社会変化で機会を掴むための企業戦略<中小中堅企業のためのSDGs実践編Vol.5>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長
情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2021/10/15

このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.96(2021.10)に掲載されたものです。

「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略で既存事業を拡張する①


さて、今回から、「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略、そのうちの「②既存事業の拡張」アプローチに注目します。既存事業の拡張によりSDGsに取り組むという試みは多くの企業で取り組まれています。しかし、実際はSDGsの達成への貢献どころか、SDGsウォッシュを生み出してしまうことが多いのが現状です。なぜならば、既存事業における3つのアップデートを実施できていないからです。

その3つのアップデートとは、事業目的のアップデート、社会インパクトのアップデート、チャネルのアップデートです。まず、事業目的のアップデートから説明します。現在、世界は大きく変わっています。そのため、改めて既存事業の社会における意義を「WHY?」と問い直し、設定し直す、もしくは認識し直す必要があります。実際、多くの企業がコロナ禍においてこの事業目的の見直しを行いました。それは従来のままでは事業が行えなくなった、顧客が来なくなってしまった、という事業存続の危機に立たされたためです。同様の取り組みを、窮地に追い込まれる前にビジネスチャンスを拡大するために主体的に行う、それが事業目的のアップデートです。

SDGsの世界では、これをアウトサイドインと呼ぶことがあります。地球規模課題を学ぶことで社会の変化を知り、その後事業が有する新たな可能性を引き出していく、外から内へ向かう思考をアウトサイドインと呼びます。アウトサイドインという考え方は広がりつつありますが、SDGsのゴールとの照合で満足し事業の正当性を主張するだけに留まっている人が多いのも現状です。それでは社会の変容は起こりませんので、結果としてSDGsウォッシュになってしまいます。重要なのはいま何をしているか以上に、これから社会をどう変えていけるかです。そのため、自分でも気づいていなかった既存事業の持つ可能性を表すフックを作れるかどうかがとても大事になります。ここでは、フックを人の興味/関心を呼び起こす手がかりという意味で使っていますが、このフックが多ければ多いほど事業の拡張性は高くなっていきます。

例えば、以前基礎編で紹介したエコシステムという会社では、瓦をリサイクルし道路の舗装材を作るという事業を行っています。この事業は一見すると「ゴール12 つくる責任 つかう責任」に直結する事業のように思えます。しかし、それだけではなく、作った舗装材は浸水性も保水性も高いため、ヒートアイランド現象や都市型洪水への対策としても効果を持ちえます。技術という視点から見るとリサイクルという課題解決を注目してしまいますが、社会課題という視点から見ると都市化や気候変動等の地球規模課題の解決にも役立つことが見えてきます。

残念ながら、事業目的のアップデートではここまでしかできません。フックに気づくだけではなく、それが本当に社会インパクトを生み出すのか、自分で実験する。それができるかどうかがSDGsウォッシュかどうかの境目になってきます。次回は、次の社会インパクトのアップデートについて解説します。

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