暗号資産(仮想通貨)の法人税は個人の課税よりも低い?法人化のメリットとタイミングも紹介

個人の暗号資産の所得は雑所得となるため、住民税を合わせて最大で55%という高い税率が課せられます。一方、法人税の最高税率は35%です。暗号資産の節税を考える場合、状況次第では法人化も一つの選択肢です。

本記事では、法人化による暗号資産の節税効果と法人化にあたって注意すべきポイント、法人化を考えるタイミングについて説明します。

目次

所得が多い個人投資家ほど法人化による節税効果が高い

暗号資産への課税について、個人が所得税として納税する場合、住民税と合わせて最高で55%の税率が課されます。一方で法人税の場合、最高税率は35パーセントです。所得税よりも20%も税率を引き下げることができます。

法人であれば暗号資産の所得が増えても税率35%を超えることはありません。所得を得た人ほど、法人化による節税効果が期待できます。

とはいえ、必ずしも法人化すると節税できる、というわけではありません。

法人で得た暗号資産の所得を個人資産にする場合、役員報酬で個人へ支払う形をとる必要があります。この時に、所得税と住民税が課税されるため、場合によってはそれほど税率が変わらないケースもあります。

暗号通貨に関する法人税の税率を一覧表にまとめました。

区分税率
資本金1億円を超える法人23.20%
資本金1億円以下の法人の年間800万円を超える部分23.20%
資本金1億円以下の法人の年間800万円以下の部分15%
資本金1億円以下の法人の年間800万円以下の部分(適用除外事業者の場合)19%

法人として暗号資産取引を行うメリット

個人から法人成りして暗号通貨取引を行うメリットを5つ紹介します。

  • 繰越控除ができるようになる
  • 他の所得と損益通算ができるようになる
  • 経費対象となる項目が増える
  • 給与所得控除が使えるようになる
  • 決算期を自分で決められる

繰越控除ができるようになる

法人として暗号資産の取引で赤字となった場合、損失は次期以降最大で10年間、繰越ができます。損失の繰越控除のメリットは、利益の圧縮です。翌年以降の利益と損失を相殺して税金の課税対象金額を低くすることができます。

暗号資産取引を事業化した個人事業主は青色申告によって3年間の繰越ができますが、法人の10年間には及びません。

損失金額次第ですが、繰越期間が3年間では取り戻せる金額にも違いが出てきます。法人化の繰越控除のメリットはより大きいと考えても良いでしょう。

他の所得と損益通算ができるようになる

本来の事業で得た所得と損益通算ができるようになります。事業の損益と暗号資産の損益を相殺することによって、税金の支払い負担の軽減が可能です。

個人の場合、同じ雑所得の区分で損益通算はできますが、給与所得や不動産所得など他の所得と損益通算することはできません。

経費対象となる項目が増える

個人の場合、経費の対象となるのは暗号資産の取得費用や取引手数料に限定されますが、法人では、本来の企業活動に必要な支出として多くの項目を経費計上できるようになります。

法人が経費計上できる項目の一例は次の通りです。

  • 給与、賃金     
  • 家賃、地代     
  • 保険料、共済掛金     
  • 接待交際費     
  • 旅費、交通費     
  • 広告宣伝費     
  • 通信費     
  • 消耗品費 など

給与所得控除が使えるようになる

個人が法人化して事業主が取締役となると、役員報酬として法人から給与を受け取る形式になります。役員報酬でも給与所得控除を受けられるため、個人の所得を抑えることができる、というわけです。

一定の条件を満たせば支払った役員報酬を経費として計上できるため、法人側の所得も抑えられます。

個人事業主にはない給与所得控除を利用できれば、より効果的な節税が可能です。

決算期を自分で決められる

個人で暗号資産を運用している場合は、1月1日〜12月31日の期間に生じた所得を確定申告することしかできません。

法人の場合は期間を自由に設定でき、かつ変更することもできます。資金繰りや本業の繁忙期、予想以上の収益が出てしまった場合など、臨機応変に決算月を変更できるのは、大きなメリットの一つです。

法人として暗号資産取引を行うデメリット

法人化することで考えられるデメリットを4つ紹介します。

  • 法人を設立するための費用がかかる
  • 複雑な税務処理が発生する
  • 法人の維持管理費用がかかる
  • 口座開設の審査が難関

法人を設立するための費用がかかる

法人を設立するには費用がかかります。株式会社では約25万円、合同会社では約10万円です。設立費用の内訳は定款の作成費用や手数料、収入印紙、登録免許税、謄本発行にかかる手数料などが挙げられます。

複雑な税務処理が発生する

法人として暗号資産の取引を行う場合、毎年決算書を作成して法人税の申告をする必要があります。赤字であっても申告はしなければいけません。

法人の場合、処理がより複雑になるため、税理士への依頼はほぼ必須です。税理士と顧問契約を結ぶと報酬の支払いが発生するため、費用がかかることもデメリットの一つです。

法人の維持管理費用がかかる

法人の場合、事業活動が赤字の場合でも法人税として7万円の納付が必要です。住民税の均等割と言われており、赤字でも法人税が発生するため、注意しなければいけません。

その他、法人登記ができるオフィスの契約など活動するための費用もある程度はかかります。

また、万が一法人の運営がうまくいかなった場合、法人を生産しなければいけません。その際にかかる清算費用として登記などの手数料がかかります。

口座開設の審査が難関

法人化には法人名義の銀行口座開設が必須ですが、メインの事業が暗号通貨取引となっている場合、口座開設できない金融機関が多いです。

法人として暗号資産取引を行う場合、取引所で法人口座を開設する必要がありますが、取引所の法人口座開設の審査は厳しい傾向があります。揃える必要書類も多いため、口座開設へこぎつけるまでそれなりの時間がかかります。

暗号資産取引で法人化を検討するタイミング

暗号資産取引で法人化を考えるタイミングは、利益が900万円前後に差し掛かる頃です。現在の税制のポイントを一覧表にまとめてみました。

法人の税率・年800万円以下の部分 15%
・年800万円を超える部分 23.2%
個人の税率・5%〜45%・695万円から899万円まで23%
・900万円を超えると33%

仮に暗号資産の所得が900万円だった場合の税金の計算方法は次の通りです。

  • 法人 (800万円×15%)+(100万円×23.2%)=143万2,000円
  • 個人 900万円×33%=297万円

個人の場合、695万円と899万円が税率が上がるポイントとして設定されていますので、法人化の一つのタイミングと考えて良いでしょう。

とはいえ、法人化のラインはあくまでも目安です。維持費や設立費を込みで考えると、税金を抑えられるポイントはそれぞれです。法人化を提案するときは、それぞれの状況をよく確認する必要があります。

法人化を考えるタイミング

法人化をおすすめできる条件を考えてみました。

  • 個人事業主としてBtoBの事業を展開している
  • ある程度の暗号資産の収益があって節税する手段を探している
  • 今後事業拡大の予定がある

法人化すると節税の他に、信用度アップの効果もあるため、個人事業主としてBtoBの事業をしている人はいずれかのタイミングで法人化を考えることになると思います。

暗号資産の節税もタイミングの一つとして考えても良いでしょう。

まとめ

法人化すると税率が低くなるだけでなく、繰越控除や損益通算ができるようになり、かつ経費項目も増えます。節税手段が増えるため、暗号通貨の所得が多くなればなるほどメリットも大きくなります。

メリットの一方で、設立には設立費用は維持費用もかかるため、法人化は相応の事業規模に拡大した後に考えたいところです。

暗号資産の所得の目安はおおよそ800万円前後と考えておくと良いでしょう。BtoB事業を展開する個人事業主にとっては、法人化の良い目安となります。

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