるでしょう。

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