小規模宅地特例の申告要件に関する疑問<事業承継レポートVol.23>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬

2022/1/12

このコラムでは、『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』など多数の著書を持つ白井一馬先生が、事業承継に関する話題のトピックスなどを取り上げ、皆様にご紹介します。 ※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.98(2021.12)に掲載されたものです。

小規模宅地特例の申告要件に関する疑問


小規模宅地特例の手続要件は以下が組み合わさっているので、場面によっては判定が難しくなってきます。

1 小規模宅地特例は期限内申告だけでなく期限後・修正申告でも適用可能
2 申告期限から3年以内に宅地を分割することが要件
3 3年内に分割できた場合に限り更正の請求可能(ただし承認申請による延長あり)
4 小規模宅地特例は当初申告で選択した宅地・面積のみ適用可能

小規模宅地特例は4にあるように当初申告要件ありとされています。最初に申告するときにどの宅地に適用するかを選択し、限度となる範囲内で面積を選択する必要があります。そのため、たとえば修正申告をするときに、対象地を差し替えたり、適用面積を増やすのはダメというのが一般の見解です。

国税庁 質疑応答(遺留分減殺請求)
当初申告におけるその宅地に係る小規模宅地等の特例の適用について何らかの瑕疵がない場合には、その後、その適用対象宅地の選択換えをすることは許されないこととされていますが、……

ただ、このことが条文から読み取れるかというと必ずしも自明ではありません。条文では、まず、宅地を選択して、かつ、限度面積の範囲内でのみ適用を認めると言ってます(措法69の4①)。そして、適用は期限後申告、修正申告でもOKだとしています(措法69の4⑦)。

しかし、申告期限までに分割されていない宅地には適用しないことになっており(措法69の4④)、その場合は申告期限から3年以内に分割されたら、相続税法32条1項を準用して更正の請求が認められることになっています(措置法69の4⑤)。また、3年以内に訴えの提起があるなど分割できないやむを得ない事情がある場合は、務署長の承認を受けることで更正の請求期限を延長できることになっています。

たとえば次のような事例で小規模宅地特例が適用できるのか否かという疑問が生じます。

税務調査で名義預金の申告漏れを修正申告することになった。このとき、ついでに小規模宅地特例について、実は、被相続人から相続した実家の敷地について家なき子特例が適用できることが分かったので、当初の貸付事業用宅地の50%減額をやめて特定居住用宅地の80%減額に選択替えをしよう。

このケースでは名義預金の計上があるため更正の請求ではなく修正申告となります。修正申告の場合、小規模宅地特例を有利にするための差替えは条文上、認められる余地があるように思います。

法人税の減価償却のように損金経理を要件としたり、当初申告で明細に添付した金額に限り適用することを定めている場合、修正申告で追加計上することはできません。しかし、小規模宅地特例の場合、選択した宅地と面積を明細書に記載することは定められていますが、当初申告の記載額に限るとは規定されていません。

実際にこれが認められるか否かは解消しない疑問です。もちろん、このような差し替えはダメというのが一般の解説ではあるのですが、明確に条文からは読み取れないように思えます。

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