森林環境税の活用を事例で紹介。地域色豊かな使い道

森林環境税の活用を事例で紹介 地域色豊かな使い道

森林の保全と整備を支えるために創設された「森林環境税」。

令和6年度から本格的な課税が始まり、各地の自治体ではその使い道に注目が集まっています。本記事では、実際の活用事例を紹介します。

目次

森林環境税とは

「森林環境税」とは、森林の地球温暖化防止機能、災害防止と国土保全機能、水源涵養機能を発揮させるための「森林整備およびその促進に関する費用」に充てるための国税です。

令和6年度から、国内に住所のある個人に対し、個人住民税の均等割と併せて課税が始まりました。

森林環境税・森林環境譲与税の仕組み

森林環境税は、令和元年に成立した「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」のもと、「森林環境譲与税」とセットで創設されました。

市町村により徴収された森林環境税の税収は、いったん国の「交付税及び譲与税配布特別会計」に計上され、そこから再び都道府県・市区町村に「森林環境譲与税」として一定の基準で交付され、譲与先の各自治体により使用される仕組みとなっています。

森林環境税が徴収されるまでの森林環境譲与税の財源とは

「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」の成立は平成31年度(令和元年度)であり、森林環境税の徴収が始まる前から、各自治体に「森林環境譲与税」の交付は行われていました。

つまり、森林環境税の徴収開始に先立ち、自治体への交付が始まっていたのですが、その財源は一体何だったのでしょうか。

令和元年度から令和5年度までの森林環境譲与税の財源は、当初は「地方交付税および譲与税配付金特別会計」における借入金を充て、後年度の森林環境税の税収から借入金の償還を行う計画でした。

しかし、令和2年度より、災害防止・国土保全機能強化等の観点から森林整備をより一層促進するために、地方公共団体金融機構の「公庫債権金利変動準備金」を活用すると説明されています。

森林環境税の使い道

森林環境税(森林環境譲与税)の使い道として、林野庁は、①間伐等の森林整備関係、②人材育成・確保関係、③木材利用・普及啓発関係の3つでその使途を分類しています。

このうち、もっとも活用額が多いのは「①間伐等の森林整備関係」ですが、令和3年度からは、③木材利用・普及啓発関係の活用額も伸びています。

森林環境税の使い道の問題点

森林環境税(森林環境譲与税)の問題点として、活用していない自治体が存在することが挙げられます。

令和元年度には、38%の自治体が森林環境譲与税を活用せず、全額を積み立てていたことが明らかになりました。

その一因と考えられるのが、森林環境譲与税の交付基準です。

森林環境譲与税は、各自治体の私有林人工林の面積、林業就業者数、そして人口に応じて按分されるため、人口の多い都市部にも配分されます。

令和2年度以降、森林環境譲与税を使っていない自治体の割合は減少しており、令和5年度には8%にまで縮小していますが、国民からの税徴収が始まった今、活用しない自治体は限りなくゼロに近づけることが望ましいといえます。

森林環境税の使い道の事例

林野庁では、全国の自治体における森林環境税(森林環境譲与税)の使途や取組事例を取りまとめています。

ここでは、令和4年度の「森林環境譲与税の取組事例集」から、森林環境譲与税を活用して行われた事例をいくつかご紹介します。

(参考)林野庁HP:森林環境税及び森林環境譲与税「森林環境譲与税の取組状況」より

森林整備関係の事例

・森林組合等の事業者への補助

青森県むつ市では、伐採時期を迎えた民有林に対し、造林未済地が増加していることから、「豊かな森づくり補助金」を創設し、国・県の森林整備事業に対する上乗せ補助を開始しました。人工造林や下刈り(Ⅰ齢級)の補助率を高く設定し、申請書類の簡略化も図ったことにより、事業の促進につなげています。

・災害防止対策への活用

石川県能美市では、令和4年8月の豪雨災害により、森林整備の実施予定区域に到達できず、施業の遅れが懸念される状況となっていました。
このため、同年度は施業予定地への林道の応急復旧工事を優先的に実施し、遅れを最小限にとどめる対応が取られました。

・野生動物対策への活用

山梨県韮崎市では、森林整備の遅れによる生活インフラへの影響や野生動物被害が懸念されていたことから、緊急輸送道路周辺の危険木の伐採や竹の除去を実施しました。
あわせて、農地利用の地域計画に基づき、地域住民と協議を重ねながら電気柵周辺の森林を伐採し、管理用道路を設けることで緩衝地帯を整備しています。
こうした取り組みにより、倒木などによる被害を未然に防ぐとともに、野生動物の出没を減少させました。

・森林経営管理制度に基づく活用

山形県山形市では、森林所有者の高齢化や不在村化によって放置される森林が増えていることから、森林経営管理制度による森林整備を推進しています。

具体的には、森林区域に優先順位をつけて調査を行い、委託意向のある人工林に集積計画を策定するなどして、手入れ不足の森林に対する管理を進めています。

その際、ドローンなどによるリモートセンシング技術を活用した森林境界の確認や、林野庁が開発した森林ゾーニング支援ツール「もりぞん」によるゾーニングなどを取り入れ、作業の負担軽減を図る工夫も行われています。

人材育成・確保関係の事例

・林業就業者や事業体への支援

愛媛県大洲市では、総面積の約7割を占める森林資源の循環を促進するために、自伐林家などによる機械導入費を支援する助成制度を創設しました。

具体的には、林業機械のリース・レンタルにかかる費用に対して最大5年間の補助申請が可能で、購入支援にも対応しています。また、森林整備の面積を補助条件に含めることで、未整備森林の減少にもつなげています。

・林業研修生への支援

高知県須崎市では、林業の担い手となる若手職員の確保と育成のために、「須崎市林業担い手育成支援事業費補助金」を創設しました。

この制度では、林業事業体が雇用する新規就業者に対し、林野庁の「緑の雇用事業」の補助対象外となる月における研修関係の経費を補助しています。

指導者と課題や目標を共有しながら指導を受けられるため、苦手な作業の克服や技術向上につながっています。

マルチワーカーの育成支援

鳥取県の智頭町では、町の9割以上を占める森林の活用が課題である一方、雨期や積雪期などの閑散期には人手が余るため、事業者が採用を控える傾向にありました。

こうした状況の中で林業の担い手不足を解消するために、同町では「林業マルチワーカー」の育成支援を開始しました。季節ごとの労働需要に対応できるマルチワーカーに対し、人材派遣経費や住居手当、通勤手当、物品購入費、資格取得費を補助するほか、林業への就業志願者を対象とした育成研修の開催費用などを支援する制度です。

初年度から5名の担い手の確保につながり、マルチワーカーとして、林業のほか、観光・飲食・製造業などでも活躍しています。

木材利用・普及啓発関係の事例

・施設の木造・木質化

神奈川県小田原市では、地域産木材の利用拡大とともに、教育環境の改善や地域との連携を図るため、市立小学校の内装の木質化を実施しました。
具体的には、スギ・ヒノキの間伐材を活用し、腰壁や天井、什器などを木質化したほか、児童に木質化の意義を伝える授業や、端材を使ったワークショップを行い、森林や木材産業への関心を高めています。

また、普段チップ等に加工されるC材(低質材)も積極的に活用することで、川上への利益の還元にも貢献しています。

・木製品の配布

長野県の佐久穂町では、町の「木育事業」の一環として、町内で出生した子どもへの祝品に地元産の木でつくられたおもちゃを贈る取り組みを行っています。

認定NPO法人と連携して「ウッドスタート宣言」を行い、町内の学校林で伐採されたカラマツやシラカバを使い、地元の木工業者が製作したものなどを活用しています。

贈呈を受けた家族からは好評で、家族で木とふれあう機会の創出に貢献しています。

バイオマス発電への活用

京都府舞鶴市では、曲がりなどで製材に適さない原木が山に残され、豪雨時に下流域へ流出するリスクが課題でした。

そこで、木質バイオマス発電所の稼働にあわせて、C材・D材を燃料として活用するため、森林所有者や林業事業体を対象に、土場から発電所までの搬出費用を補助する制度を創設しました。

山に残されていた木材をバイオマス燃料として有効活用しながら、災害時の流出リスクの低減にもつながる、一石二鳥の取り組みです。

自治体同士での連携事例も

森林環境譲与税の導入を受けて、都市と山村が連携した取り組みが各地で拡大しています。

たとえば、東京都荒川区では、ゼロカーボンシティ実現に向けた取り組みとして、友好都市である福島市と「森林整備の実施に関する協定」を締結し、福島市の市有林の一部を「あらかわの森」と名付けて共同整備を開始しました。

令和4年には、区内の小学生と保護者を対象に『親子でつくる「あらかわの森」植樹ツアー』を実施し、植樹や丸太切り体験、自然林の散策などを通じて、自然とのふれあいや交流を促進しました。

まとめ

森林環境税は、森林の多面的な機能を守るための財源として創設され、各地で森林整備や人材育成、木材利用促進など幅広い活用が進んでいます。

導入当初は活用が進まない自治体もありましたが、近年は自治体同士が連携するなどし、都市部も含めて積極的な取り組みが見られるようになりました。

国民からの税徴収が本格化した今、持続可能な森林経営の実現に向けた取り組みをさらに広げていくことが期待されます。

税理士.ch 編集部

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