飲食店を悩ませる無断キャンセル問題(知って得する法律相談所 第22回)
弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英
2022/1/14
01. 店・消費者側で認識が違う?飲食店を悩ませる無断キャンセル(No Show)問題
年末・年始は宴会シーズンとなるため、飲食店にとっては売上が上がる絶好の機会です。
しかし、新型コロナウイルスの影響で、ここ2年ほど忘年会や新年会が開催されていないことが多いと思います。
その反面、ワクチン接種や感染防止対策などを取りつつ、宴会を行える兆しが出てきたのではないでしょうか。
その一方で、飲食店の利用率が高まるにつれ、いわゆる「無断キャンセル」のリスクも高まることから、不安も多いと思われます。
たとえば、ある大学のサークルにおいて、50名前後で居酒屋に予約をしたものの、当日は無断キャンセルし、警察が介入したことから大きなニュースとなりました。
これ以降も、無断キャンセルは多発しており、「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」によれば、年間の被害額は約2000億円にものぼります。
客側からすると、「単に予約をしただけ」という認識があるかもしれません。しかし、お店側にとっては、食材費、それを仕込むための人件費、光熱費など様々な費用が発生します。
この費用を、無断キャンセルした消費者に賠償請求する事例も増加していますので、軽はずみな予約、無断キャンセルは避けなければなりません。
今回のコラムでは、無断キャンセルを行った消費者側のリスクについて紹介しながら、弁護士が事例を踏まえて解説します。
02.飲食店の悩みの一つ無断キャンセル(No Show)とは?
「無断キャンセル(No show)」とは、飲食店に予約をしたものの、当日になっても行かず、その後も連絡がつかないことです。
客側の言い分として多いのは、会社での接待などにおいて、相手の嗜好に応じられるよう複数のお店を同時に予約したが、他のお店には連絡をせずに、無断キャンセルするというケースがあります。
また、プライベートな利用であっても、とりあえず予約だけして、実際に行くかどうかはその時の気分に任せるというケースもあります。
さらに、無断キャンセルが頻繁に起こる要因として、webサイトからお店を簡単に調べられたり、すぐに予約を取れたりすることも挙げられます。
このようなことから、当事者意識が欠如しており、客側は何も責任を負わなくてよいという感覚が芽生えているのではないでしょうか。
03.消費者が無断キャンセル(No Show)することで負う責任
しかし、無断キャンセルをした場合、客側は本当に責任を負わないのでしょうか?
この点、ケースバイケースではありますが、民事上の責任を負うことがあります。
たとえば、飲食店を利用する契約に反するとして、債務不履行責任(民法第415条)、あるいは、食費や人件費などの費用負担があったにもかかわらずお店に来なかったことから不法行為責任(同第709条)が発生し、損害賠償を請求されるリスクがあります。
一般的に、飲食店を予約した時点で、ネット・電話を問わず契約(食事サービス提供)が成立すると考えられています。
具体的には、日時、席数、コース、金額などを消費者・お店間で明確に決めた場合や、コースは決めてないが席のみ予約した場合などが考えられます。
客側は、こうした責任が発生するおそれがあることを認識しておくべきでしょう。
このように多様な責任が発生することから、以下では、事例別に客側が負う責任を紹介します。
(1)コース予約に伴う責任
コース予約の場合、店側・客側の双方において、提供する食事の内容、日時、人数、来店理由などが明確になった状態で予約することが多いと思います。
このような場合、契約関係が明確になっていますので、客側にも、この契約内容にしたがうこと(履行)が求められます。
そのため、この時点で、契約上は無断キャンセルをしてはならないということがわかります。
無断キャンセルをした場合には、この契約を行わなかった(不履行)ことにもとづいて、損害賠償責任を負うリスクがあります。
また、店側は、同じコース内容(数量、日時など)を再販することは極めて難しくなることから、全額を請求される可能性が高いことにも注意が必要です。
(2)席のみ予約に伴う責任
店にとっては、どのような客が来店する場合であっても、準備すべきことにほとんど変わりはありません。そのため、予約があった時点で、さまざまな費用が発生します。
そして、無断キャンセルをした場合、お店側に損害を被らせたとして、損害賠償責任(不法行為責任)が発生するリスクがあります。
この場合、食材費、食材廃棄費、人件費、逸失利益(無断キャンセルが無ければ得られたはずの利益)などの実際に使った費用を元に請求されることになります。
また、契約の内容が確定していると考えられる場合には、コース予約と同じ責任が発生するおそれがあります。
(3)刑事上の責任も発生するおそれがある
これまでの話はあくまでも民事上の責任に関するものでした。
しかし、無断キャンセルを行った場合、著しく高い被害額や常習性によっては、刑事上の責任が問われる場合もあります。
たとえば、偽名で予約をし、お店側に多額の損害を被らせた場合には、偽計業務妨害罪(刑法第233条)が成立することがあり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられることがあります。
また、軽犯罪法上の業務妨害(第1条31号)に該当する場合もあり、拘留または科料を科せられる場合もあります。
04.予約を断る場合は無断キャンセル(No Show)せず飲食店にすぐ連絡を
事情によっては、予約をキャンセルすること自体は避けられない場合もあるかと思います。
店側も、急病や急用のため、どうしても来店できないことがあるのは、想定の範囲内であることがほとんどです。
そのため、万が一、当日お店に行くことができないときには、すぐに連絡することが必要です。
その際には、正直に理由を伝える必要があります。正直に伝えた場合には、店側もキャンセルに応じてくれるでしょう。
また、こうすることで、責任を問われることなく、店側も最小限の損害で済ますことができます。
ただし、当日または直近のキャンセルは、誠意をもって連絡をしたとしても、迷惑がかかることに変わりはありません。予約をする際には、軽はずみではなく、慎重に検討することが必要です。
05.まとめ
無断キャンセルをした場合には、お店側に損害を与えるだけでなく、その損害を賠償しなければならない状況になりうるということを理解いただけたかと思います。
正当な理由でどうしても行けない場合を除き、予約した際には必ず来店し、予約をする時には、変更のおそれがないかなど、十分に検討してから予約をするように心がけることが大切です。
もし、無断キャンセルをして、多額の賠償金を請求された場合には、消費者相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。