先駆者が見据える上場第二幕
“会計人社長”荻原紀男が巻き起こすAI革命戦略 Vol.2
株式会社豆蔵K2TOPホールディングス 代表取締役会長兼社長 荻原 紀男
あらゆる分野でデジタル化が進む昨今、革新的な技術の導入により、これまでは当たり前とされてきた業務プロセスが一気に効率化されるという事例は決して珍しくはない。しかし、このような時代の変化にいち早く目をつけ、新時代に対応するビジネスモデルを確実に実現させた会計人は唯一無二ともいえるのではないだろうか。今回は、株式会社豆蔵の創業者であり、税務・労務相談ロボットサービスを提供する株式会社ROBON(ロボン)を立ち上げ、MBOを経て株式会社豆蔵K2TOPホールディングス代表取締役会長兼社長に就任した荻原紀男氏に、事業立ち上げの経緯や今後の展望にいたるまでの話を伺った。
1問でも100問でも顧問料は同じ
税理士がすべき中小企業の成長支援とは
AIによって時間短縮が可能になるということですが、人がリアルで行う税務相談、
または人でしかできない部分はどこが残っていくとお考えでしょうか。
税務顧問料には税務相談が含まれますが、例えば顧問料が月5万円だったら、1問でも100問でも同じ5万円なのです。そうすると、中には平気で100問くらい相談してくる人もいるようです。これに時間や労力が取られると、結局は値上げするしかないというのですが、まずはこういう事例にこそ使えるのではないかと思っています。つまり、AI税務相談で解決がつかない場合に、電話で相談してもらうという二段階にすればよいのではないかと。人間が行う税務相談は、イレギュラーな案件や、AIでは解決できない複雑な相談だけに限定すれば、時間短縮になると思います。
調べればわかることや単純な知識関係はAIに任せていくということですね。
本来、この国の95%が中小企業であるということは大きな問題だと思っています。こんなに多くの中小企業が、毎年のように設立と廃業を繰り返しているわけですから、それを放置してきた国も悪いし、それに甘んじて商売にしてきた税理士業界も同罪です。そのようなあり方を変えるためには、税理士の本来の仕事は申告書を作ることではなく、中小企業の成長支援にあるべきだと強く考えています。
申告書の作成は一番安定的にお金を取ることができる業務ですが、それ以上のものを求めるとなると別の付加価値の提供がやはり必要になります。そのためには、研鑽を積む必要がどうしてもありますよね。本来であればすべての税理士の人たちがその域に達してほしいのですが、申告書を作るだけで精一杯になってしまっている現状があるのではないかと思います。
そうすると、税理士にしかできない仕事は何かということから、
考えて追求していく必要がありますね。人でしかできないのはそういうところでしょうか。
資格者であってもなくても、お客様と向き合って、きちんと対話ができる人は今後残ることができると思います。申告書を作るだけでは、付加価値をそんなに感じられないですよね。「あの先生に会って良いことを教えてもらった」とか「目が覚めたな」ということがあれば、変わるのではないでしょうか。
ちなみに、会長が代表を務める税理士法人プログレスの業務は大手企業様が中心だと伺いました。
一般的な会計事務所としては珍しいように感じたのですが、いかがですか。
そうですね。普通の確定申告などの業務は少ないと思います。組織再編や国際税務含めて本当に難しいものばかりです。お客様から見て、そういう難度の高い案件を、外資や四大法人ほどではないものの対応してもらえる、しかも価格はリーズナブルという点では非常にニーズが高いです。あとは割と実験場と言いますか、製品を作った時のテスト工場みたいな位置づけで事務所が機能している側面もあります。
AIに能力を超えられた先にある
今後の展望
いわゆる、AIが人間を超えるといった「シンギュラリティ」のタイミングが
一般的には2045年頃といわれていますが、そこに向けてこの先20年の展望をお聞かせください。
20年と言わず、実際は5~10年後くらいのタイミングで現実になってくるのではないかと思います。そうすると、必要とされなくなる業務とそれに従事している人がたくさん出てきますよね。ですから、AIの発展に抵抗勢力があるとすると「自分のテリトリーを守るのが仕事だと思っている人たち」になってくるのではないでしょうか。こういう人はたくさんいますよね。
例えば、自分だけにしか理解できないExcelファイルなどを作って「これが私の仕事」とやっている人をたくさん見ますが、そういう人ほど辞めさせないとダメだと思います。
むしろ、属人的なものこそAIに覚えさせてしまえばいいのです。どんな目的で何を作っているかを覚えさせてしまえば、人がやる必要もないですから。そうなれば、将来的には週休3日や4日という働き方でも全く問題なくなると思います。
そうすると、どのようなビジネスパーソンが
今後付加価値を上げていくことになるのでしょうか。
これも持論にはなりますが、我々が長年受けてきた教育はすでに脳の中に染みついているんですよね。どういうものかというと、「時間を守る・並ぶ・同調する」といった、いわば突出しないという教育です。これが間違いなく壊れ、それを善とした生き方が終わるのではないかと思います。組織の中に浸かっていると気づかないものですが、その組織から一歩外に出た途端、「あなたの価値は一体何?」という問いに答えられないことは、よくあることですよね。大手企業からベンチャーに移って、看板がなくなると何もできない人は結構います。そういう人は必要とされなくなってしまう時代が来ると思います。
だからこそ、自分を磨いてどんな分野でも勉強をしていくことが、自らの付加価値を高めていくことにつながると思います。個人的な話でいうと、私は「この世の中をどうしたら良くできるか」ということを意識して動いていますね。
「どんな分野でも」とのことですが、勉強するときに、何か指標にできるものはありますか
例えば、「デジタルの利用方法」でも「学校教育の在り方」でもいいのですが、それらを考えるとして、その思考を組み立てる際に、有益な情報だけを取り入れるようにするのです。結局、有益でない情報を入れないことが一番手っ取り早い勉強になるのではないでしょうか。そのためには、情報の適切な取捨選択が必須になっていきます。
売上目標は20億円
データ同士の連携で広がる未来
最後に、ROBON社の今後についても教えてください。
今は税務系のものを中心とされていますが、例えば今後5~10年での中長期の目標や開発目標、
事業展開などはどのようにイメージされていますか。
先ほど申し上げた「決算の自動化」が一つ大きなテーマとしてあります。あとはもう一つ別のサービスも考えています。例えば、社会保険の組合であれば病気のデータを山のように持っていますよね。しかし、これをうまく利用できていないのが現状です。そこで、このデータをきれいに整理してタグ付けをして保管し、「今、この情報が欲しい」という時にスムーズに取り出してくれる、そんな製品を作っています。これがどんどん広がっていけば、冒頭に申し上げたデータとデータの連携というところにつながってくるはずです。業界に限らず、その会社が持っているデータに、ラベルを付けて集約することができるようになると、「うちのデータと御社のデータをつなげませんか」といった連携もできるようになります。より未来の、より大きなテーマとして面白い製品だなと思っています。
今後、ユーザー数や売り上げなどで目標の数字はありますか。
売上でいうと、まずは2万社、20億円を目指したいです。あとは国税庁に導入されたりしたら面白いですよね。自治体には参入しつつありますし、何より自治体は横展開ができるので良いですね。
豆蔵を創業、上場させて、今は豆蔵K2TOPホールディングスの代表取締役会長兼社長をやられていますが、
目標である20億を達成し、何十億と成長していった先は、また上場をイメージされていますか。
私の会社、K2TOPはもう上場しません。この会社は個人的に「荻原家」と考えていますから、基本的に私の一存で動かしていく予定です。一方、ROBONは上場を目指します。そこでもし得た資金があったら、また次のサービスを探して育てていきたいと思っています。私に任せていただければ、4、5年あれば上場させる自信はありますね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
プロフィール |
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株式会社豆蔵K2TOPホールディングス 代表取締役会長兼社長 荻原 紀男
1958年生まれ。中央大学卒業後、外資系会計事務所及び監査法人を経て、荻原公認会計士税理士事務所開業。2000年 株式会社豆蔵(現 株式会社豆蔵ホールディングス)をITエンジニアとともに創業、2003年 同社代表取締役社長に就任し、従業員2,000人超の東証一部上場企業へと成長させる。2014年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)会長に就任。一般社団法人IT団体連盟でも幹事長を務めるなど、日本のIT産業発展のために日々奮闘中。2021年 4月 株式会社豆蔵 K2TOPホールディングス 代表取締役社長就任(現任)。2022年 6月 一般社団法人ソフトウェア協会 名誉会長就任(現任)。 |