令和6年度の新しい雇用調整助成金制度の概要とは?変更点も含めて紹介

コロナ禍において、雇用調整助成金はある種の休業補償制度として大いに機能しました。コロナ禍が収まった現在では、従業員のリスキリングを支える制度として新たに制度が変更されました。

本記事では、令和6年度の新しい雇用調整助成金の概要を紹介しています。担当の事業所が該当するか確認したい方は、ぜひ記事内容をご確認ください。

目次

新しい雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業の縮小を迫られた事業主に対して、雇用の維持を図るために、休業、教育訓練、出向にかかった費用を助成する制度です。

厚労省はコロナ禍の中で、雇用調整助成金コロナ特例制度を設けて、休業を実施する事業主へ休業手当などを助成することで一気に広がりました。

コロナ禍収束以降の雇用調整助成金は、在職者のリスキリング強化をサポートするための制度として存続しています。2024年4月の改定では、教育訓練のための助成金として大きくシフトしました。

2024年4月以降の雇用調整助成金の助成率

これまでの助成率は次のとおりです。

事業規模助成率
中小企業2/3
大企業1/2

大企業、中小企業それぞれに教育訓練加算として1日あたり1,200円がプラスされています。
2024年4月以降の助成率と教育訓練加算は次のように改定されました。

教育訓練実施率1/10未満の事業所

事業規模助成率
中小規模1/2
大規模1/4

※教育訓練加算金は1日あたり1,200円

教育訓練実施率1/10以上1/5未満

事業規模助成率
中小規模2/3
大規模1/2

※教育訓練加算金は1日あたり1,200円

教育訓練実施率1/5以上

事業規模助成率
中小規模2/3
大規模1/2

※教育訓練加算金は1日あたり1,800円

令和6年3月末までの助成率は、中小企業で3分の2、大企業では2分の1でした。令和6年4月からは、累計支給日数に達した期間で教育訓練の実施率が10分の1未満の場合、中小企業の助成率は2分の1に、大企業は4分の1に下げられています。

教育訓練実施率が高いほど助成率と教育訓練加算金が多い改定は、在職者のリスキリングへ制度の方針がシフトしていることを表しています。

雇用調整助成金の支給要件

雇用関係助成金共通の要件と雇用調整助成金独自の要件の2つについて、支給要件の全容を説明します。

雇用関係助成金制度に共通する要件

雇用調整助成金は、厚生労働省が主導する雇用に関する助成金制度です。
前提として次の共通要件が定められています。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 審査に必要な書類を整備・保管している事業主であること
  • 審査に必要な書類の提出や実地調査に協力する事業主であること

雇用調整助成金の支給要件

厚生労働省より公開されている雇用調整助成金の支給要件を次にまとめました。

  • 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
  • 雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと。
  • 実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
  1. 休業の場合…労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること。
  2. 教育訓練の場合…休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること。
  3. 出向の場合…対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること。
  • 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えていること。

支給対象となる教育訓練

新しい雇用調整助成金の制度では、支給対象となる教育訓練の内容も整理されています。対象となる制度は「職業に関する知識、技能又は技術の習得又は向上を目的」とする教育訓練です。

具体的には事業所内に外部講師を招いて行うビジネススキル研修や、教育訓練期間等が行う訓練やセミナーです。再就職の準備を目的とするものや、ビデオ視聴など、教育訓練の実施状況が確認できないものは除外されます。

具体的な例を交えた対象教育訓練を2パターン紹介します。

事業所内で実施する教育訓練

製造業を例にとった教育訓練の内容は次のとおりです。

  • 事業所内で経験を持つ者が講師となる
  • 休業の対象かつ生産活動を停止している工場のラインを使った講習
  • 教育訓練の成果物を販売して利益を得るものでないこと

通常の事業活動を切り分けられていることが条件です。他に、事業所内に外部講師を招いて講習を実施する場合も対象となりえます。具体的には、業務改善のノウハウ、マネジメント研修、ビジネススキル研修などです。

事業所の外で実施される教育訓練

官公庁や商工会議所などが実施する講習が主な対象です。講習が実施されることが一つのポイントとなっており、講習がない意見交換会などのイベントは除外されます。

業務で必要になる免許や資格などの取得や更新のための講習・訓練など、教育訓練期間などが行う訓練やセミナーなども対象です。

支給対象外となる教育訓練

対象外の教育訓練は13の項目にて公開されています。間違えて申請しないように、事前によく確認しておきましょう。

判断に迷う時は、ハローワークや労働局へ確認しておけば安心です。

  1. 職業に関する知識、技能又は技術の習得又は向上を目的としていないもの
  2. 職業又は職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの(法令の遵守のために必要な知識の習得を目的とするものは除く)
  3. 実施目的が訓練に直接関連しない内容のもの(イベント、懇親会 等)
  4. 通常の生産・事業活動と区別がつかないもの(自社の商品知識研修、QCサークル等)
  5. 教育訓練の実施状況が確認できないもの(自習やビデオ等の視聴 等)
  6. 新たに雇い入れた者に実施されるもの(新規採用者を対象とする入社時研修 等)
  7. 法令で講習の受講が義務づけられているもの(労働者が資格の取得・更新するための法定講習等である場合を除く)
  8. 教育訓練実施時間中に業務が行われるもの(教育訓練の時間と区別可能な形で行われる場合を除く)
  9. 教育訓練の科目、職種等の内容についての知識、技能、実務経験又は経歴を有する指導員又は講師により行われないもの
  10. 再就職の準備を目的とするもの
  11. 過去に行った教育訓練を、同一の労働者に実施するもの
  12. 海外で実施するもの
  13. 技能実習生に実施するもの

雇用調整助成金の申請方法

雇用調整助成金の申請の流れは次の通りです。

窓口は基本的に都道府県労働局ですが、ハローワークになる場合もありますので注意が必要です。

  1. 計画をたてる
  2. 雇用調整の計画届を作成して提出
  3. 計画に沿って雇用調整を実施
  4. 計画完了後に支給申請をする
  5. 審査の後、支給決定
  6. 支給額の振り込み

申請の際は期限内に手続きを完了できるように事前の準備をしっかり行いましょう。計画届の提出時と支給申請時はそれぞれ別の書類が必要です。

雇用調整助成金の不正受給が発覚した場合のペナルティ

不正受給のペナルティは次の通りです。

  • 助成金の支給取り消しとすでに支払われた助成金の全額返還
  • 不正受給の日の翌日から返還金納付の日まで年3%の割合で算定した延滞金の支払いと不正受給により返還を求められた額の20%に相当する額の合計額を請求金として支払う
  • 支給を取り消した日、不死球とした日から5年間の間、雇用保険料を財源とした助成金などを受給できなくなる
  • 詐欺や脅迫、賄賂など刑法に触れる好意がある場合、刑事告発の可能性がある

事業主公開の措置が取られる不正受給のケースは次の2通りです。

  1. 不正受給による支給取消額及び不正を理由として不支給決定を受けた支給申請額の合計額が100万円以上の場合であって、返還命令後1か月以内に全額納付されないとき。
  2. 不正の態様・手段、組織性などから判断して、管轄労働局長が特に重大または悪質であると認めるとき。

不正受給が発覚すると金銭的なペナルティの他に社会的信用まで失うことになります。事業継続が困難になることが予想されるため、不正受給はしないようにしましょう。

まとめ 

雇用調整助成金は、大規模な社内研修を行う際にうまく利用できます。一時的に生産性を落としてでも、従業員の再研修を実施したいという事業所にはぴったりです。

教育の実施率が高くなればなるほど助成率はアップしますので、大幅なテコ入れを考えている事業所があれば提案してみてはいかがでしょうか。

【まとめ記事】令和6年度の助成金・補助金について紹介します

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