先駆者が見据える上場第二幕
“会計人社長”荻原紀男が巻き起こすAI革命戦略 Vol.1
株式会社豆蔵K2TOPホールディングス 代表取締役会長兼社長 荻原 紀男
あらゆる分野でデジタル化が進む昨今、革新的な技術の導入により、これまでは当たり前とされてきた業務プロセスが一気に効率化されるという事例は決して珍しくはない。しかし、このような時代の変化にいち早く目をつけ、新時代に対応するビジネスモデルを確実に実現させた会計人は唯一無二ともいえるのではないだろうか。今回は、株式会社豆蔵の創業者であり、税務・労務相談ロボットサービスを提供する株式会社ROBON(ロボン)を立ち上げ、MBOを経て株式会社豆蔵K2TOPホールディングス代表取締役会長兼社長に就任した荻原紀男氏に、事業立ち上げの経緯や今後の展望にいたるまでの話を伺った。
クラウド時代到来の確信
面白い世界を作るには
会計士としてご活躍されていた会長がIT業界に足を踏み入れるにあたって、
何か大きなきっかけのようなものがあったのでしょうか。
25歳から13年間会計士として働いた後、38歳で独立しました。独立したのは良いものの、やはり税務業務というのは同じことの繰り返しで、このままの人生これでいいのかなと思った時に、たまたまアメリカ帰りの人から「この世の中を変えるには、開発手法を変える必要がある」という話を聞きました。
その言葉をきっかけに「これはぜひ会社をやるべきだ」と思い、ITコンサルティングとソフトウェア開発をメインとした豆蔵という会社を興しました。
途中2度ほど潰れそうになる中で、私が2003年に社長になり、その後1年半で上場まで漕ぎ着けました。それからずっと社長職に就いてきたのですが、当初から「この業界は必ず人が足りなくなるから上場後にはとにかく人を集めよう」という考えがあったので、お金を借りてはエンジニアをたくさん抱えた会社を買い取るということを繰り返していました。
経営する上で転機になることがあったのでしょうか。
クラウド時代の到来を確信したことかもしれません。6年前に大腸癌で入院していた時です。病院のベッドで寝ていることしかできず、暇なので天井をボーっと眺めていたら、ふとある考えが浮かんできたんです。間違いなく今後、データはオンプレではなくクラウドに上がるようになり、例えばAという製品とBという製品のデータを合わせていくと、Cという新しい価値を持つ製品が作れるかもしれない。だから、クラウド上にまずデータを乗せ、APIを開放してつなげるのはどうだろうかと。当時、たまたまソフトウェア協会の会長を務めていたのですが、これを作っていったら、とても面白い世界ができるのではないかと思いました。それで豆蔵グループのトップエンジニアにこの考えを相談してみたら、それは絶対やりましょうということになったんです。
具体的にはどのようなサービスが生まれたのでしょうか。
税理士のルーティン業務に縛られている人たちを解放してあげたいという気持ちは以前から強かったのですが、法人税の申告書でクラウド化されているものが存在していませんでした。それなら作ってみようということで、まず「申告クラウド」というものをリリースしました。
同様に、会計データも全てAPI連携で自動化させてしまえばよいのではないかとやってみました。申告書を作る時に会計データからエクセルにデータを落として、チェックして集計し、そのデータを移すという作業を、税理士の先生が年に4回もやるのは絶対に時間がもったいないなと思っていたからです。しかし、これは人気が出ませんでしたね。そもそも、会計データは税理士や経理の人ごとに入力の仕方が違うため、「このやり方に変えてください、そうすると自動化できます」といわれても納得感がなかったのだと思います。そうこうしているうちに生成AIが出てきて、人間側がやり方を変えずとも解決できてしまう時代になったため、今は生成AIを活用した仕組みを開発しているところです。
税務相談ロボット開発の裏側と全貌
今後の戦略とは
豆蔵の立ち上げ後、株式会社ROBONの提供する
税務相談ロボットの開発はどのような経緯で始まっていったのでしょうか。
私自身が代表を務めている税理士法人から、「会計事務所にとって税務相談は重要な業務の1つだけど、非常に時間がかかっている」と聞いたのがきっかけです。税務相談の対応方法を聞くと、キーワード検索をして該当する内容を拾っていき、ブログを書いている先生方の記事なども参考にしながら、最終的に自分でまとめるわけですが、これで6時間くらいかかってしまうそうなのです。それを聞いて、それは並列検索だから時間がかかるわけで、逆に縦検索ができればもっと瞬時に対応できるのではないかと考えました。
あともう一つは、国税です。確定申告時期に税務相談をしても、忙しいからまず受けてくれませんし、電話自体もつながらないという問題です。つながらないから直接区役所の税務課に行ってしまうというケースもありますよね。でも、区役所の税務課は元々そんなに担当職員が多いわけではないので、一つひとつ税務相談をされたら困るわけです。ここにニーズがあるのではないかと思ったのがきっかけです。
ただ、このサービスが、税理士法違反に触れるのではないかという心配もあったので、国税庁の税理士監理官に確認もしましたが、「これは検索エンジンであり、税務相談には当たらないので売ってもよい」という見解をもらうことができました。
基本的には、税理士の先生や一般の方が知りたいことが
出典元を明示しながら出てくるというのが、税務相談ロボットのメイン機能となりますよね。
このロボットシリーズの最大の特長は何ですか。
生成系AIの言語処理能力と深掘り機能が最大の強みではないでしょうか。データの一番良い読ませ方がわかったので、出典を明示し、どんな相談にも対応可能という点も強みですね。
開発以外にかかるコストはクラウドの利用料だけなので、税務相談ロボットは1回200円、1万円で月50回まで質問可能としています。これで十分採算は取れると考えています。さらに、税理士の先生方は、専門外ではあるものの労務相談を受けることも結構多いというので、労務相談ロボットも同様に開発しております。
やはり弁護士事務所に行くのは敷居が高いので、これなら気軽に質問が来るのではないかと思っています。開発には税務相談が6か月、労務は3か月間かかりました。基本的にはデータを読ませてテストし、並び順を変えることを繰り返すことが開発の手法になりますから、改良のスピードはどんどん速くなると思いますね。
ChatGPTの問題点は、誤りを含んだデータも参照してしまうことなんです。ですから税務相談ロボットでは、Azure Open AIを使って正しい情報だけがある閉じられた空間を作り、他のデータを見に行かないような仕様にしています。出典元はいつのデータかを明示しています。法令、通達、裁決事例、あるいは税務大学校の教本など、世の中に出ているものは全部ロボットに入っています。一方、問題は判例です。判例だけは経緯をすべて読み込ませてしまうと間違えてしまうので、こういう事例で結果がこうだというのを一旦作った上で読み込ませるようにしています。
会計事務所がこのソフトを使うことによって、どのように仕事が変わるとお考えですか。
また、今後ソフトをどのように売っていこうかという戦略のようなものはあるのでしょうか。
先ほど言ったように「時間の短縮」になると思っています。「本を開いて探すことこそが勉強だ」という先生もいらっしゃいますが、それは時間の無駄です。それくらいなら、他の仕事をさせた方が効率的ですよね。ソフトで検索すればするほど、その人の勉強の量も増え、知識も増えますし、アナログな作業だけが勉強につながるわけではないと考えています。
売り方に関しては、すでに一般企業様にも買っていただいていて、今後も地方自治体、企業、税理士事務所など、ニーズのあるところには売っていこうと考えています。
一般の方にとって、税理士に依頼せず税務相談ができるという点も、売りになると思っています。さらに、今後のサービス展開もいろいろと思い描いているところです。これは本当にニーズがあるかどうかわからないですが、1,741ある自治体の助成金や補助金データを常にリアルタイムで更新し、例えば「ここからここの期間に該当する助成金や補助金データを出して」と言われた時に、さっと一覧で出せるようなものを作ったら、結構売れるのではないかなと考えたりもしていますね。
プロフィール |
---|
株式会社豆蔵K2TOPホールディングス 代表取締役会長兼社長 荻原 紀男
1958年生まれ。中央大学卒業後、外資系会計事務所及び監査法人を経て、荻原公認会計士税理士事務所開業。2000年 株式会社豆蔵(現 株式会社豆蔵ホールディングス)をITエンジニアとともに創業、2003年 同社代表取締役社長に就任し、従業員2,000人超の東証一部上場企業へと成長させる。2014年 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)会長に就任。一般社団法人IT団体連盟でも幹事長を務めるなど、日本のIT産業発展のために日々奮闘中。2021年 4月 株式会社豆蔵 K2TOPホールディングス 代表取締役社長就任(現任)。2022年 6月 一般社団法人ソフトウェア協会 名誉会長就任(現任)。 |