貸付事業用宅等の特例の3年縛りを考えてみる<事業承継レポートVol.27>
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬
2022/5/11
このコラムでは、『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』など多数の著書を持つ白井一馬先生が、事業承継に関する話題のトピックスなどを取り上げ、皆様にご紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.102(2022.4)に掲載されたものです。
貸付事業用宅等の特例の3年縛りを考えてみる
平成30年改正によって、相続直前に小規模宅地特例を利用するための駆け込みの貸付物件の取得に規制がかかりました。これにより相続開始前3年以内に取得した貸付物件は貸付事業用宅地等から除外されます。
具体例はこうです。父親は余命宣告されたので、相続税対策を意識し収益物件を取得しました。それから1年で亡くなったとします。この物件を相続した母は3年縛りによって貸付事業用宅地等の50%減額は使えません。このような小規模宅地特例の利用を防止するのが改正の趣旨です。
ここで疑問が生じたのが、購入ではなく相続による取得の場合です。
妻も、夫の相続後1年で亡くなってしまったとしましょう。物件を相続した息子は貸付事業用宅地等の50%減額は使えるのでしょうか。というのも父親が購入してから母の2次相続までは2年しか経過していないからです。
これについては翌年の平成31年改正で手当てされました。相続により取得した宅地は3年縛りの対象外とされました(措令40の2⑨、⑳)。つまり、新たに始めた賃貸物件が短期間の相続で承継された場合、1次相続ではもちろん3年縛りの規制がありますが、2次相続では減額可能ということになります。なぜかというと、夫は自分の相続での節税を意識して物件を取得したのであって、短期間に2次相続まで起こることを意識して物件を買ったわけではありません。妻自身は節税行為に関与していないわけです。したがって、新規購入から3年以内に1次・2次の相続が起きても、2次相続では貸付事業用宅地等の特例が適用できることになります。
ここでさらに掘り下げてみましょう。前提とするのは妻の土地に夫が新築して開業した貸付事業です。まず開業後1年で夫が亡くなり、妻が建物を相続したが、妻も1年で亡くなったというケースです。この場合に2次相続で小規模宅地特例は使えるのか。というのも、妻は夫から宅地を相続したわけではありません。相続したのは建物だけです。31年改正による政令は、貸付事業用宅地が短期間で2次相続まで承継された場合を救済しており、1次相続で承継されたのが建物のみの場合にまで救済する条文はありません。
ここからは私見ですが、相続による取得にはいかなる場合でも3年縛りの適用はないと考えるべきでしょう。相続による取得は、購入や新築による取得とは違います。解釈上それは当然のことであり、措令40の2⑨、⑳は当たり前のことを確認した規定にすぎないというべきです。だから1次相続が建物のみ、2次相続で土地建物が相続されたときでも、2次相続では貸付事業用宅地等の減額が適用できると考えます。
そのように考えないと、妻の土地に、夫が建物を建てて30年間営んできた貸付用建物を妻が相続し、その妻が3年以内に亡くなると、子どもは貸付事業用宅地等の減額ができないことになってしまい、それでは不合理です。妻は夫の経営期間を承継すると考えるのが素直な解釈です。