高市政権の打ち出す物価高対策とは?家計向け支援を深掘り

高市政権の打ち出す物価高対策とは?家計向け支援を深掘り

2025年11月、日本政府は高市早苗首相のもと、総額21.3兆円に及ぶ総合経済対策を閣議決定しました。

物価高に直面する国民からすれば、「また大型の経済対策か」というため息と、「今度こそ助かるのか」という期待がないまぜになった複雑な感情が湧いてきます。税務・会計に携わる者として会社や顧問先の事業や自分の家計を見ていると、机上の数字と現場の実感のギャップも、日々目にしておられることでしょう。

しかも、記憶を少し巻き戻せば、2022年にも岸田政権が財政支出39兆円・事業規模約72兆円という超大型の経済対策を打ち出しています。それから3年あまり経っても、「景気がすっかり良くなった」という実感を持てない納税者が多数派なのではないでしょうか。

この記事では、高市政権が打ち出した総合経済対策のうち、第一の柱である家計向け物価高対策を整理しつつ、2022年の大型対策との比較、そして今回の政策に対する懸念点を、税務、会計に携わる者の視点から考えてみます。

目次

高市首相の発表した経済対策の全体像

今回のパッケージは、総額21.3兆円にも及びます。内訳としては、

  • 一般会計からの追加歳出:約17.7兆円
  • 減税(所得税など):約2.7兆円

とされており、コロナ禍後では最大規模の景気対策です。

今回2025年11月21日に行われた記者会見で、高市首相は政策の柱を大きく三つ提示しました。

  • 第一の柱:物価高への対応と生活支援
  • 第二の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現
  • 第三の柱:防衛力と外交力の強化

高市政権が示すのは、「暮らしを守りつつ、強い経済と安全保障も同時に進める」という看板メッセージです。

そのうち本稿のテーマである「第一の柱 物価高対策(家計向け支援)」の主なメニューを、以下で整理します。

第一の柱 物価高対策①(家計向け支援)

それでは、家計向け支援の中身である5項目についてひとつずつ見ていきましょう。

ガソリン暫定税率の廃止(1.0兆円規模)

まず目を引くのが、ガソリン税の暫定税率の廃止です。

長年「暫定」と言いながら恒常化してきた税負担を、本格的に取り除く方向へかじを切ろうというわけです。これによってガソリン価格を押し下げ、物流コストや通勤・営業などのガソリン代負担を軽減すると政府は説明しており、とりわけ郊外・地方で車が生活必需品となっている世帯にとっては、じわりと効いてくるであろう施策です。

電気・ガス代支援(0.5兆円規模)

次に、冬場の負担が重い電気・ガス料金への補助です。一定期間、1か月あたりの電気・ガス代を定額で軽減するといいます。対象は全国の家庭・中小企業、という形で、昨今のエネルギー高に対する“延長戦”のような支援が続きます。

支援額は2022〜23年の補助に比べればやや抑えめですが、物価高が長期化するなかで「冬場だけでも助かる」という声は一定程度ありそうです。

所得税・年収の壁見直し(1.2兆円)

いわゆる「年収の壁」問題にも手が入りました。基礎控除や所得税減税の見直し、給付付き税額控除の導入検討などを通じて、パート・アルバイトや共働き世帯の「これ以上働くと手取りが減る」という逆転現象を緩和しようという狙いです。

税理士の立場から見ると、年末調整・確定申告での控除計算、扶養の判定、給付付き税額控除が入った場合の還付・給付の取扱いなど、実務面の論点が増えるでしょう。

重点支援地方交付金の拡充(2.0兆円)

地方交付金の重点枠の拡大も、家計支援の重要なパーツになっています。おこめ券や地域商品券の配布、水道料金など公共料金の軽減、学校給食費の無償化・補助など、自治体ごとにメニューを選べる仕組みで、地域の実情に合わせたきめ細かい支援を可能にする設計です。

都市部と地方、子育て世帯と高齢世帯など、事情の異なる地域があります。全国一律の制度だと「我々の地域は事情が違う」との声が出てきがちですが、それならば各自治体でそれぞれの地域に合った工夫をしなさい、というメッセージでもあります。

物価高対応 子育て応援手当(0.4兆円)

そして、子育て世帯向けの一時金です。子ども1人あたり2万円、所得制限なし・全国一律0歳〜高校生世代までを広くカバーするという構想が示されています。

2022年にも類似の給付がありましたが、今回は物価高長期化への対応として「全国一律・一回限り」で支給するイメージです。子どもが多い家庭ほど恩恵は大きく、食費・光熱費・学用品など、値上がりの直撃を受けている子育て世帯の“ワンポイント救済”という位置づけといえるでしょう。

2022年・岸田政権との比較

ここで一度、2022年の岸田政権による第2次補正予算ベースの総合経済対策を振り返っておきます。当時この経済政策は、

  • 事業規模:約72兆円
  • 財政支出:約39兆円

という、今回をはるかに上回る規模でした。

中身をざっくり言えば、電気・ガス代の大幅補助(標準家庭で数万円規模の軽減)、ガソリン・灯油価格の抑制、低所得者向けの現金給付、事業者支援・雇用調整助成金の延長といった「価格そのものを抑えこむ」「家計コストを直接補填する」色合いが非常に強いものでした。

一方、今回の高市政権のパッケージは、ガソリン税の暫定税率廃止、冬場限定の電気・ガス補助、子ども1人2万円の給付、地方交付金による“地域ごとの工夫”、所得税・控除の見直しなど、価格抑制+可処分所得の底上げ+自治体裁量を組み合わせる設計になっています。

数字だけ見ると「過去の方がデカかった」のですが、今回は税制・所得構造への介入、地方自治体の裁量拡大、防衛・経済安全保障・成長産業への投資と抱き合わせという点で、同じ“大型対策”でもだいぶ性格が異なります。

今回の政策への懸念

とはいえ、「これで本当に家計は楽になるのか?」という疑問も残ります。ここでは、いくつかの懸念点を整理してみます。

21.3兆円のうち、家計に“まともに届く”部分はどれくらいか

報道によれば、21.3兆円のうち、物価高抑制・消費下支え:11.7兆円、成長投資・経済安全保障:7.2兆円という大枠の配分になっています。

金融機関のレポートなどでは、ガソリン税廃止や光熱費補助、子ども1人2万円給付などの「インフレ抑制策」が、この11.7兆円の中核である一方で、約1.7兆円が防衛費の上積みに回り、対GDP比2%の防衛支出目標の前倒し達成を後押しするとされています。

つまり、パッケージ全体は「家計支援」「成長投資」「防衛・経済安保」の抱き合わせであり、見出しに出てくる“21.3兆円の家計支援”というイメージとはズレがあるのが実情です。

となると、実際に家計の財布を直接温めるのは、

  • ガソリン税減税
  • 電気・ガス料金の軽減
  • 子ども1人2万円の給付
  • 一部の減税・給付付き税額控除
  • 自治体経由のクーポン・公共料金補助

などに限られ、数字の見かけほど現金がどんどん降ってくる状況ではありません。

防衛費の前倒し拡大との対比

高市政権は、前政権から引き継いだ防衛力強化の方針を一段と進め、防衛関連支出をGDP比2%まで前倒しで拡大、中長期的には、防衛関連経費全体を年11兆円規模に乗せるシナリオを描いていると報じられています。

安全保障環境の厳しさを踏まえれば、一定の防衛力強化は必要でしょう。とはいえ、納税者の視点から見ると、「防衛費は中期的に毎年11兆円規模まで膨らむ」のに対して、

「家計支援は21.3兆円のうち、価格抑制・給付・減税に回るのは11.7兆円、その中で直接の家計支援はさらに一部」

という構図です。

「国の安全保障」と「家計の安全保障」、どちらをどれだけ優先するのでしょうか。数字を並べれば並べるほど、違和感を覚える読者も多いはずです。

2022年の“超大型対策”の割に景気が良くなっていない

そして何よりの懸念は、2022年の大型対策の成果です。

  • 71.6兆円規模
  • 財政支出39兆円

という歴史的な規模の対策が行われたにもかかわらず、日本経済はその後も実質賃金の目立った伸びは乏しく、個人消費も力強さを欠き、物価高だけがじわじわ続くという、なんとも釈然としない状態が続いています。

「これだけお金を使ってこの程度なら、また同じような対策をしても効果は限定的なのではないか」と疑うのは、納税者としてごく自然な感覚でしょう。

税理士・会計士の観点から押さえておきたいポイント

懸念は懸念として、実務家としては「制度がこう動く以上、顧問先にどう助言するか」が仕事になります。主なポイントを簡単に整理すると、次の通りです。

年収の壁・所得税見直しへの対応

基礎控除や給付付き税額控除の導入状況を踏まえ、パート・アルバイト、共働き世帯の「働き方」と「手取り」のバランスを一緒に設計してあげる必要が出てきます。

自治体ごとの支援メニューの把握

おこめ券、公共料金補助、給食費無償化など、地方交付金の使い道は自治体次第です。顧問先の所在地ごとに「何が使えるのか」を整理しておくと、付加価値の高いアドバイスになります。

給付金・減税の税務・社会保険上の取り扱い

子育て応援手当などの給付が課税対象かどうか、社会保険・扶養判定との関係など、制度設計の細部により取扱いが変わる可能性があります。情報が固まり次第、社内で早めに整理しておきたいところです。

“補助前提”ではない家計・事業計画の見直し

2022〜23年のような厚い光熱費補助は縮小方向です。エネルギーコストや物価上昇を前提に、「補助がなくても回る」家計・事業計画を顧問先と一緒に描く必要が出てきます。

まとめ

高市政権の総合経済対策は、数字の上では21.3兆円という大盤振る舞いです。しかし、

その中で物価高抑制・家計支援に回るのは11.7兆円、成長投資や経済安全保障に7.2兆円、
さらに、防衛費は中期的にGDP比2%、年11兆円規模へ前倒しで膨らんでいく

という構図を見ると、「家計支援」と銘打ちながら、実際には「防衛・成長投資と抱き合わせのパッケージ」であることが浮かび上がります。

2022年にも超大型の経済対策が打たれ、それでも景気のもたつきと物価高は解消されませんでした。今回の21.3兆円がどこまで実効性を持つのか、過度な期待は禁物でしょう。

税務・会計に携わる者としては、「国がこれだけやるから大丈夫」という楽観ではなく「制度の変化を冷静に読み込み、顧問先の家計・事業にどう影響するかを一緒に考える」というスタンスが問われます。

政策そのものの是非は人それぞれですが、どんな政策であっても、最後に帳尻を合わせるのは「税」と「家計」です。今回の経済対策も、その例外ではありません。

e-JINZAI 資料イメージ オンライン研修・eラーニング

e-JINZAIで
社員スキルUP!

税理士.ch 編集部

税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から 最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。

運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/

「登録する」をクリックすると、認証用メールが送信されます。メール内のリンクにアクセスし、登録が正式に完了します。

売上アップの秘訣や事務所経営に役立つ情報が満載
税理士.chの最新記事をメールでお知らせ