IMFからの200億ドル融資決定 「アルゼンチンのトランプ」、ミレイ大統領の経済改革とは

IMFからの200億ドル融資決定 「アルゼンチンのトランプ」、ミレイ大統領の経済改革とは

2025年4月11日、国際通貨基金(IMF)は、経済危機に陥るアルゼンチンへの総額200億ドルの融資を正式に承認しました。背景にあるのは、2023年末に大統領に就任したハビエル・ミレイ氏による急進的な経済改革です。

過激な発言と徹底した市場主義で「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれるミレイ大統領の政策は、国際社会の注目を集めつつ、国内では賛否が激しく分かれています。

アルゼンチンはこれまでどのような経済状態で、これからどうなっていくのでしょうか。世界ではアメリカのトランプ大統領のように、過激とも思える主張を実行する国家元首が台頭してくるという、これまでにない現象が発生しており、その行方は大変注目されるところです。

この記事では、ハビエル・ミレイ、アルゼンチン大統領の経済改革についてその内容と影響を整理していきます。

目次

これまでのアルゼンチン経済

日本から見ると地球の裏側であるアルゼンチンは、我々にとってはあまりなじみのない国です。まずはアルゼンチン経済の現状と歴史について整理していきます。

アルゼンチン経済の概要

アルゼンチンは、南米第2位の広さを持つ国で、国土面積は278万平方キロメートル。日本の約7.5倍、アメリカ合衆国の約3分の2に相当します。一方で人口は約4,600万人と、日本(約1億2,400万人)の3分の1程度です。

同国のGDPは2023年時点で約6,300億ドル。これは台湾(約7,600億ドル)やポーランド(約7,900億ドル)に近く、中規模経済国に分類されますが、1人あたりGDPは13,000ドル程度で、日本(約33,000ドル)やアメリカ(約80,000ドル)との差は大きく開いています。

主要な輸出品は、大豆、小麦、トウモロコシ、牛肉、ワインなど。特に大豆製品は輸出額全体の約3割を占め、農業が国家経済の柱となっています。農業のGDP比は約7%ですが、輸出に占める割合は50%以上に達します。工業は自動車や石油精製、食品加工などが中心ですが、国際競争力に乏しく、近年は生産拠点の空洞化も進行しています。

アルゼンチン経済の歴史

20世紀初頭、アルゼンチンは豊富な農業資源を背景に「世界第7位の経済大国」として栄えました。しかし1929年の世界恐慌で輸出依存型の経済は大打撃を受け、保護主義と国家介入が強まります。1946年に登場したペロン政権は、福祉国家の建設と産業の国有化を進めましたが、同時に財政赤字とインフレの常態化を招きました。

1970〜80年代の軍事政権時代は、政治的弾圧と経済の混乱が進み、1982年のフォークランド戦争敗北を経て民政移管が行われます。90年代には一時的な安定を取り戻したものの、2001年に大規模な債務不履行と経済崩壊を経験します。

その後、2000年代前半は大豆輸出と通貨切り下げ効果で回復しますが、再び財政膨張とポピュリズム政策が続き、インフレと通貨安が深刻化。こうした累積的な失政と不信の果てに、2023年末、急進的な市場改革を掲げるハビエル・ミレイ氏が登場し、「過去との決別」を掲げる改革が始まりました。

9回のデフォルト

そして何より、アルゼンチン経済の不安定さを象徴するのが、繰り返されてきた通貨危機と対外債務のデフォルトです。建国以来過去9回に及ぶ債務不履行のなかでも、特に2001年の約950億ドル規模のデフォルトは国際金融市場に衝撃を与えました。

アルゼンチンこれまでのデフォルト(債務不履行)
アルゼンチンこれまでのデフォルト(債務不履行)

背景には、財政の慢性的赤字と、中央銀行による過剰な通貨発行がありました。

財政赤字を中央銀行が補う形は2020年代の日本にも見られる構造です。日本の保有資産やGDPとは大きな差があるものの、財政規律の緩みと通貨信認の低下は、どのような国でも警戒すべき課題です。この点に関しては日本国内でも盛んに議論されています。

ハビエル・ミレイ氏の主張

A leader figure stands confidently among smaller figures, symbolizing guidance, authority, and teamwork in a corporate setting.

ハビエル・ミレイ氏は経済学者出身で、政治経験に乏しいながらも、急進的なリバタリアン思想と反エスタブリッシュメントを掲げて2023年末の大統領選を制しました。中央銀行の廃止や、法定通貨としてのペソを放棄してアメリカドルに全面的に切り替える「ドル化」を訴えるなど、既存の経済政策とは一線を画す姿勢が特徴です。

彼の持論は、「国家が市場に干渉することが経済の本質的な歪みを生んできた」というもの。補助金政策や公共事業を「政治家の票集め」と断じ、政府支出を徹底的に削減することを改革の第一歩と位置づけました。特に中央銀行については、「インフレを生む犯人」として、その存在自体を否定しています。

このような姿勢は、保守・自由主義者からの熱狂的な支持を得る一方、労働組合や福祉層からは強い反発を招いています。とはいえ、20年以上続いた慢性インフレと通貨安の中で、多くの有権者は従来路線への失望から「破壊者」に改革を託す判断を下したのです。

ミレイ大統領の経済政策

ミレイ政権が打ち出した経済政策は、財政均衡と市場原理への回帰を柱としています。中でも「支出の切り込み」と「通貨政策の見直し」は、その急進性から大きな注目を集めています。

財政緊縮策

2024年初頭から実施されたのが、大規模な財政削減です。各省庁の統廃合、補助金の打ち切り、公共事業の凍結、公務員の人件費抑制などが行われ、政府支出は対GDP比で2%以上削減されました。特に公共料金に対する補助金の廃止は、電気代・交通費の高騰を招き、低所得層に強い打撃を与えています。

ドル化と中央銀行廃止構想

ミレイ氏が最重要課題と位置づけるのが通貨改革です。ペソの急落とインフレの根本原因は、政府が財政赤字を補うために中央銀行に通貨発行を依存してきたことにあります。日本でも近年、国債の大量発行と日銀の保有比率増加が問題視されていますが、アルゼンチンではそれが制御不能な形で進行しました。

ミレイ政権はペソの段階的廃止と米ドルの法定通貨化を模索しています。既に民間では実質的なドル経済が進んでおり、貯蓄・不動産・契約の多くがドル建てで行われています。ただし、通貨主権の放棄には賛否があり、また米国との調整も必要なため、実現には高い政治的ハードルがあります。

規制撤廃と民営化

経済の自由化に向け、国営企業の民営化や価格統制の撤廃も進められています。電力会社や鉄道、航空、通信分野などが売却対象とされ、すでに一部では入札が始まっています。また、労働法制や税制についても改革が予告されており、法人税の引き下げと労働市場の柔軟化(雇用や解雇の規制を緩和する)が検討されています。

ミレイ新政権発足以降のアルゼンチン

ミレイ政権発足後のアルゼンチン経済は、大きく揺れ動いています。2025年春の時点で、物価は依然として高水準にありますが、財政収支の面では成果が見え始めています。一次財政収支が黒字に転じたのは実に20年ぶりのことであり、IMFからの高評価につながりました。

2025年4月11日、IMFはこの成果を受けて、4年間で最大200億ドルの支援枠を設けることを正式に決定。第1弾として約120億ドルの拠出が予定されており、為替介入や対外債務の返済に充てられる見通しです。これにより、ペソの急落にも一時的に歯止めがかかりました。

ただし、国民生活への影響は深刻です。補助金の廃止で光熱費や食料品価格が上昇し、貧困層の生活は厳しさを増しています。ブエノスアイレスでは年金生活者を中心とする大規模な抗議デモが起こるなど、政権にとっては支持の維持が大きな課題となっています。

ミレイ氏は「痛みの伴う改革」を公言していますが、その痛みに耐える社会的合意がどこまで持続するかが問われています。短期的な混乱をどう乗り越え、中長期的な信頼回復に結びつけられるかが、アルゼンチンの将来を左右する局面です。

今後のアルゼンチン諸外国との関係は

ミレイ大統領は外交政策においても、大きく従来路線を転換しつつあります。中南米諸国や中国、ロシアとの距離を置き、アメリカやイスラエルとの関係強化に重点を置く方針を打ち出しました。IMFとの交渉においても、アメリカ政府との関係が融資決定の後押しになったとされています。

一方で、ブラジルや中国といった主要な貿易相手国との関係には緊張も見られます。特に中国については、ミレイ氏自身が「共産主義国家と価値観を共有しない」と発言しており、インフラ投資やリチウム開発の継続にも影を落としています。

とはいえ、経済再建には海外投資と輸出市場の安定が不可欠です。現実路線への転換も含め、今後の外交姿勢には柔軟さが求められる局面が続くでしょう。内政・外交ともに「脱旧体制」を掲げるミレイ政権は、国際社会との信頼構築というもう一つの難題にも直面しています。

まとめ

ハビエル・ミレイ大統領の登場は、長年経済低迷に苦しんできたアルゼンチンにおいて、過去の延長線上ではない「異端の改革」を実行する象徴となりました。財政緊縮、ドル化、規制撤廃という急進的な政策は、国際社会から一定の評価を受け、IMFからの大型融資という成果を得ています。

一方で、国民生活には大きな負担がのしかかっており、政治的な支持の維持が鍵となります。通貨発行に頼った財政運営の限界は、日本にとっても他人事ではありません。ミレイ政権の成否は、今後数年の経済運営と社会の受容力にかかっているといえるでしょう。

税理士.ch 編集部

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