SNSが凍結された!解除の手段は?<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.27>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.131(2024.9)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
「X」(Twitter)、Instagram、Facebook、YouTube等のSNSは、公の情報発信のみならず、ダイレクトメッセージ機能を用いて個人間の連絡手段としても広く活用されています。SNSアカウントを利用したダイレクトメッセージのやり取りしかなく、電話や電子メールは知らないという友人知人がいる方も増えているのではないでしょうか。
このように広く活用されているSNSアカウントですが、原則無料で利用できるということもあり、運営するプラットフォーマー側の判断によって、アカウントの利用が制限される(凍結)、アカウントが削除される等の措置が取られることがあります。利用規約に違反する行為があった場合に、凍結等の措置が取られてしまうことは仕方ないのですが、中には特段の違反行為がなくとも凍結されてしまうという実例も存在しています。
大手のSNSでは大量のアカウントについて審査をしなければならないという性質上、利用規約違反の認定や、凍結というペナルティの適用は、AIなりの機械的な処理にその大部分を委ねています。そのため、中には本来は利用規約違反などはなく、ペナルティの対象にはならないものが、“誤判定”によって凍結されてしまうという例もあります。また、アカウント使用者自身が違反行為をしていなくとも、アカウントが不正アクセスされ、その後不正アクセス者によるスパム行為等がなされることで、結果としてアカウントが凍結されてしまうという例もあります。
このような、誤判定なり、不正アクセスの場合は、正しく審査をしてもらえれば凍結の解除やアカウントの回復をしてもらえるのですが、プラットフォーマー側にいかにして審査を求めるかというハードルがあります。大量のアカウントが存在するという性質上、プラットフォーマーに対する連絡手段は、先方が用意しているウェブ上の連絡フォームに限られますが、自分のケースに合致するような選択肢が表示されなかったり、そもそも状況の説明に関するコミュニケーションが成立せずアカウントの回復まで至るのは相当に困難です。
インターネット関連の紛争を手掛ける私の元にも、この種の不当なアカウント凍結に関する相談は多数ありますが、前記のような問題から弁護士が介入してもなかなかフォームからの連絡で解決するのは難しいという認識です。連絡フォームの自動返信を担当しているAIに状況をいくら説明しても、通常のルートの外にある誤判定の問題ですので解決されません。とにかくまずは人間の担当者を交渉窓口に引っ張り出すことが必要になります。
ではどうするのか? とにかく裁判の土俵に乗せるということが大切です。法律的には、そもそも凍結解除を求める請求権がどのような根拠で発生するのか、裁判の管轄はどうなるのかという複雑な問題があり、論文が一本書けてしまうくらいですが、とにかく裁判の土俵に乗せて交渉をするということで解決できる場合が多いということだけ、このコラムではお伝えしたいと思います。私が担当したケースでも、明らかに不当な凍結と思われるケースではすべて裁判の中での交渉で凍結解除に至りました。特に問題のない利用しかしていないのにもかかわらず、いきなりアカウントを凍結されたという場合には、このような手段もご検討ください。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。