【令和6年度】国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等について解説

令和6年度の税制改正では、国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等が行われました。

インターネットを通じたデジタルサービスの分野では、日本に拠点を持たない国外事業者でも日本市場に参入しており、その際の消費税の課税については、国内事業者に比べて、国外事業者が有利になる状況も生じています。

そこで、かねてから、国境を越えたデジタルサービスに対する 消費税の課税のあり方について検討が進められており、今回の改正につながりました。

目次

事業者免税点制度とは

事業者免税点制度とは、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合には、消費税の納税義務が免除されるという制度です。基準期間とは、個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度のことです。

そのため、新たに開業した個人事業者や設立されたばかりの法人には基準期間がないため、原則として消費税の納税義務が免除されます。

その他、消費税については、様々な免税措置が設けられています。ただ、2023年10月に適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始されたことにより、免税されなくなった事業者も多いのが実情です。

国外事業者の取引と消費税

消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付け、役務の提供に課税されます。

そのため、国外事業者でも、日本国内の事業者や消費者から対価を得て取引を行う場合は、原則として、消費税課税の対象となります。

国外事業者の事業者免税点制度

国外事業者にも事業者免税点制度が適用されます。ただ、国内事業者向けの事業者免税点制度とは若干異なる特例制度が設けられています。

令和6年度税制改正では、この特例制度の見直しが行われています。どのように見直しが行われたのか一つ一つ確認しましょう。

国外事業者における「特定期間の課税売上高による納税義務の免除の特例」の見直し

事業者免税点制度では、基準期間における課税売上高が消費税課税の判断基準となりますが、基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間については課税事業者となります。

特定期間とは次の期間です。

  • 個人事業者:その年の前年1月1日から6月30日までの期間
  • 法人:原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6月の期間

そして、この特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額によることもできます。

つまり、課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額の合計額が1,000万円を超えていなければ、課税されないということです。

国内事業者については、今後もこの特例が適用されますが、国外事業者については修正されます。

具体的には、国外事業者については、特定期間における1,000万円の判定を給与等支払額の合計額により行うことはできないことになりました。つまり、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えている場合は、給与等支払額の合計額が1,000万円を超えていなくても、納税義務は免除されないということです。

なぜ、このような見直しが行われたかというと、従来の制度では、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた国外事業者が、非居住者への給与の支払額につき1,000万円を超えていたとしても、納税義務が免除される状況が生じていたためです。

外国法人が国内において事業を開始した場合の納税義務の免除の特例の見直し

事業者免税点制度では、基準期間、つまり、前々年の課税売上高が消費税課税の判断基準となります。そのため、新設法人については、事業開始から2年間は消費税が課税されないのが原則です。

ただ、事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の法人については、消費税の納税義務が免除されません。

外国法人については、本国での事業年度についても併せて判断していました。
本国で設立後2年以上経過した外国法人が、日本に進出した場合は本国において基準期間を有していたことになります。

そのため、日本で法人を設立した際に資本金の額または出資の金額が1,000万円以上だったとしても、消費税の納税義務が免除される状況が生じていました。

そこで、令和6年度の税制改正では、外国法人が本国において基準期間を有していたとしても、日本で法人を設立した時点を基準に2年間は消費税が課税されないのを原則とし、日本で設立した法人の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上ならば、消費税の納税義務が免除されないものとしました。

「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」における判定対象者に係る金額基準の見直し

事業者免税点制度では、基準期間、つまり、前々年の課税売上高が消費税課税の判断基準となるため、事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以下の法人は、事業開始から2年間は消費税が課税されないのが原則です。

ただ、一定の規模の大企業が出資して、資本金の額または出資の金額が1,000万円以下の法人を設立した場合まで、新規設立法人の消費税納税義務が免除されるのはおかしいとも考えられます。

そこで、国内における課税売上高が5億円を超えている企業(判定対象者)が出資して設立した法人については、特定新規設立法人とし、資本金の額または出資の金額が1,000万円以下であったとしても、消費税納税義務が免除されないこととされています。

主な該当要件は次の2点です。

  • 国内における課税売上高が5億円を超えている法人(判定対象者)が出資して設立した法人であること。
  • 出資した法人(判定対象者)が新規設立法人の株式等の50%超を直接又は間接に保有していること。

ただ、この要件は、「国内における課税売上高」のみが対象となっていました。

そのため、国外の同規模の法人が出資して、資本金の額または出資の金額が1,000万円以下の法人を設立したとしても、消費税納税義務が免除される状況が生じていました。

そこで、令和6年度の税制改正では、判定対象者の課税売上高について、国外におけるものも含んで判断することになりました。

具体的には、「売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が、国外におけるものも含め50億円を超える」法人が、国内において設立する法人については、特定新規設立法人とし、資本金の額または出資の金額が1,000万円以下であったとしても、消費税納税義務が免除されないことになりました。

恒久的施設を有しない国外事業者における簡易課税制度及び2割特例の適用の見直し

国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直しと共に、簡易課税制度及び2割特例の適用についても見直しが行われました。

まず、簡易課税制度及び2割特例の概要から確認しましょう。

簡易課税制度とは

消費税は、課税期間中の課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて計算するのが原則です。これを一般課税と言います。

しかし、一般課税で計算するためには、課税仕入れ等に係る消費税額を正確に把握していなければならず、中小事業者には負担が重いこともあります。

そこで、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度として、簡易課税制度が用意されています。

簡易課税制度を選択すれば次の計算式で消費税を算出できます。

課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額

みなし仕入率は業種ごとに次のように設定されています。

第1種事業(卸売業)90%
第2種事業(小売業等)小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)80%
第3種事業(製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など 70%
第4種事業(その他)飲食店業など60%
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業50%
第6種事業(不動産業)40%

2割特例とは

適格請求書等保存方式(インボイス制度)を機に免税事業者から適格請求書発行事業者となり、課税業者となった場合に特例的に利用できる制度です。

課税仕入れ等に係る消費税額を把握していなくても、課税期間中の課税売上げに係る消費税額に80%を掛けた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなすことができます。具体的な計算式は次のとおりです。

課税売上げに係る消費税額-(課税売上げに係る消費税額×80%)= 消費税額

一般課税と簡易課税制度のどちらを選択している場合でも、事前の届出なしで適用することができます。

国外事業者における簡易課税制度及び2割特例の適用

簡易課税制度及び2割特例は、国内事業者だけでなく、国外事業者も適用できます。

ただ、国外事業者の場合、国内における課税仕入れ等が想定されない事業者もいます。

そこで、令和6年度税制改正では、課税期間の初日において恒久的施設(PE)を有しない国外事業者については、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。

国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等の適用開始時期

国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

まとめ

令和6年度の税制改正により、国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用の見直し等が行われたことにより、国外事業者に対する消費税課税が強化されたと言えます。

会計事務所・税理士事務所としては、顧問先に国外事業者、とりわけ、国境を越えたデジタルサービスを展開する事業者がいる場合には、変更点を周知する必要があります。

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