取引先の経営悪化などに備えた債権回収の準備【前半】<企業経営者へのアプローチに役立つ法律講座 第9回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/12/10
第9回 取引先の経営悪化などに備えた債権回収の準備【前半】
1 事前に備えておく方法
前回までは、少額訴訟について解説してきました。
少額訴訟は、裁判によって60万円以下の金銭の支払を請求する方法です。
ただ、少額訴訟は、金銭債権の回収のためには裁判をするしかない、または、裁判をした方がいい、というときの方法です。
裁判をしなくても、取引先の経営悪化などに備えて、あらかじめ対策を立てておくことができれば、裁判という手間をかけずに解決できるかもしれません。
では、裁判以外で債権回収の可能性を高めるには、どのような方法があるでしょうか。
2 保証・連帯保証という制度
例えば、A社がB社に対し500万円を貸し付けて、1年後にB社がA社に全額返済する、という約束をしたとします。
このA社とB社の間の契約は、金銭消費貸借契約(民法587条)と言います。
もし、A社が、「B社は1年後に本当に500万円を返済してくれるだろうか?」と思ったときに取れる方法が「保証」という制度です。
このとき、B社から頼まれてC社がB社の保証人になる場合には、C社は、A社との間で、保証契約を締結します。
保証契約とは、保証人(C社)は、主たる債務者(B社)がその債務(500万円をA社に返済するする債務)を履行しないときに、B社に代わって、A社に500万円を返済する義務を負うというものです。民法の保証の条文は以下のとおりです。
【民法】
(保証人の責任等)
第446条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
上記は単なる「保証人」ですが、債権者であるA社としては、C社との間で、より強い効力のある「連帯保証」という契約を締結しておくと、もっと安心です。
連帯保証人は、債権者から請求を受けた際に、「連帯保証人ではなくまず主たる債務者に請求しろ」(これを「催告の抗弁」といいます。民法452条)と主張することができません。つまり、債権者は、主たる債務者が支払わないときには、主たる債務者に先に請求しなくても、まず連帯保証人に支払いを請求することができるのです。そのほかの点でも、連帯保証人の方が、単なる保証人よりも、その責任は重くなっています。
3 保証に関する重要な民法改正
令和2年4月1日に施行された改正民法で、保証に関しても様々の重要な改正がありました。
その1つが、一定の保証契約では、「公正証書」の作成が義務付けられたという点です。
この改正は、事業のための資金等を負担する債務が主たる債務となっている保証契約は、その締結日の前1か月以内に作成された公正証書で、保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないというものです。
これは、事業用の資金等について保証人や連帯保証人になる者が、保証契約のリスクを十分に理解しているかどうかなどを、公正証書を必要とすることによって、見極めるためであるとされています。
このように、保証人や連帯保証人を付けることができれば、債権者の債権の保全はより安心にはなりますが、保証人・連帯保証人の責任は重いため、なかなか保証人・連帯保証人になる者がいないという難しい面もあります。
そこで次回は、取引先の経営悪化などに備えた債権回収の準備【後半】として、保証以外の方法について、説明いたします。