非課税になるのはどんな場合?相続における生前贈与のポイント

相続では相続税対策として、生前贈与が行われることがあります。
あらかじめ計画的に生前贈与しておけば、相続時に遺産が少なくなるため、相続税が掛からなくなったり、相続税額を抑えられるというものです。
生前贈与には、様々な非課税措置も設けられているので、クライアントの状況に応じて、適切な生前贈与計画を提案することが大切です。ただ、相続税と贈与税では、贈与税の方が税率が高いので、生前贈与の方が節税できるとは限らないので注意が必要です。
相続における生前贈与のポイントをおさらいしましょう。
目次
相続と生前贈与の関係

相続と生前贈与は密接な関係があります。
毎年110万円までなら贈与税が掛からない一方、亡くなる直前まで財産を溜め込んでいた場合は、多額の相続税を課せられる可能性があります。そこで、被相続人が贈与税の基礎控除額である110万円を目安に推定相続人に贈与し続けて、相続時に相続税が掛からないようにしたり、軽減を目指すこともあります。
毎年110万円までなら贈与税が掛からないことは、広く知られているため、自己判断で実践している方も少なくありません。税理士が生前贈与について相談を受けた場合は、より戦略的なアドバイスができるようにすることが望ましいです。
生前贈与の方法には2つある
生前贈与の方法には、暦年贈与と相続時精算課税があります。2024年には、これらの制度が大幅に改正されましたが、一般の方は、両者の違いがよく分かっていないこともあります。
まず、この2つの制度の違いを的確に解説できるようにすることが大切です。
暦年贈与とは
暦年贈与は、受贈者一人当たり、年間110万円までの贈与なら非課税となる制度です。
110万円の非課税額の範囲であれば、贈与税の確定申告をする必要はないため、誰でも手軽に利用できます。なお、110万円を超える贈与がなされた場合は、10%〜55%の範囲で贈与税が掛かるため、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の確定申告書を提出する必要があります。
暦年贈与には持ち戻しがあることに注意
暦年贈与には持ち戻しがあります。
具体的には、被相続人が亡くなる3年前までの贈与分については、相続財産に持ち戻した上で相続税が計算されます。余命宣告などを受けた被相続人が駆け込みで、贈与を行って、相続税を逃れることを防止するための制度とされています。
この持ち戻し制度は、2024年の税制改正により、「7年前」までに延長されました。正確には、被相続人が亡くなる3年前までの贈与分は、全額が持ち戻しの対象になりますが、4年より前の分については、贈与額から100万円を差し引いた額が対象になります。
暦年贈与による生前贈与は孫にするのがおすすめ
暦年贈与の持ち戻しの対象となるのは、相続人への贈与に限られます。
相続人は一般的には配偶者と子です。子が存命なら孫は相続人になりません。そのため、孫に生前贈与した場合は、持ち戻しをする必要がないことから、有効な相続税対策になります。
ただ、孫に遺贈する旨の遺言書を残していたり、孫を受取人とする生命保険がある場合は、相続人ではない孫でも相続税の対象となってしまい、持ち戻しの対象となることもあります。
これらの点はあまり知られていないため、孫に生前贈与する際の注意点として周知すべきです。
相続時精算課税とは
相続時精算課税は、2,500万円までは生前贈与しても相続税が掛からない制度です。相続時精算課税を利用するためには、適用の申告をする必要があります。
適用の申告後は、年間の贈与額が110万円を超えていても、合計額が2,500万円以下であれば贈与税が掛かりません。なお、一旦、相続時精算課税を適用したら暦年贈与には戻れない点を周知しましょう。相続時精算課税について説明するときは、暦年贈与との違いを紹介すると理解してもらいやすいです。
大きな違いは
- 適用対象者が限定されている。
- 贈与税は掛からないが相続税が掛かる。
- 2,500万円を超えた分の贈与には一律20%の贈与税が掛かる。
の3点です。
相続時精算課税の適用対象者
暦年贈与では、贈与者と受贈者の制限はありませんでしたが、相続時精算課税では対象者が限定されています。具体的には、次のように限定されます。
- 贈与者:60歳以上の直系尊属(父母や祖父母など)
- 受贈者:贈与者の直系卑属(子や孫など)で成人(18歳以上)していること。
相続時精算課税は相続税が掛かる
相続時精算課税の適用を受けて贈与した財産については、贈与時に贈与税が掛かりませんが、相続時に相続税が掛かります。相続税が掛かることを知らない方もいる可能性があるので注意が必要です。
また、相続財産の価額は贈与時点での価格で計算するため、価値が上がることが見込まれる財産を贈与しておくと有利になる点を周知しましょう。
相続時精算課税にも基礎控除額が設定された
2024年の税制改正により、相続時精算課税でも年間110万円までの基礎控除額が設けられました。
年間110万円までなら、贈与税も相続税も掛かりません。相続時精算課税の対象となる2,500万円は、基礎控除額を超えた分について、特別控除額として計算されることになります。
また、暦年贈与では、贈与税の基礎控除額分も3年前までの分は持ち戻しの対象になりますが、相続時精算課税の基礎控除額は、持ち戻しをする必要がありません。その点でも有利になっているので、大きな節税効果が期待できます。
2,500万円を超えた分の贈与には一律20%の贈与税が掛かる
相続時精算課税を選択し2,500万円分を贈与した後は、基礎控除額の年間110万円を超える分につき、一律20%の贈与税が掛かります。
ちなみに、暦年課税の場合、税率が20%以上になるのは、
- 一般税率では、基礎控除後の課税価格が300万円超
- 特例税率では、基礎控除後の課税価格が400万円超
の場合です。
その他の生前贈与の非課税制度
生前贈与が非課税となる制度は他にもあるのでまとめておきましょう。
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
夫婦の間で、居住用不動産や居住用不動産を取得するための金銭の贈与がなされた場合は、基礎控除額110万円の他、最高2,000万円まで控除できる制度です。
- 婚姻期間が20年以上であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、受贈者である配偶者が居住用不動産を取得して居住する。
といった要件があります。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合は、500万円から1,000万円まで贈与税が非課税となります。
主な要件は次のとおりです。
- 贈与者は、父母や祖父母など直系尊属であること。
- 受贈者は、18歳以上の直系卑属であること。
- 贈与を受けた年の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること(新築等をする住宅用の家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)。
これらの要件を満たしていれば、省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税になります。
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合は、1,500万円まで贈与税が非課税となります。
主な要件は次のとおりです。
- 贈与者は、父母や祖父母など直系尊属であること。
- 受贈者は、30歳未満の直系卑属であること。
直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合
直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合は、1,000万円まで贈与税が非課税となります。
主な要件は次のとおりです。
- 贈与者は、父母や祖父母など直系尊属であること。
- 受贈者は、18歳以上50歳未満の直系卑属であること。
特定障害者に対する贈与税の非課税措置
特定障害者に対する贈与についての贈与税が、生涯の程度に応じて3,000万円から6,000万円まで非課税となる制度です。
特定障害者の方の生活費のために、信託契約に基づいて特定障害者の方を受益者とする財産の信託がなされた場合に利用できます。
生前贈与の注意点

生前贈与は、相続税対策として有効ですが、いくつか注意しなければならないことがあります。一つ一つ確認しておきましょう。
相続税より贈与税が割高になる
相続税と贈与税のどちらも累進課税制になっていますが、税率を比較すると贈与税の方が割高になるように設定されています。
そのため、相続税を気にするあまり、生前贈与によって贈与税を支払うと結局、相続税を支払った方が節税になったというケースもありえます。
税理士としては、相続税と贈与税のどちらを支払う方がトータルで節税効果があるのか、しっかりシミュレーションして提案することが大切です。
名義預金に注意する
被相続人の中には、毎年110万円までなら贈与税が掛からないという話だけを鵜呑みにして、子や孫名義で勝手に貯金していることもあります。
ただ、こうした貯金方法だと名義預金となり相続税の対象となるリスクがあることを周知しましょう。できることなら、お金のやり取りに際して、贈与契約書を作成するなどして、名義預金とみなされないような対策を提案することが大切です。
定期贈与に注意する
定期贈与は毎年一定の金額を一定期間にわたり贈与するというタイプの贈与です。
例えば、毎年110万円を10年間にわたり、定期的に贈与していると、定期贈与として、贈与を開始した時点で1,100万円の贈与があったとみなされる可能性があります。
こうしたリスクを避けるためには、贈与するごとに贈与契約書を作成して定期贈与ではない旨の主張ができるようにしておくべきです。
贈与税が掛からなくても遺留分の対象になる
遺留分は法定相続人の最低限の取り分のことです。
法定相続分の2分の1までは、各法定相続人が遺留分を主張できるのが原則です(民法1042条)。遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始時の財産だけでなく、生前贈与分も含めて計算します。
法定相続人への贈与については、相続開始前の10年間にした生前贈与分も含まれます(民法1044条)。相続時精算課税制度を利用して多額の生前贈与を行っていた場合は、遺留分の対象となって相続トラブルを招いてしまうおそれがあります。
そのため、生前贈与の際は、法定相続人の遺留分を見越したうえで、具体的な金額を提案することが大切です。
まとめ
生前贈与には非課税措置もいくつかあるため、うまく活用することにより、相続税を大幅に抑えることができます。ただ、税率は相続税よりも贈与税の方が高くなるため、長い目で見て節税対策として有効なのかはよくシミュレーションする必要があります。
税理士として、生前贈与の提案をする場合は、具体的な金額を示しながら、節税できる金額を示すことが大切です。

税理士.ch 編集部
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