「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」のメリットと注意点を解説
企業版ふるさと納税は法人関係税の税額控除を受けられる制度として注目されています。返礼品や経済的な見返りはありませんが、寄附企業が公表されるため、社会貢献活動のPRにもなります。また、人材派遣型の場合は自社のノウハウを自治体に提供できるうえに、自社の社員の人材育成にも役立ちます。
最近では、企業版ふるさと納税を利用したサテライトオフィスの整備が注目されています。
目次
- 企業版ふるさと納税とは
- 企業版ふるさと納税の寄附先
- 自治体への寄附との違い
- 企業版ふるさと納税(人材派遣型)とは
- 企業版ふるさと納税による企業のメリット
- 企業版ふるさと納税の代償(見返り)として禁止されていることとは
- 企業版ふるさと納税を活用したサテライトオフィスの整備
- まとめ
企業版ふるさと納税とは
個人が行うふるさと納税は、自分の故郷や応援したい自治体に寄附することで、寄附金額分の所得税及び住民税の控除を受けられる上に、実質自己負担額2,000円のみで、寄附した地域の名産品などの返礼品がもらえる制度です。
所得税及び住民税の控除よりも、返礼品がもらえる制度として注目されています。
これと同じ仕組みで、企業もふるさと納税を行うことができ、法人税等の控除を受けられますが、返礼品はない点が個人のふるさと納税との大きな違いです。
正式名称は、地方創生応援税制と言い、自治体の実施する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業(地域創生事業)」に寄附をすると、法人関係税等が控除されます。1回あたり10万円以上の寄附が対象となります。
企業版ふるさと納税の寄附先
企業版ふるさと納税の寄附先は、国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトです。寄附を募集している自治体は、企業版ふるさと納税ポータルサイトで確認することができます。
なお、次の自治体への寄附は、企業版ふるさと納税制度の対象外になるので注意が必要です。
- 本社が所在する地方公共団体(都道府県と市区町村)への寄附
- 地方交付税の不交付団体である都道府県
- 地方交付税の不交付団体であって、その全域が地方拠点強化税制における地方活力向上地域以外の地域に存する市区町村
自治体への寄附との違い
企業は、企業版ふるさと納税制度を利用しなくても自治体に寄附を行うことができ、寄附額の約3割相当の法人関係税の税負担を軽減することができます。
企業版ふるさと納税制度を利用すると、損金算入による約3割の控除の他に、最大6割の法人関係税の税額控除を受けられます。
6割の控除の内容は次のとおりです。
- 法人住民税……寄附額の4割を税額控除。(法人住民税法人税割額の20%が上限)また、法人住民税で4割に達しない場合はその残額について法人税で税額控除。ただし、寄附額の1割を限度。(法人税額の5%が上限)
- 法人事業税……寄附額の2割を税額控除。(法人事業税額の20%が上限)
例えば、企業が1,000万円の寄付を行った場合は、最大で約900万円の法人関係税の税負担を軽減することができます。
企業版ふるさと納税(人材派遣型)とは
令和2年10月からは、企業版ふるさと納税の仕組みを利用して、自治体に人材を派遣できるようになりました。自治体が行おうとしている地域創生事業のために企業が人材を派遣する制度で、企業としては、資金だけでなく、自社が有する専門知識やノウハウを提供する形で貢献することになります。
自治体は寄附を受けた資金で、プロジェクトを進めると共に、企業が派遣する人材の人件費に充てることもできます。
企業版ふるさと納税による企業のメリット
企業版ふるさと納税制度を利用することは、法人関係税の税負担を軽減すること以外にも様々なメリットがあります。
社会貢献活動のPRになる
企業版ふるさと納税制度で寄附を行っても、代償として経済的な利益を受け取ることはできません。ただ、自治体が企業版ふるさと納税制度による寄附を行った企業を公表することは認められているため、企業としては、社会貢献活動のPRになります。
SDGs や ESG への寄与
環境保全や脱炭素などの目標達成は、企業単独では難しいものです。そこで、地域創生事業として環境保全や脱炭素などの取り組みを行っている自治体に寄附することにより、目標達成に近づくことができます。
地方自治体との新たなパートナーシップを構築できる
寄附をきっかけに自治体と定期的なミーティングやコミュニケーションを密に行えるようになり、自社の事業にプラスになることがあります。
人材派遣により社員に経験を積ませることができる
人材派遣型の場合は、自社の社員に行政の現場での経験を積ませることができることから、新たな人材育成方法の一つとして注目されています。
企業版ふるさと納税の代償(見返り)として禁止されていることとは
企業版ふるさと納税では、個人版と異なり返礼品や経済的な見返りは禁止されています。
経済的な見返りの例としては、
- 補助金を交付すること
- 低い金利で貸付けを行うこと
- 商品券やプリペイドカードなど換金性が高い商品を提供すること
- 寄附を行うことを公共事業の入札参加要件とすること
等が挙げられます。
なお、寄附を行った地方公共団体から、公共工事などを受注することは、公平・公正な手続きを経たものであれば問題ないとされています。
企業版ふるさと納税を活用したサテライトオフィスの整備
企業版ふるさと納税を活用した取り組みとしてサテライトオフィスの整備が注目されています。地方自治体としては、サテライトオフィスを設置することで企業誘致の呼び水とする事ができます。
企業としても、その自治体内への進出時や近隣に住む自社の社員の活動拠点として、サテライトオフィスがあると便利です。また、政府でも内閣府や総務省が中心となって、地方でのサテライトオフィスの開設やテレワーク、ワーケーションといった新たな働き方を促進しており、機運が高まっています。
なお、自社が寄附した資金により整備されたサテライトオフィスを自社が利用することは、利用条件で他の企業の利用が排除されたり、不合理な区別が設けられているのでない限り、経済的な見返りには該当しないものとされています。
まとめ
企業版ふるさと納税を利用することは、法人関係税の節税になる上に、社会貢献活動のPRになります。寄附をきっかけに自治体との新たな関係を築くこともできます。
また、寄附した自治体の地域創生事業のために自社の人材を派遣することでノウハウを提供するとともに人材育成の機会として活用することもできます。さらに、サテライトオフィスの整備に活用してもらうことで、自社の進出の足掛かりとすることもできます。
会計・税理士事務所としては、顧問先から企業版ふるさと納税の利用について相談を受けた際は、このように活用次第では、節税以外にも様々なメリットを享受できる制度である旨を紹介しましょう。
税理士.ch 編集部
税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から
最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。
運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/