デジタル給与とは?導入前に知っておきたいメリット・デメリットを紹介
昨今、しばしば耳にするようになったデジタル給与とは、どのような給与支払いシステムなのでしょうか。
言葉は耳にするものの、詳細を把握している人はそう多くはないと思います。デジタル給与は、キャッシュレス決済の促進を目的とする政府の施策の一つです。
政府は日本のキャッシュレス比率をデジタル給与の導入にて、2025年までには40%に乗せたいと考えています。本記事では、デジタル給与の概要とメリット・デメリットについて詳細を紹介しています。
目次
デジタル給与とは?
デジタル給与とは、従業員の給与を電子マネーまたはスマートフォンの決済アプリを活用して支払う制度のことをいいます。2023年4月の労働基準法の一部が改正されたことによって、従来の銀行振込や現金支給の他にデジタル給与払いもできるようになりました。
デジタル給与解禁の背景には、日本のキャッシュレス決済を促進したいという狙いがあります。2018年に政府が策定した「キャッシュレス・ビジョン」には、日本のキャッシュレス比率を2025年までには40%、将来的には80%まで伸ばしたいという目標が掲げられました。
デジタル給与の受け取りができる事業者は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動者(キャッシュレス決済サービス事業者)のみです
デジタル給与制度の開始時期と指定業者
デジタル給与は2023年の4月に解禁されていますが、まだ具体的な利用には至っていません。
キャッシュレス決済サービス事業者がデジタル給与を取り扱うためには、申請から審査をへて厚生労働省による認可を得る必要があります。
認可を得た事業者はまだ発表されていません。すでに申請書を提出しているキャッシュレス決済事業者は次の通りです。
- PayPay株式会社
- 楽天Edy株式会社
- 楽天ペイメント株式会社
- 株式会社リクルートMUFGビジネス
審査が通れば、以上の4社が提供するキャッシュレス決済サービスがデジタル給与支払いに利用できるようになるでしょう。
デジタル給与のメリット
デジタル給与は給与を支払う会社側と受け取る従業員側それぞれにメリットがあります。双方のメリットの詳細を説明します。
給与を支払う側のメリット
給与を支払う会社にとって、デジタル給与の導入で想定されるメリットは次の2つです。
- 銀行振込よりも手数料を抑えられる可能性がある
- 会社の注目度が上がって採用しやすくなる
キャッシュレス決済サービス事業者へ支払う手数料は公開されていませんが、一般的にキャッシュレス決済事業者への送金手数料は、銀行口座への振込手数料よりも安く設定されています。
事業規模の大きな会社では、デジタル給与を導入することで高いコスト削減効果が見込める可能性があります。また、他社に先駆けてデジタル給与制度を導入できれば、差別化による注目度アップの効果があります。うまくいけば企業イメージアップに繋げることもできます。
人手不足の昨今において、注目度アップによって人材の確保がしやすくなることはとても意義のあることです。
給与を受け取る側のメリット
給与を受け取る従業員にとって、デジタル給与の導入で想定されるメリットは次の2点です。
- 給与の一部のみをデジタル給与で受け取ることもできる
- キャッシュレス決済口座への資金移動の手間が省ける
デジタル給与の場合、キャッシュレス決済口座へダイレクトに給与が支払われるため、その都度資金を移動する必要がありません。日頃からキャッシュレス決済を利用している人にとっては、手間が省けるため助かります。
また、デジタル給与は支払いを給与の一部のみにとどめることもできます。デジタル給与支払いの同意書を作成する際に、デジタル給与として受け取る範囲と金額を自分で決められる仕組みです。
日々の決済分のみをデジタル給与支払いにしておけば、現金との棲み分けもできて、とても便利に利用できます。
デジタル給与のデメリット
デジタル給与は給与を支払う会社側と受け取る従業員側それぞれにメリットをもたらしますが、同時にデメリットがあることも忘れてはいけません。
双方のデメリットの詳細を説明します。
給与を支払う側のデメリット
給与を支払う会社にとって、デジタル給与の導入で想定されるデメリットは次の2つです。
- 給与支払いに関連する手間がかかる
- 管理コストが上がる
デジタル給与支払い義務ではなく従業員の任意です。そのため、従来の銀行口座振込とは別にデジタル給与支払いへの対応を強いられることが予想されます。
一部だけデジタル支払いで受け取りたい従業員の手続きも合わせると、今までの業務量をはるかにしのぐ手続きが必要です。
手続きの簡易化を図るためにシステムの導入や外部への発注を検討するとなると、増えるコストにも対応しなければいけません。また、デジタル給与導入の際の従業員の口座情報や同意書の作成など、新たに増える業務と従業員情報の管理コストも見逃せないポイントです。
増える業務とともに管理コストの増加は、会社側のデメリットとなるでしょう。
給与を受け取る側のデメリット
給与を支払う会社にとって、デジタル給与の導入で想定されるデメリットは次の3つです。
- セキュリティリスクへの対策
- 希望しているキャッシュレス決済が使えない可能性
- 口座の入金上限額は100万円
デジタル給与払いとして給与を受け取る場合、今まで以上にセキュリティに気を遣う必要があります。特にキャッシュレス決済アプリがインストールされているスマートフォンの扱いには気をつけなければいけません。
キャッシュレス決済アプリは簡単に送金できてしまうため、スマートフォンを無くした時の対応策は考えておく必要があります。
その他、キャッシュレス決済サービスの利用が限定される可能性もあります。デジタル給与支払いできるキャッシュレス決済サービスは、厚労省が認可した事業者に限定されます。
したがって、いつも使っているキャッシュレスサービスが利用できるとは限りません。場合によっては新規口座開設が必要になるケースもあります。
デジタル給与を導入するまでの流れ
現状ではデジタル給与実施までの具体的な手続きや手数料など、詳細は公開されていません。
そのため、正式な導入手順はスタートできませんが、制度が本格的にスタートする前にどのような手続きが必要なのか事前に把握しておくとスムーズです。
ここでは、デジタル給与導入について必要となる手続きの詳細を説明します。
1. キャッシュレス決済事業者をえらぶ
厚生労働省が認可しているキャッシュレス決済サービス事業者の中から、給与のデジタル払いに利用する事業者を選びます。
厚生労働省のWebサイトを確認したところ、現在選択できる事業者はPayPayのみとなっていました。今後、審査中の事業者が認可されれば選択肢は増える見込みです。
2. 労使協定の締結
デジタル給与の導入には、会社と従業員の間で労使協定を結ぶ必要があります。労使協定とは、労働組合または労働者の過半数を代表する人物と会社の間で締結されるものです。
労使協定を締結では、利用するキャッシュレス決済サービス事業者の他に、デジタル給与支払いの対象になる従業員の範囲と金額、実施時期を定めます。
3. 就業規則の変更
デジタル給与を導入する場合、給料に関連する就業規則の変更が求められます。就業規則とは別に給与規定を設けている場合、そちらも変更しなければいけません。
就業規則や給与規定を変更する場合、給与をデジタル払いへ変更する、という内容に加えてキャッシュレス決済サービスに関連する項目と口座振替の変更ルールについての記載も忘れないようにしましょう。
4. 従業員への共有と説明
労使協定の締結と就業規則の変更について従業員に漏れなく説明の上、社内に周知します。デジタル給与は口座残高の現金化や払い戻しもできます。利用するキャッシュレス決済サービス事業者と合わせて、口座の上限額など必要事項を説明しておきましょう。
不正出金やキャッシュレス決済サービス事業者が破綻した場合など、トラブル発生時の対応については特に細かな説明が求められます。
5. デジタル給与を希望する従業員は同意書を提出する
デジタル給与について社内で説明した後は、デジタル給与払いを希望する従業員から同意書を提出してもらいます。同意書には、デジタル給与払いに同意する旨と、入金先の情報や開始希望日など必要情報の記載欄を設けておきましょう。
厚生労働省のWebサイトに同意書の参考例がありますので、作成の際は参考にすると良いです。同意書の徴収まで完了すると、希望の開始日からデジタル給与払いが始まります。
まとめ
デジタル給与は日本のキャッシュレス比率を大幅に変更するための大胆な施策の一つです。検討と準備は少しづつ進んでいるようですが、まだ具体的な実現には至っていません。
デジタル給与が実現するか、道半ばにして立ち消えになるかはまだ未知数ですが、会計業務に影響を与える可能性があるため、早いうちに概要を知っておいた方が良いでしょう。
クライアントからメリットとデメリットについて質問された時に、答えられるようにしておきたいところです。
税理士.ch 編集部
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