“リーダーシップ型”の岩永悠と“ボトムアップ型”の出川裕基
会計業界の最強バディが進める多拠点化の先にあるものは Vol.1

アイユーコンサルティンググループ 代表取締役社長・税理士 岩永 悠
アイユーコンサルティンググループ 代表取締役副社長・税理士 出川 裕基

相続・事業承継に特化した税理士法人アイユーコンサルティングを母体に、全国11か所に拠点を構えるアイユーコンサルティンググループ。この組織をまとめているのが、岩永悠先生と出川裕基先生だ。共同代表制をとっている事務所はそれほど多くない中、互いの得意分野が全く異なっているからこそ、共同代表制にはメリットしか感じないと語る二人。今年7月には山口事務所を開設し、年内には広島事務所の拡張も控えているという。さらに2025年以降は東京(都内2拠点目)、千葉、名古屋、鹿児島、熊本、長崎での拠点開設を計画。ますます多拠点化を進める先にはどのような展望が広がっているのか。岩永先生と出川先生に話を聞いた。

点で存在感を出す「大阪~鹿児島相続ベルト構造」

貴社は全国に9事務所、2営業所の11拠点で展開されていますが、多拠点経営のメリットについて教えてください。

岩永:当社は相続を中心に運営していますが、実は全国トップ5の相続事務所の相続申告件数を合わせても、全国で行われている相続税申告の6~7%ほどにしか相当しません。つまり税申告自体、地元の先生がやはり強いのです。そうなると、拠点の数によって相続件数の母数が決まってしまうため、拠点が多いほど案件が増えることになります。加えて、当社は福岡発祥の税理士法人。西日本エリアを中心に他拠点で横展開を進め、各地方のニーズをしっかりと取り込んでいくことが組織の成長拡大に欠かせないと考えています。

出川:また、当社のお客様は提携先からの紹介がほとんどですが、証券会社をはじめとする紹介者は他にも付き合っている会計事務所があるため、紹介数もおのずと制限され、売上のアッパーが決まってしまいます。それが多拠点展開によって、多くの紹介者とお付き合いできることで売上の幅を広げられるのはかなりのメリットを感じます。

岩永:東京とそれ以外の地域の違いで言うと、首都圏は競合も多く、人件費も地方と比べて高いため、相続案件の受注のみだと経営的に厳しい面があります。しかし、最新の業界動向の情報や大口案件等は東京に集中しているため、そのあたりをカバーするという意味でも拠点は必要だと考えています。 一方で、地方は東京と比較すると相続のパイは少ないものの、競合が少なく、単価も比較的維持しやすい傾向にあります。そのため安定した売り上げを立てていくためには、地方での拠点展開は必須と言えます。

出川:もう一つ、多拠点化のメリットとして、社員が地元に戻りたいといった場合に、そこに拠点を作り、拠点長として送り出すことができます。責任ある立場で地元で働けることは、社員のモチベーション向上や成長につながります。この7月に開設した山口事務所が、まさにこのケースです。
あとはポストが複数できることもメリットに挙げられます。1拠点だけだと、どうしても要職のポストの数が限られてしまいますが、やはり税理士として一国一城の主になりたいという社員もいるでしょう。そうした社員の意欲を無駄にしないためにも、拠点長には人事権も渡し、拠点運営を一任する前提で組織運営をしてもらっています。また、この業界はマネジメントができる方がとても少ないため、最近では、拠点長を志望する方も新規で募集しています。ただし、ゼネラルマネージャーにならないと、拠点長にはなれない決まりになっています。

社員の事情で拠点を増やすということは、やりたいと思ってもなかなかできないことですよね。どのような経緯があったのでしょうか。

出川:実は2023年に開設した大阪事務所は、元々、福岡事務所で勤務していた社員から、結婚を機に大阪に引っ越すという申し出があり、それならば大阪に事務所を開設してしまおうというのが発端でした。スタッフは現地で採用することもありますが、結婚や地元へのUターン希望など、スタッフの要望を汲み取った形で拠点展開をしているのも当グループの特長かもしれません。

岩永:人口の多い東名阪以外で強い税理士法人は、地場の有力事務所と言われるところ以外、そう多くないのですよ。今回の新設は山口ですが、今後は関東首都圏や九州での新規拠点開設も予定しています。基本的には、大阪以西の新幹線沿いの主要都市にはすべて事務所を開設したいと考えています。我々の提携先に全国規模の大手証券会社があるのですが、地方にも拠点をもつことで、多くの支店におけるサービス提供が全国均一になっていくことも大きなメリットであると言えますね。

積極的に取り組みたい
ゆるやかなパートナー制度がもたらすもの

昨年の7月に山梨県甲府市の藤原会計事務所がグループの傘下に入りましたが、今後もこうしたパートナー制度は増えていくのでしょうか。

岩永:このパートナー制度は、資本関係のないゆるやかな提携で、お互いウィンウィンの関係になるような契約です。当社は「日本のミライに豊かさを」をビジョンとして掲げ、相続と事業承継を軸に中小企業と資産家を支え続けてきていますが、リソース不足などが原因で、こうした取り組みを行っていない会計事務所も中にはあります。そこで、私たちとグルーピングをさせていただくことで、弊社の営業や知識のノウハウを共有しながら、時には業務をお手伝いすることで、一人でも多くのお客様を豊かにしたいのです。
また、後継者不足に悩んでいる会計事務所にとっては、パートナー制度を結ぶことで、走れるところまで走った後に最終的に事務所運営の責任を取ってくれる人がいるという安心感を得られます。前述の藤原会計事務所も、所長先生は今50代半ばですが、後継者がいないため、いざ何かあったときにセーフティネットとして、どこかの傘下に入っておきたかったとのことでした。逆に当社としても、グルーピングすることで、私たちが知らない知見を得られますし、シナジー効果を生み出すこともあります。今後も後継者に悩む事務所の先生や、若い先生でも、近い将来のジョインを前提として、機会があれば積極的にパートナー制度を活用しながら拠点展開を図っていきたいですね。

出川:ビジョンや理念の共有を大事にしているので、いきなりM&Aという形ではなく、この制度を取り入れています。顧問業務と比べてスポットで臨機応変な対応が求められることが多いため、社員が思いを一つにしないと、サービス品質の均一化は図れませんから。そのような段階を踏んで、最終的にはM&Aを積極的に行っていきたいと考えています。

全く異なるタイプだからこそ相乗効果が大きい
代表二人の関係性とは

貴社は、岩永先生と出川先生の共同代表制で運営していますが、共同代表制のよさについて教えてください。

出川:私たちの場合、共同代表制はメリットしかありません。お客様の販路拡大を所長が一人で行う事務所が多いですが、私も岩永も営業に強く、トップ営業を2馬力でできる分、事務所の成長も早まります。また、2人とも目指すところは一緒ですが、進め方や考え方が異なるため、お客様からすると、どちらかの意見に納得していただけることがほとんどです。

岩永:私たちは得意分野が営業でも全く違いますし、出川は話すと理路整然としていますが、見た目からか(笑)個性的な方によく気に入られます。私はどちらかと言うと金融機関や証券会社の営業が得意なので、2人で異なる市場を同時に開拓できる強みはありますね。

お二人のタイプや考え方の違いは、どういった点なのでしょうか。

出川:岩永はどちらかと言えばトップダウンで進めるタイプ。一方で、私はよく今どきの経営者っぽいと言われますし、岩永と比べるとボトムアップと言えるかもしれません。
これには各事務所のカラーもからんでいて、福岡事務所は他拠点に比べて物静かな印象ながら、組織や上司を支えていきたいと考える方が多いのですが、東京事務所はそれぞれがはっきりとした意見を持っているため、上からの指示を受けるというよりは、メンバーから上がってきた良い意見をどう引っ張り上げて運営に反映させていくかを考えていく方が合っていると感じています。

ただ、仮に私たちが東京と福岡を入れ替えて所長を務めても、あくまでも全体のことは2人で動かしているので、組織運営に影響はないと考えています。

岩永:出川は、極端な話、個人的な数字もこと細かく見ていくタイプなのに対して、私はチームとして達成すればよいというタイプです。ダブル代表制で最も重要なのは最終的な主導権をどちらかが持っているということと、二人の専門分野が違うことだと思います。また、全拠点でみると、グループの母体である税理士法人アイユーコンサルティングには、私と出川のほかに神谷という代表社員がいます。西日本統括として拠点の多い西日本エリアを見てくれているだけでなく、全体の内部統制もしているので、私たちは提携先の新規開拓やグループ運営に注力できる、というような感じです。

プロフィール
アイユーコンサルティンググループ 代表取締役社長・税理士 岩永 悠

西南学院大学経済学部卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。2007年に九州の中堅税理士法人に入社。26歳で税理士登録後、国内大手税理士法人の福岡事務所設立に参画。13年岩永悠税理士事務所として独立、15年税理士法人アイユーコンサルティングに改組し法人化。19年よりグループ化に着手し、現在7法人1事務所体制でグループを運営している。 創業者としてグループ経営に携わる一方で、自身も組織再編を活用した高度な事業承継、相続対策を提案・実行。提案型コンサルタントとして大型案件を中心に実務を行いながら、セミナー活動や団体活動を中心に業界発展のために力を注いでいる。

アイユーコンサルティンググループ 代表取締役副社長・税理士 出川 裕基

法政大学経済学部卒業。2009年に国内大手税理士法人の東京本社に入社。同所では最年少マネージャー職を担い、相続税申告、事業承継、組織再編及び地主の相続対策など数百件以上の資産税案件を手掛けてきた。M&Aや上場会社顧問、医療・公益案件にも携わり、専門領域は多分野に及ぶ。 17年よりアイユーコンサルティンググループに参画し、共同代表となる。グループビジョンのもと、会計事務所の枠に捉われない新規事業創造・グループ展開を進めている。現在は大型の事業承継・相続案件を中心に実務を行いながら、金融機関や全国の専門家に向けての講演・執筆活動を通じて、業界活性化のために尽力している。

ーー* 次回へつづく *ーー

  

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