心配な「スタグフレーション」(小宮一慶先生 経営コラム Vol.24)
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶
2021/12/20
本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol98.(2021.12)に掲載されたものです。
心配な「スタグフレーション」
コロナウイルスの猛威が日本では少し和らぎ、これから本格的な景気回復を期待したい時期ですが、私は「スタグフレーション」がこの国を襲うのではないかととても懸念しています。
スタグフレーションとは、停滞を意味する「スタッグ」と「インフレーション」の合成語です。景気があまりよくない中でインフレが起こると、景気をさらに悪化させることになりかねません。これまで1970年代後半の米国のカーター政権のときに経験しています。
日本の物価は、9月になりようやくプラスになりましたがそれまではマイナスが続きました。一方、ユーロ圏は3%台だったのが4%台に、米国ではこのところは5%台の物価上昇が続いています。中国は1%を切る程度の物価上昇です。他のアジア諸国は2%台の成長です。
中国の物価上昇率が低いのは、「共同富裕」のスローガンのもと、塾業界や恒大集団などの不動産大手などへの締め付け、それにともなう不動産市況への不安感、北京オリンピックを控えてのコロナ感染対策の強化などで、経済成長が鈍化しているからです。
つまり、経済の回復が鈍い日本と中国の消費者物価の上昇率が低く、とくに、経済の足腰が元々弱い日本は、物価上昇率が世界の中で「極端」と言っていいくらい低いということです。
しかし、同じ期間の日本の輸入物価や企業間物価の状況を重ね合わせると、見える風景が変わってきます。
輸入物価はここ数か月間は30%前後の上昇をしています。それに呼応するように、企業の仕入れ価格を表す企業物価は5%程度の上昇をしています。
つまり、何が起こっているのかはもうお分かりのように、企業の仕入れは大幅上昇しているのに、景気の足腰が弱いために最終消費財の価格に転嫁できない状況が続いてきたのです。
しかし、企業のほうも収益の悪化は避けなければならず、秋以降、値上げが相次いでいます。松屋が牛めし価格を並盛で60円と大幅上昇させたのに続き、吉野家も牛丼並盛の30円程度の値上げを発表しています。
また、皆さんもよくご存じのように、ガソリン価格もここ2か月以上上昇しました。ガソリン価格の上昇は、原油価格が1バレル80ドルを超える高値が続いているからです。
日本も今後は、インフレ率が上昇する可能性が高いのではないでしょうか。
こうした経済状況の中、日本で「スタグフレーション」が起こることを私は心配しています。
いずれにしても、発足間もない岸田政権の手腕が問われることになりそうです。