インバウンド安全・安心対策推進事業の補助対象や注意点を解説
日本国内での「インバウンド」観光がますます活発になる中、観光客が安全で安心して旅行できる環境を整備することが求められています。この記事では、観光施設・観光地の整備の支援を目的としたインバウンド安全・安心対策推進事業で申請できる補助金について紹介します。
目次
インバウンド安全・安心対策推進事業の概要
インバウンド安全・安心対策推進事業とは、外国人旅行者が日本での滞在中、自然災害に遭遇して避難する場合や、訪日中に病気やケガで医療機関を受診する場合といった、訪日中の非常時の対応を強化するための国の補助金です。
安全・安心な訪日観光の環境を整備することにより、外国人旅行者の滞在時間を増加させ、インバウンドによる消費の拡大を図る目的があります。
訪日外国人旅行者の受け入れ体制を整えている地域や、インバウンドの誘致に意欲のある地域に所在する一定の観光施設、観光地の事業者や医療機関などが対象になります。
インバウンド安全・安心対策推進事業の公募スケジュール
インバウンド安全・安心対策推進事業はこれまで複数回にわたり、公募が行われています。
直近の公募スケジュールと、その際のおおまかな公募内容は以下のとおりです。(現在、公募はすべて終了しています)
予算(公募期間) | 補助対象経費 | 補助対象者 |
令和4年度補正 (令和5年2月9日 ~令和5年9月29日) | ・観光施設等における感染症対策機器等の整備 ・災害時の観光施設等における避難所機能の強化 ・災害時・急病時の観光施設等における多言語対応機能の強化 ・訪日外国人患者受入機能の強化 | ・観光案内所・観光施設等 ・観光地における店舗・事業所 ・病院・診療所等 |
令和5年度補正 (令和6年2月14日 ~令和6年9月27日) | ・災害時の観光施設等における避難所機能の強化 ・災害時の観光施設等における多言語対応機能の強化 ・医療機関の訪日外国人患者受入機能の強化 ・災害時等における観光危機管理の強化 | ・観光案内所・観光施設等 ・観光地における店舗・事業所 ・病院・診療所等 ・地方公共団体 |
令和6年度当初 (令和6年6月3日 ~令和6年9月27日) | 同上 | 同上 |
公募期間は長めに設定されていますが、いずれも予定よりも早く所定の予算額に達したことから、現在はすべての公募が終了しています。
今後の公募スケジュールは現時点では未定ですが、公募があれば早めに申し込むことが重要です。
インバウンド安全・安心対策推進事業の予算額
インバウンド安全・安心対策推進事業は、現在、観光庁の「地域における受入環境整備促進事業」という大きな補助事業の一つに組み入れられています。
同事業には、「インバウンド安全・安心対策推進事業」の他にも、オーバーツーリズムを防止する「持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備促進」や、バリアフリーなどの整備を支援する「宿泊施設の受け入れ環境整備」があります。
事業全体の令和6年度予算額は13億7,400万円で、これに令和5年度補正予算を加えて実施されています。
インバウンド安全・安心対策推進事業の補助対象
最新の令和6年度予算案に基づくインバウンド安全・安心対策推進事業の補助対象となる取り組みは、以下の4つです。
- 災害時の観光施設等における避難所機能の強化
- 災害時の観光施設等における多言語対応機能の強化
- 医療機関の訪日外国人患者受入機能の強化
- 災害時等における観光危機管理の強化
インバウンド安全・安心対策推進事業の公式ページには、事業イメージとして、下記のような画像が掲載されています。
画像の番号は、上記1~4の事業を表しています。
それでは、補助対象となる取り組み(上記1~4)を詳しく見ていきましょう。
1.災害時の観光施設等における避難所機能の強化
災害時に訪日外国人旅行者を受け入れる観光施設等における避難所機能の強化を推進するため、その環境整備のための経費を補助するものです。
【補助対象事業者】
- 観光案内所・観光施設等(※)
- 観光地における店舗・事業所(宿泊事業・交通事業についての整備は、本事業では対象外)
【補助対象経費】
避難所機能の強化のため、以下の整備等に要する経費
- トイレ
- 災害用トイレ
- 非常用電源装置
- 情報端末への電源供給機器
- 避難所機能に係る施設整備・改良
- 案内標識
- 案内表示
- その他附随する経費
【補助率】
補助対象経費の2分の1(※)観光案内所・観光施設等とは、外国人旅行者が例年訪れている以下のものとされています。
- 由緒があり建築的に優れている、文化財を所蔵・附帯している、または境内(庭園を含む。)が優れている神社、寺院、または教会
- 古代から近世に至る軍事や行政府等としての目的で建造された城跡、城郭、または宮殿
- 鑑賞や散策などのために造成された庭園または公園
- 動植物を飼育し展示している動植物園または水族館
- 歴史的資料、科学的資料、または美術作品を展示している博物館または美術館
- 特徴的な概念(テーマ)を表現し、体験するために作られたテーマ公園またはテーマ施設
- 「外国人観光案内所の設置・運営のあり方指針」に基づき、日本政府観光局により認定されている(認定の見込みがある)観光案内所
- 国土交通省により登録されている「道の駅」、「みなとオアシス」等
- 上記以外で訪日外国人旅行者の利用が見込まれる観光施設等
2.災害時の観光施設等における多言語対応強化
災害時の観光施設等における多言語対応強化を推進することで、訪日外国人旅行者が日本を安心して旅行できる環境を整備するため、これらの機能強化に資する整備に要する経費の一部を補助するものです。
【補助対象事業者】
- 観光案内所・観光施設等(※)
- 観光地における店舗・事業所(宿泊事業・交通事業についての整備は、本事業では対象外)
【補助対象経費】
多言語対応機能の強化のため、以下の1~4の整備等に要する経費
- 多言語案内機能の整備(デジタルサイネージ・多言語案内・翻訳用タブレット端末・多言語案内・翻訳システム機器・案内標識・掲示物・配布物・ホームページ・案内放送)
- 無料公衆無線LAN環境の整備
- スタッフ研修(多言語対応研修、視察研修、災害対応訓練研修に要する経費)
- その他附随する経費
【補助率】
補助対象経費の2分の1
(※)観光案内所・観光施設等とは
「1.災害時の観光施設等における避難所機能の強化」の範囲と同じ
3.訪日外国人患者受入機能の強化
訪日外国人患者受入機能強化を推進するため、これらの機能強化のための整備の経費を補助するものです。
【補助対象事業者】
病院・診療所等(※)
【補助対象経費】
訪日外国人患者受入機能の強化のため、以下の1~5の整備等に要する経費
- 多言語案内機能の整備(デジタルサイネージ・多言語案内・翻訳用タブレット端末・多言語案内・翻訳システム機器・案内標識・案内表示・掲示物・配布物・ホームページ・案内放送)
- 無料公衆無線LAN環境の整備
- キャッシュレス決済環境の整備
- スタッフ研修(訪日外国人患者受入対応研修、視察研修に要する経費)
- その他附随する経費
【補助率】
補助対象経費の2分の1
(※)病院・診療所等…「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」(観光庁・厚生労働省)に登録されているもの、または登録の見込みがあるものが対象になります。
4.災害時等における観光危機管理の強化
災害時等における観光危機管理の強化を推進するために、これらの機能強化のための整備の経費を補助するものです。
この取り組みについては、地方公共団体のみを対象としています。
【補助対象事業者】
地方公共団体
【補助対象経費】
災害時等における観光危機管理の強化のために要する以下の経費
- 観光危機管理計画の策定
- 観光危機管理計画に基づく訓練
など
【補助率】
補助対象経費の2分の1(上限500万円)
インバウンド安全・安心対策推進事業の注意点
立地要件がある
インバウンド安全・安心対策推進事業の補助対象者には、施設等の立地について要件があります。
補助対象者は、訪日外国人旅行者の受入れに関して一定の体制を整えている地域や、訪日外国人旅行者の誘致等や観光振興に意欲を有する地域の施設や事業所です。
つまり、どのような地域の事業者や医療機関でも補助を受けられるわけではありません。
また、令和6年度当初予算において優先的に採択するとされているものに、以下の3つが掲げられています。
- 「非常時における外国人旅行者の安全・安心の確保に向けた指針」に基づき観光危機管理計画を策定した地域の事業
- 「地域防災計画」等において訪日外国人旅行者の避難計画等を定めた地域の事業
- 日本政府観光局により、上位のカテゴリーに認定されているまたは認定の見込みがある観光案内所を補助対象とする事業
補助対象外となる費用がある
以下の費用は、補助対象経費の対象外となります。(上記1~4の取り組みにおいて共通)
- 土地の取得に要する経費
- 故障、老朽化等に対応するための、機能の明確な向上を伴わない修理修繕、代替更新のみに要する経費
- 継続して使用するために必要な消耗品、保険料、SIM カードや通信費等のランニングコストやレンタル・リース契約に関する経費
- 人件費等の事業実施後の設備維持、運営に関する費用
まとめ
インバウンド安全・安心対策推進事業について、概要や公募スケジュール、予算、補助対象者や補助対象経費などについて具体的に解説しました。インバウンド安全・安心対策推進事業は、顧問先への有益な情報提供の一環として重要です。
外国人旅行者の安心・安全を確保することで、観光業界の活性化にもつながります。インバウンド関連の補助金の活用をサポートすることで、顧問先の事業拡大や経営安定に貢献しましょう。
税理士.ch 編集部
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