国際観光旅客税(出国税)とはどういう目的の税なのか?

国際観光旅客税(出国税)とはどういう目的の税なのか?

日本から海外へ出国する際のチケットに税金が加算されていたことに気づいている方も多いでしょう。航空券代には含まれているものの、つい意識せずに支払っている1,000円。実は2019年1月7日から導入された「国際観光旅客税」という国税なのです。

この税金は名前の通り「観光を促進するためにつくった税」という建付けです。でも、それだけでは終わっていません。昨今の観光政策では「観光の量から質へ」という新しい視点が、急速に主導権を握り始めています。制度が出来た当初の思惑を越えて、今や「観光地をどう守り、どう持続可能にしていくか」をめぐるキーポイントになっているのです。

この記事では、制度の成立背景から最新税収、政党や識者の議論—なかでも「質の転換」をめぐる論点や、税理士・会計士の視点で見逃せない改正ポイントまで、解説します。

目次

国際観光旅客税とは

「観光立国」というキャッチフレーズを聞くようになって何年か経ちました。観光庁や財務省は「日本を観光で元気にする」という旗印を掲げ、そのための財源が必要になると考えました。人口減少や地方の衰退が進むなかで、観光が地域を救うとの考えがあり、そのための姿勢表明でもありました。

そこで、観光庁・財務省・有識者会議が集結し、「他人の財布からではなく、自国を旅する人の行き帰りに少しだけ負担をお願いする」というかたちで生まれたのが、国際観光旅客税です。「観光のため」という目的を明確にすることで、単なる増税ではなく「皆でつくる未来への共通投資」というニュアンスを打ち出しました。

この税金は徴収方法がシンプルです。対象は日本から航空機や船舶で出国する全員で、国籍は不問です。

「旅行は楽しいから、ちょっとくらいなら支払うのは仕方ないか」という感じになるのではないでしょうか。ただし、2歳未満の乳児や乗り継ぎで24時間以内に再出国する方は免税扱いになるという配慮がされています。

初年度からの税収変遷

導入初年度は、約500億円の税収を見込んでいたところ、実績は443億円でまずまずのスタートダッシュ。これは、訪日外国人の増加や日本人の海外旅行も含め、「旅行熱」がちょうどピークにあった時期と重なったからです。政府としては次年度に控えた東京オリンピックで出入国が増加することによる税収増を目論んでいました。

ところが、その直後に新型コロナが襲来。人の動きが止まり、税収も激減します。2020年度には25億円にまで落ち込み、人々が海外を自由に移動できなくなった影響は想像を絶したものでした。

コロナ禍が一段落して日本全体が国際交流を再開したのが2022年秋。水際対策の段階的緩和に伴い、旅行者が一気に戻ってきます。その結果、2024年度には約481億円となり、導入以来の最高額を記録しました。これは、制度が“本来持つ可能性”を示す象徴的な数字と言えるでしょう。

使われる先はどこ?

「目的税」として導入されているこの税金、使い道は観光振興に集中しています。具体的にあげてみましょう。

  • 出入国審査の円滑化:顔認証ゲートや自動化ゲートの整備で、国内空港の出国待ち時間が大幅改善。成田・羽田・関空などに導入が進み、観光客の“おもてなし”部分にも投資が注がれています。
  • 多言語対応・情報発信:自治体によるAR観光マップや多言語音声案内システム、スマホアプリなどが、税で実現しています。海外の観光客が地元を回りやすくなりました。
  • 地域観光資源の整備:地方の古民家再生、文化財ライトアップ、新たな案内標示など、「旅する人にも住む人にもやさしい」環境整備にも財源が使われています。

国際観光旅客税は「観光振興に使う」という目的税として導入されましたが、実際の制度設計では、必ずしも使途が厳密に限定されているわけではありません。

だからこそ、観光関連という広い枠組みの中で、税金が本当に効果的に使われているのか、いま改めてその実績と成果が問われているのです。

「観光の質」への転換──その背景

最新の議論では、量を追う時代から“質”を重視するステージへ移行しようという声が多く出ています。いわゆる「オーバーツーリズム」の対策です。

経済団体や有識者会議では、「観光客が増えるほど地域に負担が出る」ことへの自覚が強まっています。欧州ではすでに「環境目的税」などで観光を制御し、地域と旅行者の両立を図る枠組みを整え始めています。

日本でも、欧州の潮流を踏まえつつ、観光地の混雑緩和や地域分散、文化体験型の滞在促進、さらには自然環境との調和を目指す施策が進められています。こうした取り組みを下支えする観光財源として、国際観光旅客税は重要な役割を担っています。

もうひとつは、順調に増収している実績を踏まえて政治の現場で声が上がり始めたことです。自民党の石破茂総裁は、課税の強化もやむを得ない、と明言しました。「1,000円以上の負担で、インフラ整備を進めたい」という意図がうかがえ、増額を検討している旨の報道がなされました。

政党・政策のスタンス

この問題には、政党によって微妙な違いがあります。

まず与党、自民党と公明党は制度の導入を支持し、増税も視野に入れています。とくに公明党は「多言語対応やバリアフリー重視」という地域支援の姿勢を明確にし、制度の安定的継続と改善を訴えています。

一方、立憲民主党や共産党は、導入当初は慎重姿勢を維持し、現在も「使途の透明性」「地方配分の公平性」を重視。これらが担保されない限り、単純な税率引き上げには難色を示しています。

日本維新の会は「新たな課税よりも、既存の予算を活用した戦略を優先すべき」という主張をしており、自治体の裁量を重視します。れいわ新選組などは「定額で1,000円は誰にとっても同じ重さ。しかし所得による逆進性がある」と課税構造への疑問を呈しています。

識者・評論家からの鋭い指摘

「段階的増税+自治体投資の強化を」井手英策氏(慶應義塾大学経済学部教授 財政社会学)

経済学者の井手氏は、1,000円は「仮の設定」と位置付け、段階的に1,500円、3,000円程度まで引き上げるべきだと述べています。さらに、税収を自治体別の投資枠と連動させ、「地方の観光インフラを実態に合わせて投資する体制にすべき」と提言。これは国と地方が協働して観光地を底支えする資金設計であり、「単発ではなく継続的な支援」を求めるものです。

「文化・環境との両立が鍵」陣内秀信氏(法政大学名誉教授 建築史家)

法政大学名誉教授・陣内氏は、「観光という形で地域文化を消費してしまう危険性」を指摘。税収を使って観光資源を整えること自体は歓迎されるとしても、文化財や景観の保護、住民との共生を明文化しなければ“観光開発による文化破壊”につながると警鐘を鳴らしています。具体的には「文化保全基金への拠出」「地域木材の活用義務」など、ちゃんと保全が伴う観光地づくりを提案しています。

「出国・入国 両面課税モデル」ギアロイド・レイディ氏(ブルームバーグ・オビニオンコラムニスト)

彼は「2030年に向けて、日本も段階的に出国税を9,000円程度まで引き上げ、同時に入国課税も導入すべき」としています。狙いは観光客の“明文化された負担”を示し、制度の信頼感と国際整合性を高めるというもの。「支払った分は観光に使われる」と納得感をつくるには、堂々とした税制設計が重要だと述べています。

まとめ

いろいろな情報を整理してみましたが、国際観光旅客税の未来像が見えてきたのではないでしょうか。予想される流れは以下のとおりです。

  1. 段階的な税率引き上げ:まずは1,500円、次いで3,000〜6,500円程度への引き上げ案が現実味を帯びてきています。
  2. 課税枠の柔軟化と累進制:所得や利用形態による負担差、短期者・LCC利用者に対する特例措置など、徴税の柔軟化が検討されています。
  3. 観光税の拡張と環境配慮:「グリーン税」や「文化基金型」など、環境・文化重視の方向性を制度に取り込む動きが強まっています。
  4. 透明性強化と説明責任の設計:使途の見える化、自治体配分の公正化、監査体制の整備が業界で本格的に要求されてくるでしょう。
  5. 国際整合性の確保:入国課税を含めたWTOルールへの適合を意識した税制設計も今後の課題となります。

「ほんの小額だから大したことはないだろう」と思われがちな国際観光旅客税ですが、その背景には観光政策の新たな時代を切り拓く挑戦がありました。

量から質への転換、環境・文化への配慮、そして国際ルールとの調和という課題が重なり合う中、税理士・会計士の助言も地域の観光・観光関連ビジネスにとって重要になる時期を迎えています。

制度が次の段階へ進むとき、皆さんの視角と提言が、観光の未来と地域の持続可能性に寄与できるよう、今後も動向を注視し、連携の取り得る分野で積極的に関わっていきましょう。

税理士.ch 編集部

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