防衛力増強のための増税とは何か?そして、いつから始まるのか?

防衛力増強のための増税とは何か?そして、いつから始まるのか?

高市首相は施政方針演説で、防衛費をGDP比2%水準へ引き上げる方針を改めて明確にしました。小泉防衛大臣も、防衛力整備は単年度の対応ではなく中長期の国家戦略であると述べ、安定財源の確保に言及しています。

防衛費の増額はすでに予算面で進行していますが、次に問われるのはその財源です。増え続ける歳出をどの税で、いつから、どのように恒久的に支えるのか。本件は単なる税率変更の問題ではなく、国家財政の支出構造と負担配分の再設計に関わります。

この記事では、防衛費増額の背景と財源論、そして税務・会計の実務家として押さえるべき論点を整理します。

目次

なぜ防衛費を増やす必要があるのか

防衛費増額の議論は突発的に生じたものではありません。長年抑制されてきた防衛関連歳出が、世界的な安全保障環境の急速な変化を受けて再評価されているという流れの中に位置付けられます。

税制改正を理解するには、まず歳出側の論理と政策転換の背景を押さえる必要があります。税理士実務は歳入側を扱いますが、歳出構造を理解しなければ顧問先や経営者に説得力ある説明はできません。

日本を取り巻く安全保障環境の変化

近年の安全保障環境は、従来の想定を超える速度で変化しています。周辺国の軍事力増強、ドローン、ミサイルの長射程化・高精度化、宇宙やサイバー領域での対立構造の顕在化など、従来型の防衛概念では対応しきれない状況が生まれています。台湾海峡や東シナ海を巡る緊張も無視できません。こうした環境下では、装備更新のみならず研究開発、情報収集体制、人的基盤整備まで広範な投資が必要となります。

これらは単年度補正で賄える性質のものではなく、複数年にわたる計画的支出を前提とします。税務・会計の実務家としては、防衛費増額が一時的な政策ではなく、構造的な歳出増である点を強調することが重要です。

これまでの「防衛費1%枠」とは何だったのか

日本は長らく、防衛費をGDP比1%程度に抑えるという政治的慣行を維持してきました。これは法律で定められた上限ではありませんが、見栄えの良い財政規律の象徴として機能した経緯があります。

高度経済成長期には名目GDPの拡大により1%でも相応の規模を確保できましたが、低成長期に入ると実質的な抑制効果が強まりました。この枠組みの存在が、防衛費を他の歳出項目と比較して相対的に低位にとどめてきたともいえます。

岸田元首相から防衛支出をGDP比2%程度へ引き上げるよう指示が出されたのは2022年。高市首相は所信表明演説で2025年度中にこれを実現すると公言しています。税務・会計の実務家としては、この政策的転換が恒久財源議論を不可避にした点を押さえる必要があります。

「反撃能力」保有という政策転換

政策転換の象徴が、いわゆる反撃能力の保有です。このために長射程ミサイルなどの整備を進める方針が示されました。

これは単に装備を増やす話ではありません。従来の専守防衛が「攻撃を受けた際の防御」を中心にしていたのに対し、反撃能力は相手の拠点を叩くことを前提とします。専守防衛とされていた思想そのものの転換だといえなくもありません。

そのため、情報収集体制、指揮統制システム、即応態勢の整備など、戦い方そのものの再設計が必要になり、ミサイルなどの取得費だけでなく維持費や関連インフラ整備費が恒常的に発生し、歳出構造は長期的に変化することになります。

部隊と基地が設置されると調達契約は長期にわたり、維持費や更新費も継続的に発生します。結果として歳出は固定化しやすく、恒久財源が求められる構造になります。いわゆる「ランニングコスト」です。企業でいうならば大規模設備投資を行った後に減価償却費と保守契約費用が継続的に計上されるのと似ています。

防衛費はいくら増えるのか

税制を論じる前提として、増額規模の把握は不可欠です。防衛費増強の理由は理解できたとしても、それはいくらで、我々の実務や生活にどれほどの影響があるのか。税務・会計の実務家は金額規模を具体的に把握しておく必要があるでしょう。

GDP比2%目標とは何か

先に述べた通り、政府は防衛費をGDP比2%程度へ引き上げる目標を掲げています。名目GDPを600兆円程度(2025年10月~12月速報値)と仮定すれば、2%は約12兆円です。従来水準との差は数兆円規模に及びます。

この差額が段階的に積み上がることになります。税務・会計の実務者としては、単年度の数字だけでなく、複数年累計での負担規模を把握する必要があります。企業の中期計画と同様、国家財政も複数年フレームで動いていると理解すればいいでしょう。

5年間の総額と不足する財源

5年間の防衛力整備計画では総額40兆円超が示されています。既存予算の組み替えや決算剰余金、特別会計の活用なども検討されていますが、それだけでは不足が生じるといいます。

ここで初めて恒久財源の必要性が前面に出ます。国債依存を拡大すれば国際的な信認の問題が再燃しかねませんし、増税で対応すれば現在世代に負担がかかります。

どちらを選ぶかは政治判断ですが、税務・会計の実務家はその財政構造を客観的に整理する立場にあります。

なぜ増税が必要とされているのか

増税論の核心は、恒久財源確保と世代間公平です。税制改正はその具体化手段にすぎません。

「将来世代に負担を残さない」という理屈

国債で賄えば利払い費が将来歳出を圧迫します。増税はそれを回避する手段として説明されます。企業会計に例えれば、借入依存を高めれば将来キャッシュフローが制約される構造と同じです。

ただし、防衛装備は将来世代も享受する公共財であり、負担配分の議論は単純ではありません。単なるスローガンとしてではなく、財政収支の数値を見ながら中身をきちんと理解しておきましょう。

社会保障費とのバランス問題

防衛費増額は、歳出全体の再配分問題と切り離せません。一般会計では社会保障費が最大項目であり、防衛費の上積みは、この構造の中で調整されます。

しかし、年金・医療・介護は法定給付であり、高齢化に伴う自然増はまだまだ続きます。したがって、単純に社会保障費を削って防衛費に回すという構図にはなりにくいのが実情でしょう。

現実的なバランス調整は、「総額を減らす」よりも「伸びを抑える」方向で行われます。診療報酬や薬価、保険料負担などを通じて自然増を管理しつつ、防衛財源を確保する形が想定されます。税務・会計の実務家としては、防衛増税の影響だけでなく、社会保険料を含めた総負担率の変化として財政をウォッチングしていくのがよいでしょう。

どの税金が増税されようとしているのか

防衛力強化の財源として議論されてきた税目は、法人税、所得税、たばこ税です。ただし、現時点では進捗に差があります。法人税とたばこ税については、すでに令和7年度税制改正で制度化されており、所得税については令和8年度税制改正大綱で具体案が示されたものの、なお制度の最終確定と実施に向けた手続が残されています。したがって、実務上は「すべてがこれから決まる段階」ではなく、「一部は施行時期まで見えており、一部は引き続き制度設計が進んでいる段階」と理解するのが正確です。

法人税の上乗せ

法人税については、「防衛特別法人税」が創設されました。これは各事業年度の法人税額を基礎とする付加税で、税率は4%、課税標準となる法人税額からは500万円の基礎控除が設けられています。適用開始時期は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度です。実務では、実効税率の上昇を踏まえた税負担見通しの再計算に加え、中小企業への影響、投資計画や利益配分への波及も意識する必要があります。顧問先や経営者に対しては、制度の概要だけでなく、自社ベースでどの程度の負担増になるのかを試算して示すことが重要です。

所得税の付加税

所得税については、防衛特別所得税(仮称)の創設が令和8年度税制改正大綱に盛り込まれています。内容としては、基準所得税額に1%の税率を乗じる付加税を新たに設ける案で、仕組みは復興特別所得税と同様とされています。

あわせて、復興特別所得税との関係整理も前提になっているため、制度が実現すれば源泉徴収や年末調整など給与実務への影響は小さくありません。ただし、所得税については法人税のようにすでに施行済みの法律事項ではなく、実務対応を断定的に語るよりも、今後の法制化と施行時期を注視する姿勢が適切です。

たばこ税の見直し

たばこ税についても、すでに見直しの方向が制度化されています。加熱式たばこについては令和8年4月および同年10月から課税方式の適正化が行われ、国のたばこ税率についても令和9年4月、令和10年4月、令和11年4月に段階的な引上げが予定されています。個人の家計への影響が比較的見えやすい税目ですが、実務上は小売や流通の価格改定、在庫管理、販売現場での対応にも関わるため、法人税や所得税とは異なる形で影響を及ぼす税目といえるでしょう。たばこ税については当コラムの以前の記事もご参照ください。

私たちの生活への影響と今後の議論

増税は家計と企業双方に波及します。実務家はその接点に立つ存在です。この増税が企業と家計のもたらす影響について考えていきます。

家計への具体的な影響

家計への影響を考えるうえで重要なのは、現在の案では、防衛特別所得税(仮称)は課税所得に一定率を掛ける仕組みではなく、その年分の基準所得税額に1%を乗じて計算される点です。そのため、負担額は課税所得から単純計算できるものではなく、各種控除や税率適用後の所得税額によって変わります。たとえば、基準所得税額が20万円なら年2,000円、30万円なら年3,000円の負担増となります。

企業活動への影響

法人税上乗せは内部留保や投資判断に影響します。資本コストの再計算、研究開発税制との整合性確認など、課題は多岐にわたります。増税が成長戦略とどう整合するかが焦点です。

賛成・反対それぞれの主張

賛成論は日本の国力や抑止力確保を重視し、反対論は戦争反対や景気への悪影響を懸念します。税務・会計の実務家は、感情ではなく数値で整理しましょう。増税規模がGDP比でどの程度なのか、経営や家計にどのくらい影響があるのかを具体的に示す姿勢が専門家としての信頼を支えます。

まとめ

防衛力増強のための増税は、令和8年度以降、段階的に実施されていきます。この増税の本質は単なる税率変更ではなく、恒常的に固定費を増加させる国家財政構造の転換です。

税務・会計の実務家は政策背景を理解し、源泉徴収実務や実効税率試算に落とし込む橋渡し役。顧問先や経営者に対しては、「いつ始まるか」だけでなく「自社にどう影響するか」を整理して提示する。その姿勢こそが専門家としての責務といえるでしょう。

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