【払い戻し1億円】競馬で大当たりした場合、税金ってどうなるの?
多くの視聴者を惹きつけたドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』。競馬という華やかな舞台の裏で、お金や名誉、人生の岐路が交錯する人間模様が描かれ、その展開を見るたびに、「もし自分があのレースで的中させたら…」「人生が一変するような大当たりがあったら…」と、誰もが一度は夢を抱きたくなるのではないでしょうか。
しかし、現実の世界では「大当たり」の翌日から、税の問題が静かにその影を落とします。高額な払戻金を手にした瞬間から、所得税、住民税、社会保険、扶養の扱い、将来の負担。夢のような勝利と並んで、想定外の重みがのしかかる可能性があります。
税務や会計に携わる者として他人に助言をする立場であれば、「当たり馬券をどう使おうか」の前に、「税後の手取りはいくらか」「次の年度の家計にどんな影響が出るか」を見据えた説明が求められます。
本稿では、競馬で大当たりした場合の税務上および社会保障上の注意点を、「一時所得の基本」から、「住民税の試算」「社会保険の扶養判定」「申告漏れのリスク」「宝くじとの違い」まで、具体例を交えて整理します。
目次
- 競馬の払戻金は“たまたまの利益”としての一時所得
- 例外判例 ― 外れ馬券を含む経費認定の可能性
- 住民税の負担 ― 翌年への影響を見据えた試算
- 社会保険の扶養認定 ― 一時所得だけで扶養から外れるか
- 申告漏れのリスク ― 高額当選は税務署のマーク対象
- 宝くじとの違いを明確に ― なぜ競馬は課税され、宝くじはされないのか
- まとめ
競馬の払戻金は“たまたまの利益”としての一時所得

まず押さえるべき基本は、一般的な馬券購入においては、払戻金は所得税法上「一時所得」として扱われるという点です。一時所得とは、継続性のない、一時的・偶発的な利益を意味し、給与所得や事業所得など定期的・継続的な所得とは区別されます。
この一時所得の類型は、たとえば以下のような所得が該当します:
- 懸賞やキャンペーンの賞金・賞品
- 生命保険の満期返戻金や解約返戻金(条件付き)
- ゴルフ会員権などの退会精算金
- 一時的な臨時収入や偶発的な利益
競馬の払戻金も、馬券をたまたま的中させたことで得られる“臨時収入”として、一時所得の枠に収まるのが基本です。
一時所得としての課税計算
一時所得となった場合、課税対象となる所得金額は次のように計算されます:
課税対象額 = (払戻金 − 当たり馬券の購入費用 − 特別控除 50万円) ÷ 2
この計算で重要なのは、必要経費として差し引けるのが あくまで「当たり馬券に対応する購入費用」のみ という点です。外れ馬券全般や、別レースの馬券、遊びで買った馬券などをひとまとめにして経費に計上するのは、原則認められていません。この点を誤解すると、課税対象額を過小評価してしまう恐れがあります。
以下、仮に馬券代をゼロとした簡易モデルで、払戻金ごとの課税イメージを示します。
【10万円当たった場合】
10万円 − 0円 − 50万円 = マイナス40万円
→ 課税対象額は 0円(マイナスは切り捨て)
このように、年間の一時所得の合計が50万円以下であれば、課税されないという仕組みです。少額の当たりであれば、税金の心配はあまり必要ありません。
【1000万円当たった場合】
1000万円 − 0円 − 50万円 = 950万円
→ 950万円 ÷ 2 = 475万円
この475万円が、その年の他の所得と合算されて課税される一時所得になります。給与所得が400万円程度の方であれば、一時所得が加わることで一気に上位の税率帯に達し、所得税・住民税ともにかなりの金額が上乗せされるイメージです。
【1億円当たった場合】
1億円 − 0円 − 50万円 = 9950万円
→ 9950万円 ÷ 2 =4975万円
この場合、約5000万円の一時所得が発生する計算です。ほかに所得がなくても、高い税率が適用されますし、後述する住民税や社会保険料への影響も無視できない水準になります。「1億円当たったのに、税金でかなり持っていかれた」という話は、決して大げさな都市伝説ではありません。
このように馬券代が多少あったとしても、高額当選では課税対象が大きくなる可能性が高いため、注意が必要です。
例外判例 ― 外れ馬券を含む経費認定の可能性
ただし、この一時所得扱いが絶対ではありません。実際に、ある納税者の事案において、外れ馬券の購入費用を含む全購入費を必要経費として認めた判例があります。この判例では以下のような事情が認められました。
- 自動購入ソフトを利用し、インターネット経由で多数回・継続的に馬券を購入
- 統計分析や情報収集を駆使し、ある種“投資”として馬券を扱っていた
- 購入履歴や資金管理がきちんと記録され、営利目的かつ継続的な収入を得る活動と認定された
この結果、払戻金は「雑所得」に区分され、当たり・外れ馬券を含む購入費用が必要経費として認められました。この判例は、競馬収入の税務処理において大きな波紋を呼びました。
しかし、このような扱いが認められるのは 非常に限定的な“事業性のある購入形態” に限られます。たまの娯楽目的や趣味的購入では、まず該当しません。顧客に説明する際には、その限定性をきちんと伝える必要があります。
住民税の負担 ― 翌年への影響を見据えた試算
所得税だけでなく、翌年に課される住民税の増加にも注意が必要です。多くの自治体では、住民税の所得割が 約10% で計算されるため、高額の一時所得があると税負担が大幅に増えるおそれがあります。
たとえば、前項のモデルで 課税対象所得 475万円 があった場合、住民税の所得割だけで
475万円 × 10% ≒ 約 47.5万円
の負担が生じる計算になります。これに加えて、多くの自治体で均等割や医療分担金などが課されるため、実質負担はさらに増える可能性があります。
もし当該年の給与所得などが少なく、ほとんど住民税がかかっていなかったような納税者であれば、翌年の住民税通知を見て大きな負担に驚くことも想定されます。税務・会計に携わる者として他人に助言する際には、「翌年の住民税も考慮してください」と必ず伝えるべきです。
社会保険の扶養認定 ― 一時所得だけで扶養から外れるか
高額な一時所得が発生した場合、社会保険の扶養の扱いも影響を受ける可能性があります。多くの健康保険組合で、被扶養者となるための収入基準として 年間収入 130万円未満(60歳未満の場合)というラインが設けられています。
つまり、配偶者や子どもを扶養に入れている世帯で、仮にその扶養家族に競馬で高額当選があって年間収入がこの基準を超えた場合、「扶養から外れる」判断が下される可能性があります。
ただし、以下のような事情により、一時所得だけで即扶養除外とはならない場合もあります。
- 当選が一時的・突発的であり、継続収入ではないと保険組合が判断
- 翌年以降の収入が安定するかどうか見通しが不透明なため、一時的な扶養継続を認める制度を持つ組合もある
- 年収見込み判定のタイミングや、扶養認定の内部規定が組合ごとに異なる
したがって、「扶養除外の可能性あり」と伝えるのは必要ですが、「確定的に除外される」と断言するのは避け、あくまで “条件付きの可能性” があることに注意しましょう。
もし競馬で大当たりした人がいたら、「一時所得による収入増があった年は、健康保険組合に状況を報告し、扶養判定を確認するように」と助言するのが安全でしょう。
申告漏れのリスク ― 高額当選は税務署のマーク対象
競馬の払戻金は、一般に支払調書の発行がなく、銀行振込記録や払戻証票も自動的に税務署に送られるわけではありません。そのため、「黙っていれば分からないかもしれない」と考える方が一定数いるのも事実です。
しかし、実際には以下のようなきっかけで税務署から目を付けられることがあります:
- 銀行口座の残高が急増
- 高額な買い物(不動産、車、宝飾品など)や贅沢な生活への変化
- SNSでの「当たりました報告」や写真の公開
- 年間収入の変動と住民税申告状況の整合性チェック
これらの要素がそろうと、たとえ本人が申告していなくても照会され、追徴課税や無申告加算税、延滞税の対象となる可能性があります。特に高額当選した年は、申告を怠ることが重大なリスクになり得ます。
税務・会計に携わる者としては、顧客に対して「当たったからといって安心せず、まずは申告の準備を整えておきましょう」と助言することが重要です。また、年末調整や確定申告の打ち合わせ時に、「公営競技や懸賞で臨時収入はなかったか」を確認する習慣を持つと、予期せぬ申告漏れを未然に防ぐことにつながります。
宝くじとの違いを明確に ― なぜ競馬は課税され、宝くじはされないのか

競馬の払戻金とよく比較されるのが、宝くじやロトなどの当選金ですが、税法上の扱いは大きく異なります。
宝くじの当選金は、一般に 非課税所得 とされています。これは、宝くじの収益がすでに公共サービスや公益事業の財源に組み込まれており、購入金額に税が含まれているという制度的背景によるものです。
言い換えれば、宝くじは「買ったときに間接的に税金を支払っている」とみなされ、当選金を得たときに改めて課税されない構造です。そのため、数千万円、数億円と当選しても、所得税や住民税の申告義務はありません。
一方で、競馬の払戻金は「偶発的に得た利益」であり、税法上は他の所得と同列に扱われます。そのため、当選金に対して課税され、納税義務が生じるのです。
まとめ
このように、競馬で当たった賞金にもきちんと税金がかかりますが、その計算方法については多くの人がご存じないでしょう。
また、翌年の住民税が突然増えるリスクや、被扶養者は社会保険の扶養から外れてしまうリスクもあることもおそらく考えにないでしょう。大当たりして喜び浮かれている人に、そのようなことをまじめに考えろという方が無理というものです。
税務や会計に携わる者としては、きちんと申告することを勧めるのはもちろんのこと、申告しなかった場合、無申告加算税や重加算税、延滞税のリスクがあることをアドバイスしましょう。
また、申告しなくてもばれないだろうと考える人には、生活水準の変化や銀行口座の残高が急変するなどの変化は、税務署から目を付けられることも付け加えてください。
ドラマのように一発逆転。それは夢ですが、税の現実は必ずついてきます。税務・会計に携わる者としては、顧客の“幸せな夢”が“重たい税務の現実”にならないよう、冷静かつ丁寧に助言を届けたいものです。
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