知財におけるマーケティング戦略<経営戦略のための知財Vol.20>
特許業務法人 浅村特許事務所
会長・弁理士 金井 建
2021/12/10
M&A、経営戦略、融資判断などで知的財産の占める割合が高まる中、その経済的価値を把握することは企業にとって必須です。そこで、業務に最適な知的財産価値評価サービスを提供している浅村特許事務所の金井建先生が、経営に役立つ知財の活用法について解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.97(2021.11)に掲載されたものです。
知財におけるマーケティング戦略⑤
ブランド戦略 5
前回に引き続き、ヤマトホールディングスの商標についてご説明します。
「クール宅急便」も商標登録がされていますが、「宅急便」の商標のように斜体ではありません。また、「急」の文字の「心」部分がデザインされていません。クール便のため、生鮮品等の品質を保つところに主眼が置かれ、クールな(冷たい)ことがアピールポイントであるため、斜体にして速いイメージとする必要がなく、また、「急」の文字もあえて“走るデザイン”にしなかったと思われます。
このように、商標デザインに商品やサービスの内容を反映させることは、その商品やサービスの品質や質を保証し、より提供物の価値を高めることとなり、商標のブランド価値の向上にもつながります。
2020年にヤマトホールディングスは、上図の新しい親子猫マークを出願しました。いずれの出願も、まだ登録にはなっていません。左図のデザインは親猫の足が2本になり、子猫の輪郭線が無い等シンプルな形になっています。しかし、商標全体の印象は従来のデザインと変わらず、その意味で長年の使用により築き上げてきたクロネコマークのブランド価値は引き継がれるでしょう。この出願は、すべての商品、役務区分を指定しています。輸送関連のほか、システム関連、電子決済等幅広く指定されているため、経営の今後の方向を念頭においた出願であることが分かります。
親猫と子猫の顔部分だけでデザインした右図のマークも、すべての区分を指定して出願がされています。多角経営を見据え、クロネコマークのブランド力を利用しつつ、左図のマークと使い分けをしていくものと思われます。2020年4月からこの2つのマークの使用を開始しています。
【記号商標】
会社の暖簾(のれん)マーク、文字等を図案化したマーク、文字を組み合わせた(モノグラム)マークのことをいいます。トヨタ自動車株式会社のトヨタマークとマクドナルドのゴールデンアーチマークをご紹介します。
トヨタマークは、楕円3つを組み合わせ、そのうち2つの楕円がTOYOTAの“T”をあらわしています。このトヨタマークのエンブレムを車につけることで、トヨタ車であることが容易にわかるようシンプルなデザインとなっています。
また、ゴールデンアーチマークはMcDonald’sの頭文字Mをデザインし、記号化したものと思われがちですが、実は米国の第一号店を覆うように設置された2つの大きなアーチ(ゴールデンアーチ)が由来となっています。
ブランド化したこのようなマークにも創作の由来があり、由来が興味を引くものであれば、さらにブランドの印象を高める広告としての効果が生じます。