ネット投稿は誹謗中傷で逮捕も?(知って得する法律相談所 第19回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/10/20

01. 安易な悪口のネット投稿は誹謗中傷で逮捕も?法律も厳罰化の傾向に

私たちの生活に欠かせないインターネット。中でもTwitterなどのSNSは、利用しない日がないほど日常に浸透している方も多いでしょう。
その一方で、個人の情報発信が容易になった今の社会では、SNSやネット上の誹謗中傷に炎上騒動などが問題視されています。
いわゆる「炎上ネットリンチ」に遭い、心無い誹謗中傷が原因で命を落としてしまう痛ましい事件も多発しています。
 
もはや、大きな社会問題化しているインターネット上の誹謗中傷問題ですが、実際の逮捕者も急増する傾向にあり、法律の厳罰化も進んでいます。
具体的な対策として、本年(令和3年)4月21日に、「改正プロバイダ責任制限法」が全会一致で成立されました。
これにより、ネット上で誹謗中傷を行ったユーザーの特定が以前よりも簡易になります。また、法務省はネット上の誹謗中傷による侮辱罪の厳罰化のため、懲役刑を導入する方針を固めました。
 
安易な気持ちでSNSなどへ誹謗中傷の投稿を行い、それが原因で逮捕に至るという流れは今後も加速していくでしょう。総務省の「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について」というデータを見ても、「違法・有害情報相談センター」への相談件数の増加が見て取れます。
平成22年時点で1,337件だった相談件数は令和1年で5,198件にまで増加しています。
そして、このような公共機関へは相談せず、警察や弁護士などに被害相談を直接されている方も同じように増加しているといえます。
 
それでは、法律上では、ネット上の書き込みのどこまでが許容範囲でどこからが誹謗中傷行為と判断されるのでしょうか。
今回のコラムでは、その気になる境界線について、法律的な観点から解説します。

02.ネット上の悪口や誹謗中傷は訴えられたら逮捕の可能性あり【刑事罰も】

まず、前提として、ネット上の悪口や誹謗中傷は犯罪行為に該当する可能性があります。
侮辱罪(刑法第231条)や名誉毀損罪(刑法第230条)、信用毀損罪・業務妨害罪(刑法第233条)に該当し、悪質な場合は逮捕に至ることもあるでしょう。
また、民法上の不法行為(民法第709条)にも該当し、損害賠償を請求される可能性もあります。
 
一昔前は「ネット上では言ったもの勝ち」「匿名だから言いたい放題」という風潮があったかもしれませんが、これは今ではまったく通用しません。
ネットユーザーの間でも「ネット上で誹謗中傷を受けたら警察や弁護士に相談して相手を特定できる」というリテラシーが浸透してきているため、過去の価値観のまま誹謗中傷や悪口を投稿すると、相応の報いを受けることとなります。刑事上の罪に問われたり、民事上の損害賠償責任を負う可能性があるのです。

03.誹謗中傷は名誉棄損や権利侵害等に該当【ネット悪口投稿は犯罪】

ネット上の誹謗中傷や悪口が犯罪行為に該当する可能性が高いことを説明しましたが、具体的にどのような行為が罪に問われるのかを見ていきます。
前述の通り、ネット上で誹謗中傷を行うことは下記の罪に問われる可能性があり、それぞれの罰則は次の通りです。
 
・侮辱罪:拘留または科料
・名誉棄損罪:3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金
・信用毀損罪、業務妨害罪:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
 
これらを詳しく順番に見ていきます。

03-1. 侮辱罪に該当する場合
侮辱罪とは、社会的な名誉を保護するため「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」と定められています(刑法第231条)。
たとえば、事実や具体性のない「〇〇さんは頭が悪すぎる」「〇〇は消えてしまえばいいのに」といった内容の誹謗中傷が侮辱罪に該当します。
 
03-2. 名誉棄損罪に該当する場合
名誉棄損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」として定められています(刑法第230条)。
たとえば、証拠があれば事実と分かる「〇〇は前科持ちだ」「〇〇さんは不倫をしている」といった内容の誹謗中傷が、名誉棄損罪に該当します。
ポイントは、内容が本当かどうかは関係なく、具体的な事実を摘示しているかどうかであるという点です。虚偽の内容の誹謗中傷でも、具体的な内容を記した場合は該当する可能性が高くなります。
 
03-3. 信用毀損罪、業務妨害罪に該当する場合
信用毀損罪、業務妨害罪は、虚偽の風説を流布すること、または偽計を用いて、人の信用を毀損することで成立する罪です(刑法第233条)。
事件や事故に関するデマの投稿、会社企業への誹謗中傷、バイトテロなどが該当することが多くあります。人や企業の社会的信頼全般を損なう行為ほか、その結果、業務妨害につながる場合などに成立します。
 
03-4. 不法行為責任に該当する場合
また、これらの犯罪行為により刑罰を受けるだけでなく、不法行為による損害賠償を請求される可能性もあります。
ネット上の誹謗中傷における不法行為責任とは、プライバシー権や知的財産権など、個人や企業が持つ各種権利の侵害により発生する責任のことを言います。
プライバシー権とは、個人の私生活における私事を保護する権利のことです。その他、知的財産権の侵害や秘密情報の流出など、会社企業の営業機密をみだりに公開した場合に該当することもあります。
 
「〇〇さんの自宅は東京都▽▽区~~のマンション何号室であると特定」「〇〇社の商品■■は公表されていないが××という技術の応用が使われている」といった、個人の私生活情報を公開したり、企業が事業運営する上で有用な技術情報で公然と知られていないものを公開したりする場合に該当することがあります。

04.ネット上の誹謗中傷は法律も厳罰化が進み訴えられたら逮捕の可能性あり

以上、インターネット上の誹謗中傷や悪口はどこからが犯罪でどのような刑罰を科されるのかについて解説しました。まとめると次の通りです。
 
・インターネット上での誹謗中傷や悪口は犯罪となる可能性が高い
・侮辱罪、名誉棄損罪、信用毀損罪・業務妨害罪、不法行為責任などに該当する
・侮辱罪は厳罰化の傾向にあり、逮捕の可能性はもちろん懲役刑導入の方針も
 
誹謗中傷をはじめ、炎上によるネットリンチは、人の命にも関わるセンシティブな問題です。
匿名性の高いインターネットという環境や、する側とされる側で精神的・経済的な負荷に大きな差異があることもあり、思いがけず気軽に投稿したり他者の誹謗中傷に加担したりしてしまうことは誰にでもあることです。
 
しかし、インターネット上とはいえ、ご自身の発言や発信には責任がともなう世の中となりました。
言っていいこと悪いことは、現実社会と何も変わりません。投稿する前に一呼吸「不適切ではないか」考える習慣をつけると良いでしょう。
ご自身がインターネット上で言われなき誹謗中傷を受けてしまった場合はもちろん、誹謗中傷をしてしまい訴えを起こされた場合などは、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

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