知らないと危険!税理士に求められるマネーロンダリングの知識
日本は国際社会の一員として、FATF(金融活動作業部会)が定めたマネーロンダリングに関する規則を遵守しています。金融機関を中心にマネーロンダリングに関する法整備も進められてきました。
マネーロンダリングに関する法律は、税理士の業務にも関連しています。税理士を志す人は、事前に把握しておきたい内容です。
税理士の業務内容とマネーロンダリングの関連性が気になる方は、ぜひ記事内容をご確認ください。
目次
マネーロンダリングとは?
マネーロンダリングとは、犯罪によって手に入れたお金の出どころや持ち主をわからなくする方法のことを言います。和訳では資金洗浄とも呼ばれます。
マネーロンダリングの手法
主なマネーロンダリングの方法は次の3つです。
手法 | 概要 |
プレイスメント | 犯罪で獲得した収益を金融システムに組み込む |
レイヤーリング | 犯罪収益の出どころを不鮮明にするために資金源から隔離する |
インテグレイション | 犯罪収益を合法的な経済活動に投入する |
以上の3つの手法は、国際的にマネーロンダリングの対策を行っている「FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)」が、各国のマネーロンダリングのリスクを特定・評価する際に活用しています。
プレイスメント
マネーロンダリングの手法の一つであるプレイスメントとは、犯罪によって得た不正な資金を、合法的な経済活動のサイクルの中に組み込む手法です。
プレイスメントの手法は多様を極めますが、一般的に知られている洗浄方法は次の通りです。
- 不動産購入
- 有価証券の購入
- 高額な商品の購入
- 仮想通貨の購入
- 架空会社の設立
マネーロンダリングの初期の段階でプレイスメントを行い、さらに他の手法を組み合わせつつ資金の出どころを撹乱します。
インテグレイション
インテグレイションは、犯罪によって獲得した不正な資金を合法的な経済活動の中に組み込みつつ、あたかも合法的に得られた資金のように見せる手法です。
一般的に知られているインテグレイションの手法は次の通りです。
- 合法的な事業への投資
- 寄付活動
- 高額な消費
- 合法的な金融商品への投資
- 合法的なビジネスの設立
インテグレイションには、資金の出どころをわからないようにする目的の他に、犯罪組織が社会的な信用を得る目的として実行されます。
レイヤリング
レイヤリングとは、犯罪で獲得した収益の出どころを隠すために資金の流れを複雑化させる手法のことを言います。
レイヤリングに使われる主な手法は次の通りです。
- いくつもの口座間での送金
- 高額な現金の分割
- オフショア口座を使う
- 仮想通貨を使う
- ペーパーカンパニーなどを使う
他の手法と組み合わせたレイヤリングの一例を紹介します。
- 最初に犯罪収益の1億円をプレイスメントによって複数の銀行口座へ少額に分けて預ける
- それぞれの口座から他の口座へ、もしくは海外の口座への送金も交えるレイヤリングによって資金の流れを複雑にする
- 最後はインテグレーションによって、合法的な事業への投資や不動産購入などを経て、合法的な資金へ洗浄しつつ社会へ戻す
レイヤリングはマネーロンダリングを成功させるための大事なステップです。レイヤリングによって犯罪組織は不正な資金を合法化しつつ、活動を継続することができます。
マネーロンダリング対策の必要性
近年、拡大するグローバル化や暗号資産の普及により、マネーロンダリングによる犯罪やテロ資金供与は、ますます巧妙化しています。
マネーロンダリングに関する犯罪は犯罪組織に潤沢な資金を供与します。
経済や社会に与える影響も深刻です。
国際社会は、FATF(金融活動作業部会)を中心に、これらの犯罪に対抗するため、金融機関や専門家が顧客を適切に管理し、不正な資金の流れを追跡できるような仕組みづくりを進めています。
日本も国際基準に沿って、マネーロンダリング対策が強化されてきました。
犯罪組織やテロを企てる組織に活動資金が流れるようなことがあってはなりません。
犯収法にて定められた税理士の義務
税理士は、企業や個人の財務に関する専門家として、会計処理や税務申告など、幅広い業務を行います。一方で、犯罪によって得られた不正な資金を合法化しようとするマネーロンダリングに悪用される可能性も指摘されています。
マネーロンダリング防止の観点から、税理士を含む特定の事業者はマネーロンダリング防止のために一定の義務を遂行しなければいけません。
本項では税理士に課せられた義務の詳細について説明します。
特定取引とは
税理士法人が行う特定の業務を「特定取引」と呼びます。特定取引は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)に基づき、マネーロンダリング防止のために、税理士法人に課せられた本人確認義務などの対象となる取引です。
税理士は会社設立や不動産売買など、大規模な資金移動に関わる業務を行うことがあります。犯罪者がマネーロンダリングに税理士を利用する可能性が想定されるため、特定取引時の本人確認義務が課されているというわけです。
主な特定取引の例は次のとおりです。
- 不動産の売買に関する行為または手続き
- 会社の設立または合併に関する行為または手続き
- 現金、預金、有価証券、その他の財産の管理または処分
特定取引に携わる税理士には次の義務が課せられます。
- 顧客の本人確認
- 取引目的の確認
- 取引記録の作成・保存
- 疑わしい取引の届出
ハイリスク取引とは?
ハイリスク取引とは、マネーロンダリングに悪用される可能性が高い取引のことを言います。
主なハイリスク取引は次のとおりです。
- なりすましの疑いがある取引
- 本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引
- イラン・北朝鮮に居住、所在する者との取引
- 外国の重要な公的地位にある者等との取引
- 高額な現金取引
- 匿名会社やペーパーカンパニーとの取引
ハイリスク取引を行う際には特定取引の時と同じく、厳格な確認が必要です。
具体的な確認は次の通りです。
- 本人特定事項の再確認
- 取引目的の精査
- 資金源の確認
- 取引相手に関する情報収集
- 疑わしい取引の報告
税理士は業務上、マネーロンダリングの事実を発見しやすい立場にいます。ハイリスク取引を適切に管理し、法令を遵守することによって、社会全体の安全に貢献できる立場位にいることをよく認識しておく必要があります。
マネーロンダリングに該当する行為
日本ではマネーロンダリングに該当する行為として、3つの行為が禁止されています。
また、犯罪収益に繋がる犯罪として、前提犯罪も要チェックの対象です。それぞれの詳細について説明します。
禁止されている3つの行為
禁止されている行為と概要を一覧表にまとめました。
禁止行為 | 概要 |
犯罪収益の隠匿 | 犯罪で獲得した資金を隠す行為。偽名を使って口座を開設したり、高額な不動産を購入したりすることなど |
犯罪収益の移転 | 犯罪で得た収益を転々とさせる。海外の口座に送金したり、暗号資産を利用して資金を移動したりする |
犯罪収益の利用 | 犯罪で得た資金を使って、事業を営んだり、財産を取得したりする行為。高級品を購入したり、新しい会社を設立したりすることなど |
以上の行為は、マネーロンダリングで得た収益を合法化するためものです。犯罪収益移転防止法によって厳しく禁止されており、違反した場合は罰則が課せられます。
犯罪収益と前提犯罪
前述の禁止されている3つの行為は全て、犯罪収益に関わる事例です。
犯罪収益を得るには前提犯罪は欠かせません。不正な資金を得るためには、最初に前提となる犯罪が実行されます。マネーロンダリングはきっかけとなる前提犯罪がなければ実行されません。主な前提犯罪の例をピックアップしてみました。
- 薬物取引
- 詐欺
- 恐喝
- 窃盗
- 売春
- 脱税
- 組織犯罪
マネーロンダリングの前提となる犯罪を特定することによって、犯罪収益を追跡だけでなく、組織の解体にまで漕ぎ着けることができます。前提犯罪に税理士が関わってしまうこともあるため、業務上マネーロンダリングの意識は必要です。
まとめ
マネーロンダリングに関する犯罪行為は縁遠いように思えて、案外身近にあるものです。税理士の業務にて、不審に感じる取引を見つけることがあるかもしれません。
不審と思われる取引については、ガイドラインにしたがって適切に対処しましょう。マネーロンダリングの摘発も、税理士の業務の一環であるという認識が必要です。
税理士.ch 編集部
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